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りょーくんとあーちゃん

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 笠原亮輔くんと両想いになり、お付き合いがスタートして早や1ヶ月。

 今朝も彼のバイクの後部座席に乗せてもらい、2限が始まる10分前に大学の駐輪場に辿り着いた。

 
「おっはよー! 朝香っ!! 亮輔くんっ!!」

 始業10分前到着は既に私達の定まった到着時間と化しているから、最近では真澄もわざわざ10分前に駐輪場前で待ってくれるようになっていた。

「おはよう真澄」
「……矢野やのおはよう」

 だから、私達と真澄との「おはよう」はこの駐輪場で行うのがお決まりになっていて……。

「おっはよん! ますみん♡ おはよ~! むらかーさん♪ 笠原もおっすー!」

 どこからともなくひょっこりと真澄の隣に現れた藤井くんから個性的な「おはよう」が飛んでくるのもやはりお決まりになっていた。

「出たな妖怪っ!」
「やだぁ~!! ますみん朝から怒っちゃやぁだあぁ~……ってか、怒るますみんも美人で大好きなんだけどっ♡」

 嫌がる真澄の肩に両腕を回し、好き好き攻撃を一方的にする藤井くん。

「今朝も元気だね、藤井くん」
「うんっ!いつも元気な藤井智樹ふじいともきだからねっ!むらかーさんあらためましておはよーです」
「うん、藤井くんおはよう」
「藤井、そろそろ矢野から離れてやれよ。困ってんだろ!」
「笠原が俺に『おはよう』っつってくれたら離れるしぃ~」
「はいはいおはようおはよう」

 4人でそんな会話のやり取りをして、彼が藤井くんを背後からホールドして真澄からベリッと引きがすところまでがワンセットとなる。
 
「やあぁぁんっ!! 笠原のエッチー!!」
「何がエッチだ馬鹿野郎。少しは矢野の気持ちも考えてやれよ」
「やぁだぁ~!! 俺は自分の正直な気持ちを純粋に伝えたいだけなのおぉぉぉっ!」

 いつもなら「真澄の体から藤井くんが剥がされる」ところで、藤井くんも大人しくなるんだけど、何故か今日に限って駄々をこねている。

「まったく……朝からウザイったらありゃしないっ! 朝香っ!! 妖怪置いて先に教室入っちゃお!!」

 そんな駄々っ子な藤井くんを真澄は冷たい目で一瞥いちべつし、私に腕を絡めるなりサッサと前進し始めた。

「えっ? 笠原くん、藤井くんをホールドしたままだよ?!」

 真澄に引きられるような形になってる私は、まだ駐輪場で藤井くんを捕まえたまま立ち止まっている彼の事が気になったんだけど

「亮輔くんは優しいから私を逃がしてくれてんの。あと1分もしたら追いかけてくるでしょ。授業に遅刻は絶対にしない筈よ」

 真澄は彼の行動心理をピタリと言い当て、教室まで一直線に突き進む。

「大丈夫かなぁ」

 後ろを振り向いてみると真澄の言う通り、2人は並んで歩きながらこちらに向かってきた。彼の拳が藤井くんの頭にコツンと当たるおまけ付きで。

「ほらね、合ってた♪」

 いつの間にか真澄も彼ら2人の様子に目線を向け、「ふふん♪」と嬉しそうに微笑み教室内に4人の中で1番最初に足を踏み入れた。

「なんで分かるの?」

 真澄のあとをすぐついてきた私はそう質問を投げかけ、彼女の座った席の隣にリュックを降ろすなり中身の文房具を机の上に置いていく作業を始める。

「分かるでしょ、亮輔くんとは友達関係なんだし」
「友達関係……」
「っていうか、朝香の方が亮輔くんと親密な仲なんだから、カレの行動は私以上に分かってんじゃないの?」
「真澄以上かどうかは、まだ分かんないけど」

