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りょーくんとあーちゃん
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しおりを挟む結局、夕食後はのんびりとお部屋でテレビを眺めながらコーヒータイムをゆったりとることが決まった。
(食後のコーヒータイムって、いつもとそんなに変わらない行動じゃないかなぁ?)
せっかくりょーくんが夜のコンビニバイトが休みだっていうのに変わり映えしないコーヒーとチョコレートで本当に良いのかな?……と、不安になる。
(いつもはこんなにゆったりとした時間は取れないからそこだけは特別ではあるんだけど)
「今日のコーヒーって、昨日のとは違う?」
りょーくんはコーヒーカップの縁に唇を当てながらそんな質問を私にしてきた。
「うん、これはニカラグアじゃなくてブラジルなんだ」
「ブラジルって、世界で一番コーヒーを生産してるんだっけ?」
「そうだよ、生産も消費も世界一でブラジルと言えばコーヒーって感じ。
その中でも日本人の口に合いやすいサントスっていうコーヒーなんだ」
「へぇ~……確かに苦みも甘みもある感じ?」
「深煎りにしたんだ。りょーくんはこういう感じが好きかなぁって思って。味のバランスも取れてるし、カフェ・オ・レにしても美味しいしチョコレートにも合うから」
「確かにこの深煎りは好きかも!」
彼氏となったりょーくんに自分の趣味をどの程度伝えれば良いのか……1ヶ月経ってもまだ悩み中だ。
りょーくんは私の手煎り焙煎や色んなコーヒーについて興味があるみたいなんだけど、マニアック過ぎる説明をし過ぎちゃいけないとは感じている。
(勇輝くんとのデートの二の舞になるわけにはいかないもんね)
純朴子猫ちゃんの私だってそこは学習しているつもり。
(マニアック過ぎるコーヒーの話はしちゃいけない。
りょーくんに嫌われない程度に、軽い感じのコーヒートークに留めなきゃいけないし、りょーくんとコーヒーを飲む時はなるべく彼の好みに合うものを選んで、あくまで無難な話を……)
頭の中でそれを考えながら、自分でも煎り慣れているブラジルサントスの深煎りコーヒーに舌鼓を打ち、アーモンドチョコレートの個装を開けて中身を口の中にポイッと入れていたら
「確かに深煎りのこういうコーヒーを、甘いチョコレートと楽しむのも良いけどさ。あーちゃんはあーちゃんのやりたいようにやってもらって構わないからね」
部屋の白色照明で金色の髪をキラキラと輝かせながらりょーくんがそう言う。
「えっ?」
「今、俺が言った『このコーヒー好きかも』をあんまり間に受けないんで欲しいんだ。
だってあーちゃんは色んな国々の色んなコーヒーの豆を触って焙煎してみたいんだから、俺の好みなんか全く気にしないで色んなコーヒーを自分で作って美味しさを追求して欲しいって俺は思う」
「……」
「酸味が強くても、煎り方が深くないのでも……それこそ何でも。
あーちゃんのコーヒーの勉強の邪魔はしたくないから」
「でも、りょーくんの好みに合わないコーヒーにしちゃったら……りょーくん飲みにくいかも」
「そういうのも知りたいんだよ、俺は。
俺、今までコーヒーって言ったら缶とペットボトルとインスタントと、あとはコンビニのコーヒーマシンのヤツしか知らなかったから。
あーちゃんが焙煎するコーヒーって、今まで俺が飲んできたものとは全然違うしすっごく美味しい。今日のも良いけど、昨日まで色んな煎り方試したコーヒーもやっぱり良いなって思ってて……。
この1ヶ月あーちゃんと付き合って、あーちゃん手作りのコーヒーを飲む楽しさを見出せてる感覚があって」
「コーヒーを飲む……楽しさ?」
