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Chapter:8ハロウィンコスプレイベント
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しおりを挟む「ハロウィンイベントでオオカミのコスプレをするの? あおくんが?」
……というわけで。
バイト終わりにあおくんに電話をかけようと思っていたら突然彼の方からビデオ通話のお誘いがきて、現在の時刻は22時過ぎ。
『そうなんだ……』
スマホ画面にはガックリと落ち込んでるあおくんが映し出されていた。
「っていうか、商店街でもハロウィンイベントやっていたんだね。そこにビックリ!」
あおくんが働いている商店街は、地元住民に愛されてきている古き良き商店街って雰囲気がある。
お花屋さんや珈琲店みたいにお若い経営者の方もいらっしゃるけど、イベントを大々的に実施するようなイメージはなかったんだ。
『あの商店街でイベントをやるのは今年が4回目でさ、10月最後の日曜日に各店舗がお客様向けに特別サービスをするんだよ。
商店街でお買い物を1家族2000円分のレシートを受付で見せたらフェイスペイントサービスが受けられるんだ。また、特定の店舗では子ども向けにお菓子や商品の無料配布もやるの』
「へぇ~! すごい!」
『特にフラワーショップ田上は商店街アーケードのスタート地点にいるからさ、イベント開催のお知らせを兼ねて一輪ずつ包装されたお花を配っててね、過去3回とも俺が担当したんだよ』
感心すると共に、そんなに前からあおくんもイベントの為にいっぱい準備して当日忙しく働いていたんだと知り申し訳ない気持ちになった。
(そりゃあ、あおくんも私との会話で「ハロウィンにお出かけ」なんて案が出てくるはずがないよね……。
イベント前日にはお花を一輪ずつラッピング包装する作業、当日にはお花を配る役ってめちゃくちゃ忙しくしてるんだもん。遊びに行く暇なんてないよぅ)
「でもさっきあおくんは『オオカミ』って言ったよね?」
『そうなんだ。オオカミのコスプレをしてフェイスペイントをやる事になっちゃって』
「今回あおくんが担当するのはお花配りじゃなくて、フェイスペイントをするオオカミ役……?」
どうやら今回はお花配りではないポジションにつくらしく、それがこのガッカリポーズを生み出しているらしい。
『初回から去年までの3回とも、After The Rainの土曜日に居る村川亮輔さんがボランティアでフェイスペイントをしていたんだ。
イベント受付は目立っておかないといけないから、亮輔さんと朝香さんはオオカミと赤ずきんって本格的なコスプレをやってて2人ともめちゃくちゃ働いていたんだよ。もちろん朝香さんは珈琲店でのお仕事だけどね。
オオカミ役の亮輔さん、商店街の店の人全員とお客様のフェイスペイントをするから……200人以上毎回やっていたんじゃないかなぁ』
「200人?! それは大変だね……でも朝香さんってもうすぐ赤ちゃんが産まれて大変な時期で、亮輔さんも朝香さんの手助けをしてあげなきゃいけない。だから今回のイベントはオオカミ役が出来なくなっちゃったんだね」
あおくんの話で、ようやく「お腹の大きなポニーテール美人店員さん」との記憶が繋がった。
(亮輔さんと朝香さんは赤ちゃんご誕生を控えたご夫婦……そりゃ例年通りにってわけにはいかなくなるよね)
『そうなんだよ……流石に今年は休まざるを得ない状況なんだ。ただでさえ亮輔さんは平日はお仕事、土曜日はイクメンパパさんの日をやってるから日曜日まで稼働させるのも良くないんだよね』
「なるほどぉ」
『亮輔さんってさ、絵や工作がめちゃくちゃ上手なんだよ。はなも見たんじゃない? 俺がお泊まりする日にコーヒーをわざわざ『After The Rain』まで買いに行ったでしょ。今の時期店内に飾られているハロウィンモチーフのペーパークラフト、あれは亮輔さんの手作り品なんだよ』
「えっ?! あの可愛らしいハロウィンのお飾りって市販品じゃなくて手作り品なの?!!」
