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Chapter4:海の家

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 はなちゃんとはメッセージやり取りをしたり時々ビデオ通話をしたりして程良い関係を続けている。

「あー……終わったぁ~」

 今はもう7月。前期試験を終え明日から夏休みだ……といっても、就活にバイトに追われてはなちゃんとデートする暇がないのが辛い。

「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! やっぱりダメかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 はなちゃんに会えない寂しさから溜め息をついていた俺の隣で、友達のまさやんこと榎本雅志えのもとまさしが頭を抱えて嘆き声を上げている。

「どうしたの?」
「あおぉぉぉぉ……どうしよう! どうやっても海の家のバイト集めらんねー……どうしても1日だけ人が確保出来ないよー! どうしよーマジでー」
「えっ? 海の家って、まさやんのお兄さんのとこの?」
「そうだよぉぉぉ……兄貴に怒られるぅぅぅぅぅぅぅぅ」

 まさやんは俺にガバッと抱きついておんおん泣き出した。

「落ちつけよまさやん」
「落ちついてらんないって! 兄貴に『俺がバイトかき集める!!』って啖呵きっちまったんだもん。俺も俺で選考入っちゃってるし、サークルのみんなは他の日にそれぞれ入ってるし知り合いはこの夏イチャイチャラブラブで忙しいみたいで首を縦に振らないし! マジでやばいー」
「ま、まさやん……とりあえず教室出よう。次のコマ始まっちゃうし」

 出来ればこの場でまさやんの背中を撫でて宥めてやりたかったけど、場所が悪すぎる。
 俺はまさやんを引きずりながら棟を出て売店前の広場へと移動する。


「……で、いつだよ? バイト足りない日」
「えっ?」

 広場の階段の端にまさやんを座らせ、俺は向かいにしゃがんだ。

「俺だって夏休み中ずっと就活や花屋のバイトしてるわけじゃないから。まさやんを救ってやれるかもしれないだろ?」

 それからポケットに突っ込んでいたスマホを引き抜き、スケジュールアプリを開く。

「マジで? 就活ヤバくてめちゃ忙しいのに手伝ってくれんの?」

 まさやんは鼻水を垂らしたまま俺を見つめ、信じられないというような表情をしていた。

「友達が困ってんだから、相談にはのるよ? いつ?」
「えっ……あ、えっと、この日なんだけど」

 まさやんからバイトのシフト表を見せてもらい、確認すると……

(あぁ……この日か。はなちゃんが休みっていっていたはず)

 たまたま俺が体を休める為に何も予定を入れておらず、かつはなちゃんが「お休み」と教えてくれた日だった。

(はなちゃんとデートしたかったけど…………どうかなぁ……)

「どう? あお。やっぱ無理ゲー?」

 まさやんが俺のスマホを覗き込んだから

「俺はいいんだけど、足りない人数って1人じゃないんだよな?」

 前向きに考えようと、必要人数を訊いてみる。

「そうだなぁ……最低1人は必要で、2人居てくれたらめちゃ助かるって感じなんだけど」
「2人かぁ」

 俺は去年手伝いに行った事があるから仕事の流れは分かるし、大事な友達の為なら人肌脱ぐつもりでいた。

(はなちゃんも誘ったら2人にはなるけど……)

 ただ、休みで都合がつくからといってはなちゃんを気軽に誘って良いか迷ってしまう。

(バイトはコンビニしかしてないって言ってたし、人混みやにぎやかな場所は苦手って言っていたしなぁ……)

「えっ? まさか、もう1人当てがあるとか?」

 まさやんが目を潤ませている。

「当てがあるっていうか、なんていうか……女の子が1人……まぁ」

 助けてあげたい気持ちが強いけれど、サクッと誘えるような間柄でもないから濁した言い方にしていると

「あーーー!! それってアレじゃん! 『はなちゃん』じゃね?」

 秒で気付かれてしまった。

「まぁ、俺が思い浮かべてるのはそうなんだけど海の家のバイトは未経験なんだよ。しかも19歳でアルコールは扱えないし」
「アルコールは無いから! 飲酒運転の問題があって今年はノンアルビールとソフトドリンクしか提供しないから!!」

 19歳という事を伝えてもまさやんは俺の肩をガシッと掴んで鼻息をフンフン鳴らしている。

「ノンアルでもビールって提供していいんだっけ?」
「それだったらあおがはなちゃんの代わりに提供しよー! なんとかしてはなちゃんを誘おうよー!
 未経験でもOKだからー!お願いだからはなちゃんに連絡とってー!!!!」

 マジで困っているみたいでまさやんは必死だ。俺の肩をガックンガックン揺らしてくる。

「分かった分かった! 今から連絡とってみるから!!」

 はなちゃんの存在を漏らした俺も迂闊だったから拒否る訳にもいかない。

(仕方ない……ダメ元で相談してみるか……)

 
 
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