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私の知らない彼と雨上がりの女神

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「さっき朝香が言ってた『亮輔くんが幸せに出来なくてごめんって内容の寝言を泣きながらしてた』って話も……亮輔くんの噂抜きにしてもっとストレートに受け止めた方がいいとも思うんだけどさぁ……でもやっぱり亮輔くんの心の中に絵梨さんや他の女性は居ないんじゃないかって思うんだ。そのくらい朝香と付き合ってる亮輔くんは私の目から見てもめちゃくちゃ幸せそうなんだもん。
 亮輔くんが今まで接してきた女性に未練はないと私は思う!!」
「そうなのかなぁ」
「寝言や涙を見ちゃった朝香には私のこんな『絶対』を信用出来ないって感じてしまうだろうけど」
「ん……」
「朝香は今、亮輔くんの事が世界で1番好きでしょ?だけど『初恋の男の子が今もどこかで元気にしてたら良いな』って気持ちも少なからずあるじゃん?」

 何も言えなくなっている私に真澄はあくまで私に優しく、決して責めるつもりのない口調で語りかける。

「うん、ある。少なからず」

 私が中3の時に見かけた、包帯を頭に巻いた小柄な男の子の話は以前真澄に話した事がある。
 あの瞬間が私にとっての初恋で、彼の寂しそうな背中を今でも忘れられない……と。

「亮輔くんの心の中にもさ、忘れられない初恋みたいなのがあるんじゃないかな?朝香に話すまでもないような小さくてささやかな恋、みたいなもの。
 朝香は初恋の男の子を無理矢理この世界で探し当ててみようとまでは思ってなくて、亮輔くんとの今の関係を壊したくないって思うじゃん? きっと亮輔くんも同じようなものを抱えているんだよ。『幸せに出来なかった初恋』はあったけど今の朝香との幸せな関係は壊したくないんだよ」
「忘れられない初恋があるのが、私も笠原くんも共通してるっていう事?」

 そんな偶然あるんだろうか? と私は首を捻る。

「いやいやそんなの誰にでもあるんだよ。誰にだって甘酸っぱい初恋の経験があるし、何年も何十年も経ったってフッと思い出して懐かしむものだと思うよ」

 でもそれは誰にでもあるありふれた事なんだと真澄は言う。

「そんなものなのかな……」
「そうだよ。初恋同士で結婚するカップルってすっごく少ないみたいだから」
「確かに初恋って実らないとか聞いた事ある……」
「でしょ? 初恋が実るのが本物の純愛とは限らないんだよ。朝香と亮輔くんの恋はれっきとした純愛で本物だと思う! まだ付き合って3ヶ月経ってないけど、私は朝香と亮輔くんがとってもお似合いでこの幸せな関係がいつまでも続いていきそうだなって思ってる!」
「ありがとう真澄」

 真澄はこういう時、私を無理矢理喜ばせようと余計な嘘をついたりなんかしない。
 真澄の言葉には一切嘘がなくて本当に私とりょーくんをそんな風に感じてくれているというのが痛いほど伝わる。

「きっと、寝言や涙の理由を亮輔くんに聞いたって正直に答えてくれないんじゃないかな? 朝香だって亮輔くんに初恋の男の子の話をわざわざ大好きで絶賛付き合い中に話すなんて野暮な事はしないでしょ?」
「うん」

 そして、真澄の言う通りだと私は思った。
 勇輝くんと付き合おうとした時は「包帯の男の子」も「笠原亮輔くん」も忘れようとした。新しい恋をして上書きしようと考えていた……だけどそんな打算的なやり方じゃちゃんと恋に向き合えないという失敗を私は経験したんだ。

 勇輝くんの行動は無理矢理過ぎな部分があったけれど、勇輝くんの時は触られるのも部屋の中に入れるのもダメでりょーくんだったらなんでもOKな気持ちで居られるのはやっぱり私がちゃんと恋に向き合っているからだと感じる。


「亮輔くんの寝言はあくまで寝言であって直接言われたわけじゃないんだからさ、結局は謎のままにしておくしかないんじゃない?」
「えっ?」

 真澄からいきなりそう提案され、私はビックリして目を見開かせる。
 反して真澄の表情はとてもスッキリとして晴れやかでいて、残りのアイスカフェオレをグイッと飲み干していた。

「誰の事を指しているかは分からないけど、少なくとも誰か一人でも幸せに出来なくて後悔してる過去を亮輔くんは持っているのかもしれない。でも過去は過去でしかないんだよ。今の幸せを壊してまでなんとかしようとは思ってないはず」
「だから、謎のままにしておくって事?」
「朝香にとってはモヤモヤが残るままになるかもしれないけど、それが一番良くない?」
「『良くない?』って、それは良くないんじゃないかな?お互いモヤモヤしてる部分を会話で解消していくのが恋人なんじゃないの?」

(謎のままにしておくだなんて、そんな状態で私はりょーくんとどう接していけばいいのかわからないよ……)

「確かにお互いにわだかまりが無いに越した事はないんだけど、所詮カップルは他人だから相手に不思議な部分や謎な部分があって普通なんだと思うけどね、私は」

 空になったグラスを右手で弄りながら真澄はそう言う。
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