『うん……ちなみにハロウィンが終わったらクリスマスオーナメントも毎年飾られるよ』
「そんな人がフェイスペイント……そりゃあイベントも大盛り上がりになるよね」
『うん……そうだね。たまたま亮輔さんがオオカミのコスプレをしてフェイスペイントをやってただけなんだけど、SNSで去年も一昨年もちょっとした話題になっちゃってね。お客様も商店街のメンバーもオオカミ=フェイスペイント役って強いイメージがついちゃってて。いざ亮輔さんの代わりを……ってなった時に誰も手をあげる人居なくて。周り回ってバイトの俺に回ってきたという事なんだ』
あおくんの説明で、何故にここまであおくんがガッカリしているのかをようやく理解出来た。
「プレッシャー感じちゃうね、あおくん」
『うん、そうなんだ』
まず一つ、絵が上手な方の代役として選ばれたあおくんはフェイスペイントの経験がなく自信がない。
「とはいえあおくんも断れないんだよね? だってお花屋さんのバイトが出来るのもあと4ヶ月くらいなんだもん」
『そうなんだよ……俺だってそれなりに恩があるからねあの商店街には』
そして二つ目の理由として、恩義を感じている商店街だからこそ断れないしあおくんだってその恩返しをしたいと考えている。
(ただ単にやりたくないなら断ればいい。だけど出来ないし断りたくないんだろうな……)
あおくんのマンションは商店街から少し離れていて、近所にはスーパーやドラッグストアがあって日常の買い物はそこで出来てしまう。
大学卒業して社会人になってしまったらお世話になっていた商店街との関わりがグッと減ってしまう……だから今のうちに少しでも協力して恩返ししたい気持ちでいるに違いない。
「あおくんが頑張りたい気持ちも分かるよ」
『ありがとう、はな』
私が笑顔を見せると、あおくんもやわらかな微笑みを返してくれた。
(表情がやわらかくなったぁ……ビデオ通話の効果が出てよかったなぁ)
やっぱりビデオ通話ってこういう時に便利だ。直接会って話すのがベストだけど、こうしているとそれと似た良い効果を生んでくれる。
「日曜日かぁ……」
私は「日曜日」と「フェイスペイント」のワードを頭の中でグルグルとさせながら「うーん」と考え込んだ。
『うん、来週の日曜日だよ』
補足的にあおくんが日程を伝えてくれたので、今考えている内容の決心がつく。
「それってさぁ……私もお手伝いしても良いのかなぁ?」
『えっ? はながフェイスペイント手伝ってくれるの??』
「うん。私、絵が上手ってわけじゃないんだけど可愛い系のイラストくらいなら描けるし、私もハロウィンの10月31日はチャコ叔母さんにオバケとコウモリのフェイスペイント描いてあげるから慣れてるんだよ、実は」
私の回答はごく単純で明解だった。
『えええっ?! はな、フェイスペイントした事があるの?!』
偶然にも夕方コンビニの中でチャコ叔母さんとフェイスペイントについての話題が上がったんだから、この結論を私が悩む必要は全くなくって……
「もちろん200人なんて人数にはやらないよ? 家族に日の丸描いてあげたり叔母さんにちょこっと描くくらいだよ」
『それでもすごいよ、はな!!』
自信がなくプレッシャーを感じているあおくんの、ほんの少しの手助けになればって……そう思ったんだ。
「さっきあおくん、オオカミと赤ずきんのコスプレって言ってたでしょ? 今年は私も赤ずきんコスプレをして2人体制でフェイスペイントやれば良いんじゃない?」
朝香さんはイベント当日は珈琲店でクッキーとコーヒー無料チケットを配っていたそうだけれどオオカミの亮輔さんに合わせて赤ずきんのコスプレをしていたとあおくんは言っていた。だから私もその赤ずきんの衣装を借りられないかなぁ?なんて思ったんだ。
『今年は2人体制……かぁ』
「うん、衣装を借りられるか。私も手伝いに参加してOKかの確認は必要になるだろうけど」
私の提案にあおくんの目はキラキラと輝き
『分かった! この通話を切ったら健人さんに連絡してみるよ!』
あおくんは爽やかな声でそう返事をしてくれたのだった。
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