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Chapter1:出会い

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———「華子はなこは良い子だね」

 お父さんお母さんからずーっと言われてきた言葉だけれど、これって本当に良い事なのかな? って思う。

 わがままを言わないから良い子。
 おねだりほとんどしないから良い子。
 言いつけを守ってお勉強をそれなりにこなすから良い子。

 ……お父さんお母さんのことは大好きなんだけど「華子」の名前が「いいこ」に成り変わってしまいそうで、「良い子」って言われる度にちょっと嫌な気分になっていった。
 
 悪い子になりたいわけじゃないんだけど、良い子になり過ぎても良くないような気がする。

 だから一人暮らしを始めて「良い子」の私から脱却したいって思っていたのに…………。

 結局は「良い子のはなちゃん」になっちゃって、恋愛する暇もなく大学とバイトに追われる日々を過ごしている。






はなちゃーん! 今から発注かけてくるからさ、1人でレジしててくれる?」
「はーい!」
「ありがとうっ! いつも助かるわぁ♪」
「えへへ」
「華ちゃんはほんっとうによね♪」

 今も「チャコ叔母さん」ことオーナーの久子ひさこさんにお願いされ、深夜近くまでコンビニバイトをしていて、今は1人ポツンとレジの前で立っている状況だ。

(結局は「良い子」になってるなぁ……チャコ叔母さんにはめちゃくちゃお世話になっているから断りたくないっていうのもあるけど)

 うちのコンビニ、花見シーズンになると連日お客様でいっぱいになる。今はもう宴もたけなわって感じで静かなんだけど。

(お花見かぁ……本当は行きたかったなぁ)

 本来なら今夜、友達と3人で夜桜を観に行く予定を立てていた……んだけど、他のバイトさんが急に熱を出してしまって「良い子」の私に欠員補填の役が回ってきちゃったんだ。

(まぁ、人混み多いの苦手だしコンビニの仕事が好きだから良いんだけどね)

 寂しさを紛らわそうと、私は店舗の自動ドアを開けて掃除用具を取り出した。

(桜並木は目の前だし、外にいたら桜の香りとかしてちょっとだけでもお花見気分が味わえたりして♪)

 そんな軽い気持ちで駐車場を掃いていたら

「ねーねー、おねーさぁん」

 背の高い2人組の男性が近付いてきた。

「はい……」

 対面すると身長差にビックリする。

(うわあ……180センチ超えてるのかな?30センチくらいの差がありそう)

 実は私、背が高い人が苦手で怖いと感じてしまうんだ。

「トイレ貸してもらえるー? コイツ、オシッコ漏れちゃいそうでぇ」

 だけど、この人達はトイレに困っているだ。苦手だからといって邪険に扱うわけにはいかない。

「トイレですね、あちらですのでお使いください」

 私は外からトイレの方向を指差してお客様に伝えた……すると

「おねーさん、オシッコ手伝ってくんない?」

 と、左側に居た男性がそんな事を言ってきた。

「へ? 手伝い?」

 男性2人とも酔っ払ってて、明らかに成人しているのに、おしっこを手伝うなんて意味が分からない。

「あはは♪ 冗談だよ、ジョーダン」

 反応に困っていると、右側の男性がギャハギャハと下品に笑う。

「あ……冗談、なんですか」

 どうやら揶揄からかわれたらしい。

「おねーさん、っぽいから♪」

 しかも「私が良い子っぽいから」という変な理由付きで。

「足元気を付けて下さいね」

 取り敢えずその「良い子ちゃんっぽい」をスルーする事にして私はトイレを案内する。

「はぁい」

 結局トイレは茶髪の男性1人だけが利用して、黒髪ロング男性は私を頭のてっぺんから爪先までジロジロと見ていた。

(なんでこんなに見つめているんだろう? なんか嫌な気分になるなぁ……)

 ジロジロの理由がわからなくても、気色悪く感じたのは確かだ。

「やめてくださ」

 私は勇気を振り絞って拒否しようとしたんだけど

「どうしたん?」

 トイレに行っていた茶髪男性が帰ってきてしまった。

(うっ……)

 また大柄の男性2人に阻まれ、せっかく振り絞って出そうとした勇気も刺激を受けたヤドカリみたいにヒュッと引っ込んでしまう。

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