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Chapter9:甘える

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 数日後……

『もしもし、あお?』

 母さんから電話がかかってきた。

「うん……
『久しぶりね、元気してた?』

 約1年ぶりなんじゃないだろうか? 声に変わりなくて懐かしいと感じつつも……。

「うん、母さんも元気そうだね。マコやシンも元気してるの?」
『もちろん元気よ~』

 陽気すぎるその声に胸が騒つく。

「そっか……」

 取り敢えず、血を分けた弟妹が病気なく暮らしていると知れてホッとしたんだけど……。

『寧ろ元気過ぎるくらいよ! 真司しんじは大好きなボールを日が暮れても追っ掛けてて勉強そっちのけって感じだし、真琴まことなんて再来年の振袖選びに夢中っ!』
「そっか、マコ……19歳だもんな」

「振袖」で、今回の電話のが汲み取れてしまい、唇をキュッと噛む。

『そうそうっ! 成人式って中学の同窓会も兼ねるでしょ? なんか気合い入っちゃってんのよ』
「……」

 母さんはきっと知らない。俺が成人式にも中学の同窓会にも参加していない事を。だから無邪気に「成人式って中学の同窓会も兼ねるんでしょ?」なんて軽々しい口が叩けるし……

『ま、可愛いわよね~♪ 着飾ってこそが女の子な訳だし』
「…………で、いくら?」
『えっ?』
「マコが選ぼうとしてる振袖……どうせブランドモノとか有名デザイナー監修とかのヤツでんだろ?」

 10年以上前に俺を金で売った癖に、こうやって何度も何度も金の無心が出来るんだ。

『やっ…………やぁだぁ、蒼ったら過ぎ~~!!』

 図星だったようで、一瞬狼狽えるものの……

『20万くらいさぁ……貯金ってなぁい?』

 具体的な数字を恥ずかしげもなく告げてきた。

(本当に…………息子として恥ずかしい。こんな、だらしがない母親で)

「……」
『ねー、ごめんってばぁ。あの人に言って貰ったお金、ちょっと増やそうっかな~って思ったんだけど失敗しちゃって♪ もう阪井の家には嘘つけないし。蒼しか頼れないのよ~!』
「…………」

(去年『もうパチンコとはスッパリ縁を切る!』って言った癖に結局ダラダラ続けてるし……)

 1年ぶりだから「もしや」と思っていた事がそのまんま的中して、はらわたが煮え繰り返るようだ。

(旦那さんは腹が立たないんだろうか? 父さんでも愛想を尽かしたっていうのに……)

 イライラしながらそんな事を考えたんだけれど、すぐに……

んだろうし、旦那さんも旦那さんで母さんをワガママ放題にさせているんだろうな。なんたって旦那さんは母さんにとって「優しい夫」なんだから)

 に気付いて余計に苛立ってくる。

『そう言えばさぁ~、蒼はどこに就職するの? 内定式とか済んだんでしょ? 春からはお給料いっぱい貰えそ』
「40万!」

 俺は母さんの話をぶった切って、大きな声で提示してきた倍の金額を口にする。

『えぇっ?』

 すると、母さんの声が2トーンも明るくなった。

「明日母さんの口座に振り込む……それでいいでしょ?」
『いいでしょって……いいの? そんなにたくさんのお金……』

 一応狼狽えているような雰囲気を出しているけれど、声の明るさから「嬉しくて仕方がない」というのがダダ漏れだ。

「いいよ、また足りなくなっても困るし……マコの分を出してシンの分を出さないってのは不公平になるから」
『男の子はそんなにお金かからないわよ~♪』
「いいよ、余った分は学費にでもなんでも使って貰えばいいし」

 一応はそう言ってみるものの、現実はならないという未来は見えている。

『蒼って本当にいいお兄ちゃんだわ~♪ ありがとー!』
「……じゃ、忙しいからもう切るね」

 これ以上声を聞いてられないと思った俺は早々に電話を切り……

「はぁ…………」

 長い溜め息をついて……

「電話こなくなったなーって思ったら、かぁ…………」

 年金や健康保険を自己負担してでもバイトに専念しておいて良かったと本気で思ったし


「『長男だから』って甘えて来られるの、めちゃくちゃムカつく……」

 はなに対して「甘えてほしい」なんて言っていたというのに、今では黒い感情が全身を支配していて

「あー…………もう、やだ…………」

 しばらく俺はその場にしゃがみ込み、頭をめちゃくちゃに掻きむしっていたのだった…………。
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