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私の日常は珈琲と共に
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しおりを挟む「こら朝香! まーたそんな格好してきてっ!!」
あと3日で大学の前期授業が始まる4月初旬の午後21時。
「ごめんごめん!! ギリギリまでお店の作業に取り掛かっててそのまま来たからつい……」
夜桜満開の華やかな雰囲気の中、私は親友の真澄に到着早々怒られていた。
「えっ? 朝香がバイトしてる珈琲店って、19時半が閉店時間じゃなかったっけ?」
「そうなんだけど実際はそこから片付けや掃除やったりレジの締め作業やったり明日焙煎する銘柄と量の確認とかやったりしてたらどうしても20時半近くなって……」
「それで朝香のバイト先から比較的近い夜桜スポットまで急いで移動したらこうなったって事か」
「うん、そういう事」
真澄とは入学以来の友達で、私の日常が珈琲と密接にある事を知っている。
だから今も、私との会話を通してそれらを納得してくれてるような表情になってくれたんだけど
「『うん、そういう事』じゃぁ、ないっ!!
いい加減にして!! 今日はお花見合コンだよ? 朝香のいろ~んな事情を踏まえて、わざわざ21時半っていう超微妙な集合時間にして、尚且つ朝香のファッションチェックの時間も考慮した上での21時待ち合わせなのよ?
お花見合コンなんだから、せめて可愛いシフォンスカートくらい履いてきてよっ! なんでふっつーのパーカーにふっつーのデニムパンツなのよ? 髪もポニテのままだし!!」
「ひゃう」
真澄からのお叱りが怖くて、私は両目をギュッと閉じ両手で耳も塞ぐ。
(分かってるよ……今日は私の彼氏さん候補が来てくださるっていうから、この叱りはキチンと受け止めなきゃいけないし、改善しなきゃいけない事だって理解してる……だけど)
「もうっ……朝香が言いたい事は分かるよ?朝香には朝香の将来があるんだし、その為にバイト代をお洒落なアイテムに使えないのも分かってる」
「うぅ」
「珈琲の勉強をしっかりやって、珈琲に人生かけたい気持ちも分かる! だけどさぁ」
「……」
真澄が正論過ぎて何も反論出来ない。
「はあああぁぁぁぁ~仕方ないっ! 今からマッハでヘアメイク済ませちゃおう! それが『朝香の日常』で変えようがないんだから!」
だから大きな溜め息をついた真澄に対して、私は涙目のまま上目遣いで見つめ返す事しか出来なかった。
(ごめんね真澄……それからいつもありがとう。
でも本当は今日のお花見合コン、バイト先に言えば早く帰らせてもらえたんだよ。
早く帰らせてもらって、一旦帰宅して服装を整えてここに来る事も本当は出来たの)
「真澄、相変わらずヘアアレンジが上手だね。ありがとう」
「良いの良いのっ! これは私の新しい恋への一歩でもあるんだから。朝香の為でもあるけど私の為でもあるの」
「ふふっ、2人共優しくて良い人かなぁ」
「朝香のお相手予定の人は特にねっ。なるべく優しいって評判の人を紹介してもらう予定よ」
私へのヘアアレンジが完了したら、真澄はメイクブラシを手にして私の顔の前に立った。
「ちょっと、目を閉じていてね」
「うん」
真澄に言われるがまま、私は瞼をゆっくりと下ろす。
……と、その直前、真澄の軽やかでお洒落な刺繍が入ったスカートが私の視界にチラリと入り込んだ。
(私とは真逆の可愛いスカート……やっぱりここまで可愛くなくてもスカートは穿いてくるべきだったかなぁ)
そんな考えが頭を過ぎったものの、すぐに両目をギュッと固く閉じて首を左右に振る。
「あっ! 瞼に力入れたり首を振ったらダメだってば!!」
「ああ……ごめんね、真澄」
「大丈夫? 緊張してる?」
「……多少は」
真澄に苦笑いの口元を見せた私には、既にお花見合コンの後にやってくる帰宅の電車の心配が波のように押し寄せていて……お花見合コンを思いきり楽しむ事は出来ないだろうという予想を自ら立てていた。
「恋愛して自分を変えたい」って思う。
だけど、真澄みたいな可愛いスカートを履くのに躊躇ってしまう気持ちも強く残っている。
(だって……このお花見合コンが終わる時間になったら、1人で夜の満員電車に乗り込まないといけなくなるから)
楽しい筈のお花見合コンに暗い影を落とす満員電車。
「よしっ! メイクも完了っ!! 今夜の朝香は特別可愛いよ♪」
「ありがとう真澄」
「緊張はしなくて良いの。一緒にジュース飲んでお菓子やピザ食べてお話するだけっ!
もっと気楽に考えようよ♪……ねっ?」
「うん……そうだね」
苦笑いの口元を更にクイッと上げて、笑顔を真澄に向けてみせた。
(満員電車が怖いけど、今は楽しんでみよう。せっかくの夜桜見物だし真澄が私の為に色々動いてくれたんだし……)
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