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Chapter1:出会い

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「おねーさん、よく見たらかわいーよ?」

 ジロジロ見ていた男性が、トイレから戻ってきた男性に向かってそう言った……

「!!」

 ……人差し指で私の胸をツンッと突きながら。

「えー? マジ?」
「マジマジ♪ ほら見て。特にかわいーのがさ、おっぱいとおしり♪」
「ひぅっ……」

 男性2人にサンドイッチされるように囲まれ、完全に萎縮する。 

「『ひぅ』だってー♪ かーわいー♪ いじめたーい♪」
「ダボっとした制服からでもおっぱい丸いの分かるよー♪ ズボンのおしり部分もパッツパツ!」
「やっ……やだっ」

 胸とお尻の事を言われるのが一番苦手な私は、ほうきの長い柄にしがみつきながら後退あとずさりしていく。

「せっかくのおしりをガラスで潰しちゃダメだよー。こっちきてよ、ねぇねぇ」

 「イヤだ」というのを態度で示しているつもりなのに、ちっとも分かってもらえない。

「あ~おっぱいにハリがあるぅ♪ 脱がせたらめちゃイイカラダしてそ~」

 一方の人に気を取られていたら、もう一方の人にムニッと胸を思い切り触られてしまった。

(やだっ……怖いっ……)

 柄にしがみついて……下を向いて……

「やめてくださいっ……」

 頑張って声を絞り出したのに

「マジでおっぱいおっきいねー♪ 何カップ?」
「田舎っぽく三つ編みとでかいメガネしてるけどさー、なんで? コンタクトしたら良くない?」

 私の言葉なんか無視して2人はグイグイ迫ってきた。

「そっ……そんなのあなた達に関係ないじゃないですかっ!」

 普通に近付くんじゃなくて、腰を前に突き出しながらくっつこうとしてくる。

「えー? 怒られたの? 俺ら」

 桜並木でのお花見を楽しんでいたらしく、2人からビールっぽい臭いが立ちこめているし

「アドバイスしてあげてんだけど? 『こんな風にしたら付き合ってあげるよー』って」
「ま、その『付き合う』もワンナイトかもしんないけどねー♪」
「確かにっ! なんかね、たまには違うのみたいなーって気まぐれのヤツね」

 すっごくすっごく怖いし、すっごくすっごく嫌な気分になる。

(お花の香りが嗅げたらいいなって思ったのに……)

 現実はそんな可愛らしい香りじゃなくて、下品な吐息音やビールの臭いを吸う私。

「うぅ……」

 悲しくなってきて涙が浮かんできた。

「今ってバイト中? 何時に終わるの? 終わるまで待っててあげよっか?」
「そしたら3人でさぁ、楽しい事しよっ! ねっ!」

 怖いし気分が悪いし悲しいのに、全く動けない。

「っ」

 何も出来ないでいる私に、2人は腰やお尻に腕を回すと

「楽しいって、どんな事かをちょーっとしてあげよっか♪」
「来て来て♪こっちこっち」

 グイッと強く引き寄せて駐車場の奥側へと連れて行こうとする。

「や……」

 抵抗したくても、男性の腕力……しかも2人分もあるから逃れられない。

「味見っ♪ 味見っ♪」
「ほっぺはどんな味かな~甘いのかなぁ~」
「耳、ちっちゃくてかわいーから噛んじゃお♪」

 手首を強く掴まれ、グイッと空に向かって持ち上げられようとした……その時

「うちの従業員に何をしているんですか?! 警察を呼びますよ!!」

 チャコ叔母さんの大きな声が2人の動きをピタッと止めた。

「やべっ!」
「逃げるぞ!」

 直後、2人は態度を一変し慌てふためきながら逃げていく。

「あっ!! コラっ!! 待ちなさいっ」

 チャコ叔母さんの制止をきかず、2人はあっという間に走り去っていってしまった。

「ぁ…………」

 怖い人達が居なくなった。
 
 頭の中で理解出来た途端に私は腰を抜かし、その場にへたり込む。

「大丈夫ですか?」

 さっきとは別の男性がしゃがみ込みながら優しく声を掛けてきた。

「ひっ!」

 反射的に悲鳴をあげてしまったので、男性は悲しそうな表情になり

「ごめんなさい」

 と私に小声で謝り立ち上がると

「店長さんが診てあげて下さい。怪我とか、しているかもしれません」

 チャコ叔母さんにそう声を掛けるとスマホを取り出して

「俺、警察に通報します。さっきの男達の特徴を良く覚えていますから」

 私達にそう言うと電話をかけ始めた。

「あっ、そうね……あとで代わってくれますか? 私が店の責任者ですから」

 チャコ叔母さんは私を労わるように抱き締めながら、顔だけは男性の方に向けて冷静にそう言う。

 男性はチャコ叔母さんに目で合図を送り

「もしもし……今、桜並木近くのコンビニに居るのですがコンビニ従業員の女性が酔っ払い男性に体を触られる事案がありました」

 今回の件を警察へ連絡し始めた。

「自分は通りすがりの者です。責任者である店長さんは今従業員さんを介抱していますので自分が代わりに電話をしています」

 優しい声だけれど、しっかりとした口調で……

(かっこいい……)

 さっきの男性とは全然違って、ハッキリと感じた。

「大丈夫? 華ちゃん」

 その間、チャコ叔母さんは私の体に異常が無いかを確認してくれる。

「はい……」
「ごめんね、1人にさせちゃって」
「ううん、叔母さんは忙しかったんだから悪くないです」
「いくら姪とはいえ、私も華ちゃんに甘え過ぎちゃった……本当にごめんなさい

 怖い思いをしたけれど擦り傷もあざもないし、チャコ叔母さんの温もりや男性の冷静な対処で落ち着きを取り戻した。



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