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りょーくんとあーちゃん

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 しかも私の頭を読み取ったかのような絶妙タイミングによるお誘いセリフだったからビックリも今までの10倍くらいになってる。
 
「付き合ってるんだからデートするのは当たり前かなって思うし、明日はレポートや課題をやる必要ないから出掛けるにはベストかなって思って誘ってみた♪」

 りょーくんは楽しげ且つ、あくまで私に優しく語りかけるように丁寧な口調でそう言ってくれて

「嬉しい!」

 またまた私はストレートに喜びを口にした。

「喜んでくれて良かった。ちなみにどこ行きたい?」
「水族館!」
「即答だねあーちゃん!」
「だって子どもの頃から夢だったんだもん♪ 大好きな人と水族館デートするの♡」

 突然のデートのお誘いにテンションが上がって、ついつい『子どもの頃からの夢』だなんて大学生らしくないワードを出してしまった。

「子どもの頃からの夢ならちゃんと叶えてあげないとだね……じゃあ、行き先は水族館で決まりって事で!」

 りょーくんは子どもっぽい私のワードも優しく受け入れてくれて、大きな掌をスッと私の前に差し出す。

「えっと……これは、握手?」
「そうだよ、あーちゃんが良ければ『指切りげんまん』してもいいけど♪」
「じゃあ……指切りげんまん、する」
「うん♪」

 彼のイケメン笑顔や優しい言葉に乗せられて、私は子どもっぽく小指を立てた右手を彼の掌に近付けた。
 するとその掌も私と同じように指を形作り、私の小さな小指と彼の長くてしっかりとした小指が絡まる。

 指切りげんまん中、絡まり合った指をユサユサ振る度に、心と体がポカポカほわほわとしてさっきよりも幸せが何倍にも何十倍にも膨れ上がって

「……指、切った」

 蝶々の解放とは違う、手の離れ方に少し戸惑うものの

「明日、晴れるかなぁ?」

 私のポカポカほわほわは持続していて

「水族館は雨でも行けるよ」
「私にとっては初めての水族館デートだもん! なるべくなら晴れてて欲しいって思うっ!」

 指や手は離れた筈なのにまた彼と手を重ね合わせたいって欲求が募ってきた。

「確かに、デートは雨でも出来るけど晴れてる方が気分いいかも」
「あともうちょっとで梅雨に突入しちゃうもん。貴重なデートには貴重な晴れ間が必要かなって」

 すると、りょーくんはまた私の頭の中を読み取ったかのように私の手にそっと触れてきて

「貴重なデート、なんて言い方しないでよあーちゃん。俺が不甲斐ないのバレる」

 蝶々を大事に隠すみたいに、また大きな両手で私の手が挟まれた。

 「りょーくんを『不甲斐ない』なんて思った事ないよ、私は」

 彼の温もりが自分の手に伝わるのを感じ取りながら、私は彼の顔を見つめる。

「本当に? 『付き合って下さい』って俺の方から言った癖にこの1ヶ月デートらしい事は何一つ出来てなかったんだよ?」

 彼の目線は私かられ、水分を含んだような言葉の発し方をしていた。

「コンビニバイトも大学の授業も、りょーくんにとっては大事なんだって私は知ってるから今まで外デート出来てなくても不満に感じなかったよ」

 でも、私がポジティブなセリフを言ったら

「あーちゃん……」

 カラッと晴れた日中みたいな表情に彼が変化したから私も嬉しくなる。

「正直、私が大事にしてるのは珈琲店のバイトだけで大学は二の次三の次なんだよね。卒業後はそのままマスターと働く事が決まってて就職先を既に見つけてるようなもんで、『大卒の資格さえ取れとけばOK』って軽い気持ちで学生やってるんだもん。
 でもりょーくんは違う。どの授業も真面目に受けてピシッと整ったノートをちゃんと作っていて、去年の成績もすっごく良かったって藤井くんから聞いてるよ」
「……」

 私は、大学入学間もない内から「笠原はうちの大学で取れる資格をなるべく沢山取っておきたいみたい」という話を藤井くんから聞いてて知っていた。
 だからこそ「彼の背中は素敵だ」とりょーくんへの片想いを一層募らせていた。

「レポートや課題提出は、お気楽学生の私もしておかなきゃいけないからね! 成績優秀なりょーくんと一緒に取り組む方が私にとってもメリットあるし、一緒にご飯食べてコーヒー飲んだりお弁当準備してお昼に食べて微笑み合ったりするのも楽しいし嬉しいし『恋人同士って感じするなぁ』って幸せな気分になっていたんだよ。
 通学だって、バイクに乗っけてもらってる安心感が大きいし……不甲斐ないどころかヒーローだよ! 外見もイケメンだけど中身も本当にイケメンで素敵なんだなって、毎日毎時間実感してる」
「……」
「いつもありがとうりょーくん。明日の水族館デートは勿論楽しみなんだけど、今日までの約1ヶ月も楽しかったし明日からもこの幸せや楽しさが続いてくれると良いな~って、めちゃくちゃ思ってるよ」

 私の口からポンポン飛び出すポジティブなセリフ一つ一つには、私なりに素直な気持ちを込めたつもり。
 だから、私のこの真っ直ぐで素直な気持ちがそのままりょーくんに伝わってくれていると良いなって思うし

「あーちゃんの純粋な気持ちがバシバシ伝わってきて照れる……嬉しすぎておかしくなってしまいそう」

 包んでいた両手の力が強まって、大事に隠していた私の手をギュッと強く握って嬉しそうな表情をするりょーくんの姿にまたまたキュンとなる。

「ぁっ」
「ごめんあーちゃん! 強く握り過ぎた!」

 私はただ、強く握られた反応で声を「ぁっ」と小さく出しただけだったのに、りょーくんはそれを「私の拒絶」と勘違いしたみたいで両手を広げてパッとまた野に放した。

「え?」
「本当にごめんねあーちゃん。強いの、怖くなかった? あーちゃんより体がでかいし力もそれなりにあるから、俺の暴走であーちゃんを怖がらせないようにって……いつも気を付けてて」
「りょーくん……」
「あーちゃんのさっきの言葉が嬉しかったんだ。だから本当に嬉し過ぎて暴走して力を込め過ぎた……本当にごめん」

「りょーくんが私の手を蝶々みたいに優しく包むのってもしかして、私が痴漢で怖がっていたから……?)
 
 焦りながら喋る彼の口調でようやくその意味を理解した。

「ありがとうりょーくん。今まで私に対してそんなに優しい気持ちを向けてくれて」

 私は離れていった彼の手に触れながら感謝の言葉を述べる。

「私が1年も痴漢被害に遭っていたし、男の人に触られるのを怖がっているかもしれないって私の気持ちを汲んでくれていたんだね」
「うん……俺が一方的に『付き合って』ってあーちゃんに言ってしまったから、恋人同士になれたとはいっても触れ合い方は慎重にならなきゃって思っていて」
「だから私の手を両手で包む触れ合い方も、少しずつ時間を長くしてくれたんだね」

 私の理解は合っていたみたいで、りょーくんは黙ってコクンと頷く。

「りょーくんのそういう丁寧で細やかなところ、大好きだよ。真面目で誠実な……私がイメージするりょーくんそのもので、凄く安心出来る」

 私がまた素直な気持ちをそのまま伝えたら、りょーくんは頬を赤らめ照れ笑いをしていた。

 
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