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【番外編】After The Rain(朝香side)
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しおりを挟む珈琲豆専門店「After The Rain」の開店時間は10時半。
朝からの仕事の時は9時半には出勤して掃除や焙煎豆と食材の在庫確認、ネルの手入れを行う。
お墓参りは前日から計画済みだったらしく、焙煎豆のストックと食材の下ごしらえは万全だった。
「よかったぁポテトサラダのマッシュから1人でしなきゃいけないかと思ってヒヤヒヤしたぁ」
特に朝の支度で大変なのが、ホットサンドの具材として用いられるポテトサラダ作りだ。
他にも卵サンド用の茹で卵も用意しないといけないので、この準備には非常に助けられた。
私のやるべき朝の準備を終えたら、開店直前までに外を箒で掃き、観葉植物の水やりを行う。
これで開店前の準備は完了だ。
(ああ~~……緊張するよぉ~)
そして迎えた午前10時半。
カウンターでスタンバイしていると、一番乗りの常連さんが来店された。
「いらっしゃいませ、おはようございます岩瀬さん」
我が店では「いらっしゃいませ」のみではなく、なるべく「おはようございます」等の挨拶も含めることにしている。
「なるべく」というのは、それを良しとしないお客様もいらっしゃるからだ。
夕紀さんはこの珈琲店を「販売店」というよりは「お客様にとっての大事な空間」みたいな雰囲気にしたいのだそうだ。お店を構える前まで夕紀さんは私の実家でノウハウを学んでいたから、そこは両親の考えに似ていて嬉しい。
「おはよう村川さん、今日はマスター居ないの?」
9月とはいえ、まだまだ外は暑い。岩瀬さんはラフにワイシャツの第一ボタンを開けてはいるけど、外でバリバリ働く営業マンだ。
「はい、私用で12時からなんです」
いそいそと岩瀬さんお気に入り焙煎豆を電動ミルで挽き、ドリップポットを火にかけた。
岩瀬さんは取引先に向かう直前、ほぼ毎日うちのお店に立ち寄ってくれる「一番乗りの常連さん」なのだ。
年齢は聞いたことがないけれど、私と同じくらいのお子さんがいらっしゃるらしいので40代後半くらいなのだと思う。
そして岩瀬さんは毎日、フルシティローストにしたタンザニア産ンゴロンゴロの豆をペーパードリップで落としたキリマンジャロコーヒーを飲む。
以前りょーくんと手煎り焙煎したものと同じ豆だ。
「いつものいい味がするね」
「ありがとうございます」
この「いつもの味」というのは私にとって最高の褒め言葉だ。
「マスターの焙煎豆を使ってるからなんだろうけど、村川さん1人でマスターと同じ味が作れるのは大したもんだと思うな。毎日頑張っている証拠だね」
そして尚もアルバイトの私を褒めてくれる。
「余談ですけど私はこの豆のアイスコーヒーがとても好きなんです」
褒められついでに、私のオススメを岩瀬さんに披露してみた。
「へぇ~ホットコーヒーに氷入れるの?」
「直接そのまま入れるというよりは、ペーパーを取り除いたドリッパーの方に氷をたくさん入れて出来上がったホットコーヒーを通して急冷するんです。その後グラスに注いで幾つか氷を浮かべます。勿論ご家庭でそれをやろうとすると氷を沢山使う事になりますから、濃いめのコーヒーを作ってしまってからグラスに氷を入れる方式にしても構わないんですけどね」
「へぇ~そんな方法があるんだね! 今はまだ残暑厳しいから明日マスターか村川さんに注文してみるよ」
「お口に合えば嬉しいです。マスターにも話し通しておきますね」
私の提案に乗ってくれるなんて、岩瀬さんはいつも優しい。
次のお客様は、時々いらっしゃる主婦の由美さん。
早朝のパートをしているらしく、仕事終わりに来てくれる20代の常連さんだ。
先月のアレンジコーヒーを出してた時に気に入ってもらい、そのまま常連さんになってくれた。
「いらっしゃいませ、お疲れ様です由美さん」
カウンター席の岩瀬さんとは離れたテーブル席に座って自動車学校の教本に目を通している。
流石に勉強されると困ってしまうが、「読書」の範囲であればOKだ。
そして由美さんの場合は「お疲れ様」が正しい。
「アイスカフェラテで。甘くしてね♪」
フレンチローストにしたコスタリカ産のハニーコーヒーを極細挽きにしたものを、直火式のエスプレッソ用器具に詰め、火にかける。
由美さんは甘く冷たいラテが好みみたい。
10月になればアイスカフェラテは終わってしまい、メニューに採用されるのはホットのカフェラテになる。
「その頃には夕紀さんが作るみたいな綺麗な葉っぱのラテアートを自信持って出来るようにしなければ!」と由美さんのアイスカフェラテを作りながら強く思う。
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