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「花ちゃんは……明日からどうするの?」

 今日は僕に会いに来てくれたけれど、明日以降の予定をまだ確認せずにいた。

 何故なら姉は単に弟の住む場所へだけであって、この場に留まる必要がないからだ。

「そうだなぁ……明日は月曜日だもんね、太ちゃんの大学に潜入してみようかな」

 #悪戯____#するみたいな表情で、姉はそんな事を言う。

「やめてよ、恥ずかしい」

 嬉しい癖に、僕は「弟」らしくそっけない返答をしてやり……

「24歳が大学生のフリしちゃダメ? 学歴は持てなかったけど気分だけでも味わってみたいなぁ」
「ふふ」

 姉の冗談を「大人」がするみたいに笑い飛ばし分かりやすく笑ってみせた。

「……」
「…………」

 直後、沈黙が流れる。

 沈黙は「無」だ。
 僕の唇はその冗談に真剣に乗ろうという気でいたけれど、のを強固にさせる。

(「花ちゃんがそうしたいなら大学生ごっこしてみようよ」とか「一緒に手を繋いでキャンパスを歩こう! 案内してあげる!」って……言えたら良かったのに)

 縫い付けられた糸がなければ僕の唇は簡単にそう動かし喉も舌も使って大きく明るい声を発していたのだろう。

(出来るわけ……ないか)

 でも現実の僕はどうだ。醜い笑顔を張りつかせて曖昧な鼻笑いをしているだけじゃないか。あの男とやっている事は変わらない。

「九州ってさ、思ったよりも広いんだよ。
 慰謝料でもなんでも、花ちゃんの持ってるお金をパーッと使って旅行しちゃいなよ」
「えっ?」

 それだけではない。心にもない言葉ばかりがポンポンと出てきて太腿の密着も解いてしまう。

「だって花ちゃんは大人だよ。自由な身になったんだから、もっといろんな景色を見て美味しいものをたくさん食べて楽しい時間を過ごすべきなんだよ」

 僕だけが立ち上がり、花ちゃんを見下ろすと海風の悪戯で白いワンピースの裾がふわりと持ち上がり……
 花ちゃんが、九州のそのまた先に生息するという白くて大きな蝶のように感じられた。

 だって花ちゃんは昨日までは土着的な土地に根を生やす一輪の花でしかなかったし、種を生むことなく枯れそうになっていたのだから。
 だとすれば僕の小さな手でその花をもぎ取り手品のように金色のさなぎに変えて橋を越えさせたのだと比喩してもいい。
 最愛の姉が全てのしがらみから耐えてジッとする時代からは過ぎてしまったのだから。
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