【完結】雨上がりは、珈琲の香り①

叫喚

3

「！！！！」
「うあああぁぁぁぁ…………ああああああぁぁ………」
「りょー…………くん……」
「殺した……俺が……俺が！！ だから……！！ だからっ！」

　譫言うわごとのように「俺が」と「殺した」を繰り返し言うその異常な様子に私の体が固まってしまったけれど……

「上原さんに電話しなきゃ……」

　咄嗟に、救急車より上原さんに連絡してみようと手に持っていたスマホのメッセージアプリを開いて電話をかけた。


　通話はすぐに繋がり、上原さんは「すぐに駆けつける」と言ってくれた。


　上原さんが到着するまでに出来ることとして、私は薄手の毛布を蹲うずくまるりょーくんに掛けてあげ背中をさすってあげる。
　昨夜眠る時から部屋着を着てはいたけれど、毛布越しからも背中の震えが感じられて、とても心配だった。






「朝香さんっ！」

　数分後、インターフォンの音と共に私を呼ぶ上原さんの声が聞こえる。

「あっ……開けます！」

　急いで扉を開けると上原さんが慌てて入ってきてりょーくんの腕を担ぎ

「とりあえず隣の部屋に連れて行くから、鍵貸して！」
「はいっ！！」

　上原さんの指示通り、りょーくんの鞄と鍵を手渡した。

　その間、りょーくんはとてもグッタリしていた様子だったのに



　隣の部屋へ2人が入っていって

　壁の向こう側からりょーくんの大きな叫び声と何かが壁に当たる音が聞こえた。

　「…………」

りょーくんを宥なだめているのか、小さく「落ち着け」という上原さんの声も聞こえけれど、彼は全く耳に入っていない様子で叫び声を上げ続けている。

「彼女にバレた」
「もうダメだ」
「やっぱり俺は人殺しだから」
「先生を殺したのは俺だから」
「先生を幸せに出来なかったのは俺だから」
「お姉さんから先生を奪ってごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」


　彼の叫ぶ声、言葉全てが、4年半前に起きた皐月さんの事故死を連想するものばかりで………



「…………りょーくんって……まさか」

　
　もしかして彼は、あの日に私が見た悲しい背中の少年だったのではないか？ と……

　当時とは身長も体格も違う「彼」の可能性を想像した。