「そうだよ。もっともっとコーヒーを知りたいなって思うんだ。
それがあーちゃんを知る事にも繋がるかなって」
りょーくんが今私に話してくれている内容は、私の頭の中の考えとは真逆だ。
「ブラックコーヒーばかり飲ませちゃって悪いなって、私は思っていたのに……」
ーーー
『何も入ってないコーヒーなんか飲んでつまらないだろ』
ーーー
大好きなりょーくんとお付き合いしているのに、実は私のの頭の片隅にはまだ勇輝くんから言われたあの言葉がこびり付いていて
「ブラックコーヒーって面白いなって、俺は今感じてるよ。
ミルク入りも確かに美味しいし、生クリーム乗っけたヤツとかチョコソースかかってるのも美味しいんだけど、豆の特徴を知るならブラックの方が断然違い分かるし」
「……」
私の中の「私が選んだコーヒーを貶した勇輝くん」が今この瞬間、りょーくんのキラキラな金髪やイケメン笑顔で消え去って浄化されていくのを感じた。
「とかなんとか言いながら、『今日のと昨日のが違う』って程度しかまだ分かってないからね? 昨日のと今日の、1ヶ月後に飲み比べてどっちがブラジルか当てろとか言われたら正解出来る自信ないし」
りょーくんがそう言いながらする少年っぽい無邪気な笑顔にも癒されて、身も心もリラックスしていく感覚もあって
「好き」
「え?」
「そういう事を私に言ってくれるりょーくんが、私は好き……好き、好き、大好き!」
彼を見つめながら、私は「好き」を連呼する。
こんな風に彼に向かって「好き」をいっぱい言うのはめちゃくちゃドキドキするし、そんな事したら本当に血管がパァン!ってなるんじゃないかって思うんだけど……でも、言わずにはいられなかった。
「ありがとう。あーちゃんに好き好き言ってもらえて嬉しいし……純粋に照れる♡」
純朴子猫ちゃんの私にとって、好きの連呼は勇気を出してみた行動だった。
りょーくんは「野獣くん」って噂がある男性だけど、そんな私の勇気を絶対にスルーしない。
「りょーくんまで照れないでよ。私だってめちゃくちゃ照れて恥ずかしいんだから」
だから、私はまた自分の気持ちをストレートに言葉に出せるし
「うん……実は俺も結構恥ずかしがってるよ。かなりドキドキしてる」
それを受けたりょーくんもまた照れ臭さやドキドキを感じてくれているのが嬉しい。
(こういうドキドキキュンキュンするの、まさに「お付き合いしてる」って感じがするなぁ)
野獣くんの噂を頭に入れちゃうと、「コーヒー飲んでドキドキキュンキュンしてるだけで満足しちゃいけない」って思う。
こんな私だって、一緒にご飯食べてコーヒー飲んでるだけが恋人同士のやる事じゃないって知っているから。
(今でも充分過ぎるくらい幸せだけど……恋人同士はもっと、キスしたりだとか外へデートしてみるだとか)
キスは告白の時のあの一回きり。
それ以降は、さっきみたいな手を包んでくれるみたいな触れ方しか彼はまだ私にしていない。
彼だって、きっと私にもっと触れたいだとかデートしてみたいだとか思っている筈だ。
ブラックコーヒーの件での「勇輝くん」はもう退治できたけど、まだまだ他にもトラウマとなる「勇輝くん」がチラついていて
「あのね、あーちゃん」
「ん……」
「明日、午前中からどこかへ遊びに出掛けちゃう?」
「ん……って、へ?!」
突然の彼からの誘いにビックリして両目をカッと見開かせた。
「あっ♪ 今、すっごくビックリしたでしょ。目がまたカッて開いたから♪」
私の瞼の開き方がりょーくんにとって笑いのツボらしく、ケラケラ笑いながら楽しげに私を指差す彼。
「そりゃ開くよ! 本当にビックリしたんだもんりょーくんがいきなりデートのお誘いしてきたから!」
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