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【番外編】ふわふわな日(朝香side)

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 りょーくんと初めて繋がれた。
 痛みはあるけど心地良い幸福感に包まれていて、夢から覚めてまぶたを上げるこの瞬間も頭の中がふわふわしている。

「おはよう、あーちゃん」

 目の前には、大好きな彼の微笑みがあって、目覚めても幸せ。

「りょーくん、おはよう」

 カーテンの隙間から差し込む夏の強い日差しに煌めく金色の髪色やふわふわの綺麗なパーマネントウェーブ。
 優しい微笑みに……それに、私の素肌を包む彼のシャツの生地や腕の逞しさも素敵で……って

(あれ?? シャツ??!)

「りょーくん!! なんで服着てるの??」
「あっ……」

 私の驚き声にりょーくんは小さい声を出して私から視線をそらす。
 
 だっておかしい。
 昨夜はりょーくんとお付き合い4ヶ月にして初めて最後までエッチ出来て……それで、2人で一緒に眠った筈だ。
 確かに眠くなったのは私の方が先だったけど、でもりょーくんの熱い体温で温められながら心地良い眠りについたんだから、目覚めの時点で私だけ裸でりょーくんだけ服を着ているのは妙だ。

「りょーくん、もしかして私より早く起きて散歩とかした?」

 ウォールクロックに目をやると時刻は朝の8時過ぎ。
 外はカンカン照りで既に30度超えてそうな感じだけど、かといってお店はコンビニくらいしか開いていない。
 だから、外に出てやる事と言えば散歩くらいかな?と私はのんびり考えたんだけど

「うっ……」

 りょーくんはまるで「痛いところを突かれた」とばかりに胸を押さえ、私の顔を完全に見ようとしない。

「どうしたの? りょーくん」

 そして、ふわふわな雰囲気に影を落とすような表情の彼の様子に、私までもが不安な気持ちに駆られる。

「いや……あーちゃんにどこから説明してあげれば良いのか、ちょっと分からなくて……」

 りょーくんは目線を斜め下に向けながら、眉を下げていつもの「申し訳ない顔」をしていて、めちゃくちゃ凹んでるようだった。

「どこから説明って、何? ちゃんと知りたいよ」
「いや、あーちゃんに悪い事しちゃったなって」
「悪い事って何?私を痛くさせちゃった事?それなら大丈夫だよ!だって私の方からりょーくんに『初めてをあげたい』って言ったんだし」
「うん……」

 私は、この不安なモヤモヤが脳を支配していくのが怖くなって、りょーくんのシャツを掴んで必死に訴える。

「だから私の体を気にしなくてもいいんだよ。私はもう平気だもんっ! 寧ろこういうのを乗り越えないと私はいつまでたってもりょーくんと心も体も繋がれなかったんだし、私ばっかり気持ち良くなっちゃってりょーくんだけが……」
「そうじゃない。そうじゃないんだよあーちゃん」

 私の訴えにりょーくんは声を被せ、ようやく目線を私の方に向ける。

「えっ?」
「あーちゃん、あのさ……俺、今朝あーちゃんより早く目が覚めたんだけど、その時俺はあーちゃんにとんでもなく酷い事をしたって気付いたんだ」

 私の目を真っ直ぐに見つめるりょーくんの瞳は、誠実そうではあるけど哀しげだ。

「えっ……酷い……事?」

 私にとっては幸せいっぱいのりょーくんとのセックスだったのに、それを彼の口から「酷い事をした」なんて言われたら不安の方が上回る。

「だって俺……あーちゃんとの、初めてのセックスだったのに、何も準備してなかったって……反省して」
「準備?」

 訳が分からず不安な気持ちのまま、りょーくんの「準備」に首を傾げていると、りょーくんは私を見つめながら

「だって昨夜……ナマで入れただろ? あーちゃんの体を傷付けたって……思って」

 そう言い、続けて「ごめんなさい」と私に謝った。
 
「えっ? ナマって……!!」

 りょーくんの「ナマ」の意味を、声を出している途中で気付いて私は顔を熱くする。

「あーちゃん本当にごめんなさい! そういう事、本来ならきちんとしなきゃいけないのに!!」

 りょーくんも謝りながら頬も耳も赤くしている。

「あっ!! でもあれは、私の方から突然誘っちゃったから、別に……」
「いや、俺もさ……あーちゃんとこういう事になるの、もうちょっと先かなとか思ってて悠長に構えていたのが悪かったんだ。もっと早くゴムを買っておけばこんな事には」
「りょーくん自分を責めないで。私もちゃんとしなきゃいけなかった事なんだし」
「あーちゃんは初めてなんだからそういう準備に疎いのは当たり前だから。俺が一番悪いから」
「りょーくん……」
「あーちゃん初めてで、痛い思いをさせたのは俺なのに。その上妊娠のリスクも考えないで行動した俺が悪いから」
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