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叫喚

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 スマホ2台分のバイブが鳴り響く中、私はりょーくんに揺り動かされて目を覚ました。

「え? なに……?」

 目を開くと、りょーくんが目を見開いた状態で私のスマホを手に持っていた。

「これ、このスマホ……」
「どうしたの?」

 起き上がってりょーくんが手にしていたスマホを確認する。
 彼が持っているスマホは明らかに私のものだ。


「あ! マスターから着信だ!!  もしかして明日行く皐月さつきさんの彼岸参りのことかな?」
「えっ? マスターって……?…………さつき……さん???」
「りょーくん起こしてくれてありがとね!」

 私は半分寝ぼけていて、りょーくんがどんな表情をしているのかを全く確認しないまま、彼の手からスマホを受け取り、通話をタップする。

「……」
「もしもし夕紀さん? 電話に出るの遅くてごめんなさい」

 着信にすぐ気付かなかったことを謝りつつ、電話の向こうにいる夕紀さんの声に耳を傾ける。

『ううん、こちらこそ早い時間に電話掛けちゃってごめんね。明後日の確認をしたかったの』
「明後日の確認って、集合時間の件ですか?」

 その直後、ダダダッ!!!と、ユニットバスの方へ駆け出すりょーくんの足音が聞こえた。

『ううん、長沢さんから頂けるおはぎなんだけど、どうやら朝香ちゃんの分も作ってくれるらしいの。ほら朝香ちゃん、青海苔のおはぎ好きだったじゃない?広島で裕美ひろみさんが作ってくれてたヤツ』

 「裕美さん」は、私のお母さんの名前だ。私は幼い頃から、お母さんの作る青海苔がたっぷりまぶされたおはぎが大好物だった。

「ああ……確かに大好きですししばらく食べてないですから、作って頂けるのは嬉しいかなぁ」

 私はユニットバスの方へ目線を向けながらも「りょーくんはトイレに行きたかったんだろうな」くらいにしか思わず……

『でしょでしょ? 長沢さんのお嫁さん、あんこときな粉と青海苔の3種類今年は作ってくれるんだって。朝香ちゃん、いっぱい欲しいなら今のうちに長沢さんに伝えなきゃって思ったの』
「3種類って凄いですねー! 彼は甘いもの大好きですから、3種類2個ずつ欲しいです!」

 私は、電話が繋がったまま状態でりょーくんのあとを何の考えも無しについて行こうとした。

『2個ずつなんて遠慮しないでもっとおねだりしちゃって大丈夫よ♪ その方が長沢さん達喜ぶだろうし』
「確かに彼、長沢さんのお家のおはぎならパクパク食べちゃいそうです」
『でしょでしょ? なんか状況浮かぶわ~♪ 朝香ちゃんと彼氏がほのぼのおはぎ食べるその感じ♪』
「じゃあ、3種類5個ずつお願いします。長沢さんによろしくお伝え下さいね」

 おはぎの件はとても嬉しく、思い切っていっぱいの量を伝えてしまったけれど、りょーくんがやっぱり気になるのでユニットバスの扉まで私は近付くと

「ぐっ……おえぇぇぇ………」

 扉の向こう側から、彼が嘔吐しているような声が聞こえた。

「えっ!? りょーくん、大丈夫??!」

 夕紀さんとの通話を続けた状態で、私は扉をコンコンノックする。

『あれっ? 朝香ちゃん、彼氏と一緒に居るの?』

 夕紀さんの何気無い質問に

「はい、でも具合が悪そうなのですみませんがこれで失礼させていただきます」

 と答え、そこで通話を切った。

「りょーくんっ! りょーくん!!」

 ノックをしばらく続けてみるものの、彼の嘔吐の音は止まらない。

「開けるよ!!」

 トイレの水を流して背中をさすってあげた方がいいのかもしれない……そう思ってトイレのドアを開ける。

「りょーくん!!」

 ザーッとトイレの水を流し、名前を呼び掛けながら背中に触ったら
 彼は肩をガクガク震わせて私の方に体を倒した。

「わっ!」

 彼の重みに耐え切れず、私も倒れて尻餅をつく。
 
「……」
「りょーくん大丈夫? 昨日食べたケーキやピザが当たったのかな?」

 お尻の痛みよりも彼のことが心配で、ちょうど膝枕になった体勢のまま流れていく水を確認したら、吐瀉物としゃぶつが流れている様子や異臭がしない。
 吐いていたのではなくえずいていた事が分かった。
 それでも彼の表情はとても怯えている。

「……っ!!」

 その後、彼はハッと息を呑んで一度は起き上がったんだけど……

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 頭を抱えしゃがみ込み、苦しそうな叫び声をあげていた。
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