 机の上が座学モードへと完了した私が、その時点で左隣の真澄を見ると

「分かんないって事はないでしょうが。この1か月、朝も夕方も亮輔くんに熱烈ハグしながらアパートと大学行き来してんだもん」

 真澄は座ってダラダラ~……ダラダラ~……っと、気怠けだるい様子でゆっくり準備を整えている。

「熱烈ハグって言い方やめてよ真澄っ。バイクの後部座席に乗せてもらうんだもん、笠原くんの腰に腕を回すのは必要不可欠な行動なんだからっ!」

 真澄の言い放った「熱烈ハグ」の言葉に恥ずかしくなった私は、小声ですぐに反論したんだけど

「ひつようふかけつなこーどー?! へー? ほー? ふうぅぅぅぅんっ!」

 真澄は変顔しながら私に意味ありげつふざけた言い方で返事をした。

「去年のミスコングランプリ優勝とは思えない変顔やめなよ……」

 お嬢様で見目麗しい真澄の顔がとんでもない作り顔に変化するのを、私はまた小声で冷静に指摘するしかなかった。

「いーじゃん別にっ!! ミスコン優勝なんてマジ要らないトロフィーだしっ」
「なんでよ? 誇れるのに。なんたって優勝だよ?」
「その称号で亮輔くんみたいな素敵な彼氏ゲット出来てるなら文句言わないけどさぁ、妖怪しか取り憑いてないんだもん今の私っ!!」
「確かに真澄は今フリーだけど、先週までは彼氏居たでしょ。えっと……商社マンの歳上のイケメンの」
「だから~それは別れたって説明したじゃないっ! パパ活以上にキモい関係に持ち込まれそうになったんだもんっ」
「フッたのは真澄でしょう? 裏を返せば商社マンの歳上男性から好かれるくらい美人って事だもん」
「は? 『変態プレイを10万でやってくれ』って懇願する男を受け入れろって朝香は言うんだ? へえぇぇええ~~朝香ちゃんってばキラキラ真っ白ハートの純朴子猫ちゃんだったのに、いつの間にそのハートがドロっドロに薄汚れちゃったのかしらぁー?」

 小声による会話やり取りとはいえ、既に私達の左右前後は席が埋まってしまっている。
 だから彼らに私達の会話が漏れ聞こえるのは当然の流れで、右からも左からもクスクスという笑い声が次第に聞こえ……

「フッ、『子猫ちゃんがドロっドロ』……か」

 私の背後から大好きな彼の笑い声までもが聞こえてきた。

「!!」

(ヤバい!! 真澄との変な会話を彼に聞かれちゃった!!)

 私の頬と耳はすぐに熱くなり、恐る恐る後ろを振り向くと、ニヤッと笑いかけしてきた彼と、その隣に座ってムグムグ言ってる「口にサージカルテープを貼られた」藤井くんが視界に入った。

(ってちょっと待って! 藤井くん、唇をテープでバッテンに貼られてる! 昔の漫画みたい!)

 その姿にこっちが笑いたくなり、すぐに首を元の位置に戻し、始業の鐘の音を聴く事に専念する。

「ふふっ、やるねぇ。亮輔くんっ♪」

 真澄もやっぱり背後を確認済みだったらしい。鐘の音が鳴り止んだ瞬間に私の耳元に唇を寄せてそう囁いてきた。

「笠原くん、昨日『サージカルテープ買っとこう』って言ってたの。これの為だったんだね」
「さっすが♪ 亮輔くんは行動もイケメンよね♡」

 真澄は彼の所持品によって妖怪退治が叶ったのがよっぽど嬉しかったみたいで、その後続けて「あー、今日も朝から楽しい♪」と呟き教授が入室してくるのを明るい表情で待ち侘びている。

「もうっ……」

 私は「どこをどうツッコミを入れてよいのやら」と、やりきれない気持ちを抱えながら黙って真澄と同じ方向を向いた。

 確かに彼とお付き合いを始めてからの1ヶ月、毎日が「アオハル真っ盛り」ってくらいに楽しい日々を過ごせているのは事実だ。
 私と彼との仲は勿論、真澄や藤井くんとも今まで以上に仲良くなり、まさに「仲良し4人組」って関係が築けていると実感する。
 ただ……藤井くんの「ますみん好き好き攻撃」が日を追う事に増してきている点と、真澄の「藤井くんを妖怪扱いする」のが強固になってきてる点が気になっちゃうんだけど。
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