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彼女らしいこと

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 その日の20時過ぎ。

 2人で夕食を食べ終えて、いつものようにコーヒーを淹れていたら突然「ちょっと忘れ物」と言ってサッと隣の部屋に戻ってすぐに何かを取りに戻ってきた。

「これ、今日バイク走らせた帰りに買ってきたんだ。今から一緒に食べよう♪」
「あ!! アイス!!」

 りょーくんが隣の部屋からわざわざ持ってきてくれたのは、オシャレな容器に入ったアイスクリーム。

「夏季限定で販売してるアイスらしいよ。今日行った場所の近くのケーキ屋で売っててさ」
「へぇ~……」

 アイスの容器の底を確認すると、夕紀さんが月命日参りしている霊園近辺の住所が記載されていた。

(あの霊園の近くにケーキ屋さんなんてあるのかぁ。夕紀さんと何度か皐月さつきさんのお墓参りしてるけど、全然知らなかった……)

「あーちゃんは地方出身だから、知らない住所だよね?」

 隣からりょーくんにそう言われて、私は思わず頷きほんのちょこっとだけの嘘をつく。

「えっと……りょーくんは結構前から知ってるお店なのかな?」

 そして、「りょーくんはこの住所近辺へよく出かけるのかな?」という疑問が湧き、ついそんな質問をしてしまった。

「いや、景色良さげな場所へとテキトーに流しててたまたま見つけたって感じ」
 
 ほんのちょこっとの嘘でも目が泳いでしまいそうになる私とは違い、りょーくんは普通の顔をしてそう答えた。

(嘘はついてないんだろうな。ポーカーフェイス過ぎる気もするけど……)

 私は「そっかぁ」と頷きながら言って、アイスを食べ始める。

(景色良さげな場所ってあの霊園くらいしか高台の場所ないんだけどなぁ。
 霊園近くまでバイク走らせたけど何もなくて、それでケーキ屋さんに寄ったってパターンかな……)

 りょーくんの行動を予想しながら、アイスに舌鼓を打ち、アイスコーヒーを口に含む。

「限定アイスともあって美味しいね♪あーちゃん」
「うん……そうだね」



 アイスを食べ終わったら、りょーくんは私の肩をモミモミしてくれた。

「あともう少しでバイト行く時間になっちゃうから、イチャイチャの代わりにマッサージさせてね」
「ありがとう♪ イチャイチャも良いけどマッサージもすっごく気持ちいいよ♪」
「良かった♪」

 ハグして手や足をスリスリするのとはまるで違い、とても上手な指圧マッサージといった感じ。りょーくんの力強い指が固まった私の筋肉を程良くほぐしてくれている。

 心地良いマッサージで夢見心地のような気分にしばらく浸っていたんだけど、すぐに今日真澄としたガールズトークの内容が気になって仕方なくなってきた。

「……」
「ん? なんか浮かない顔してるけど大丈夫?あーちゃん」

 りょーくんは私の背後うしろに回って肩をマッサージし直接私の顔が見えない筈なのに、すぐ気持ちを察するのだから凄い。

「あのね、アイスもマッサージも凄く嬉しいの。りょーくんはとても優しくて、今日私が真澄と過ごすって流れになった時も普通に送り出してくれたし」

 彼の普段の行動に感謝したい気持ちはある。

「そりゃあ、大好きなあーちゃんに『彼氏らしいこと』してあげたいからね」
「彼氏らしいっていうか、彼氏そのものだよりょーくんは」
「そうなんだけど、でもやっぱりあーちゃんに『俺と過ごしていて楽しい』って感じてもらいたいんだよ」

 りょーくんはお腹いっぱいになるくらい私に嬉しい事を言ってくれて、トドメにギュッと優しくバックハグしてきた。

「それは凄く嬉しいし『りょーくんと過ごしていて楽しい』って毎日感じてて幸せだよ」

 私は彼の方を振り向き、イケメン顔と至近距離になりながら自分の素直な気持ちを伝えると

「良かった♡ キス、してもいい?久しぶりに」
「うん♡」

 彼はキスの可愛いおねだりをしてきた。
 私がすぐに笑顔で頷くと彼は私と同じような笑顔を作り、優しくて甘くてとろけるようなキスを私にしてくれた。

「んっ♡」
「っふぅん♡」
「……ん、くぅ♡」

 一瞬で腰が砕けてしまいそうになるくらいの、ちょっとエッチで甘いキス。
 彼は私の優しくホールドしながら熱い舌を長く伸ばし、私の唾液を絡め取り、喉仏をかっこよくクンッと動かす。

「…………♡」

 ついポーッと見惚みとれてしまった私の頭をりょーくんは撫でて

「じゃあ、バイト行ってくるね」

 そう言って立ち上がり、玄関で靴を履き始めた。

「あっ……今夜もバイト頑張ってねりょーくんっ」
 
 私は慌てて玄関まで追いかけ、りょーくんの手を握る……でも私の出来る事と言えばそのくらいだ。

「うん、頑張るね! あーちゃんおやすみ♡」

 毎日思ってるんだけど、玄関で見送る時のりょーくんはとっても素敵で、私は積極的に彼を喜ばせる仕草が全く取れず

「おやすみ♡」

 と返事してバイバイするだけ。
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