57 / 60
夜に咲く山百合
酒酔い醒めぬまま、花香に酔う
しおりを挟むコーヒーの一気飲みでビールの酔いは完全に抜けたつもりでいた。
「帰ろう、一緒に」
けれど、頬の熱はどんどんと上がっていくし
「お姉さんを……馨さんを、いっぱい心地よくしてあげる」
胸の鼓動はうるさく打ちつけ、落ち着きを全く見せていない。
馨は一瞬目を大きく見開いたが、燿太の誘いを断る素振りをせず
「うん」
と、小声を出し……小さく頷いてくれた。
「ん……」
燿太にとってそれは嬉しくてたまらず、股間を更に硬く起立させるに至った。
「じゃあ、行こうっか」
「うん」
燿太が馨の手をとり、反対側の手で彼女の荷物を持ってやる。
(お姉さんがボクの誘いに乗ってくれた……)
単純に嬉しいだけではなかった。
同時に「この手を離すまい」と、欲をかいたのだ。
胸の鼓動は地下鉄の席に座ってもおさまらない。
(ボクってこんなに暴走するタチだったかな……)
犬となって誰かを癒したり、主人との夜を過ごしたりする時だって、今夜ほど興奮してはいなかった。何故ならその「誰か」も「主人」も所謂本命の相手とやらが存在しており、所詮自分は女性達の欲を解消する道具の一つであると自覚していたからだった。
けれど、現在の木崎馨は違う。
夢中になって零コンマ1秒の世界へと没入していた高校二年の若き力は醜い妬みによって手折られ、それから「好きな人と結婚し家庭を育む」という誰もが一度は頭を過ぎるようなありふれた風景をも失い絶望の淵に立っているようなものだ。
燿太は二度も折れそうになっている29歳の木崎馨と運命的な出会いをし、「羨望」から「恋慕う」に想いを変え、今こうして彼女の隣に座って支えている。
今の彼女には想い人が居ない、何かしらを推している存在もない。
今の燿太が彼女を望めば、こちらの想いに応えて振り向いてもらえる確率が高まるだろうか……?
それはもう、ただの疑問ではなく希望に近い問いのようになっていて
(ビールの所為かも……多分ボク、まだ酔ってるのかも)
「なるべくならその希望を現実のものにしたい」という考えが強まっていった。
*
「着いたよ、お姉さん」
燿太はいつものように201号室へ馨を呼び込むと
「けど……ごめん、いつもみたいに出来ないかも」
オイルほぐしをする為の折り畳みベッドではなく、寝具として使用しているシングルベッドへ彼女を寝かせる。
「ん……」
仰向けになった馨の耳は真っ赤に染まっていて
「可愛い」
湧き上がった感情そのままを言葉としてぶつける。
「……」
「可愛いし、綺麗だよ。馨さんは」
もしかしたら自分の頬もこのくらい赤く染まっているのだろうか? と思いながら、熱を確かめる意味でも自分の指を彼女の耳に添えてみた。
「……」
「うん……間違いない」
キュッと唇を一文字に瞑る彼女は、燿太の「間違いない」は先程の「可愛いし、綺麗」にかかっていると考えたのだろう。
「っ……恥ずかしいから、やめてよ」
彼女はそう言って顔を背けた。
「ううん……」
けれど、燿太にとって「間違いない」は耳の赤さと頬の熱の確認でしかなかったので
(真っ赤な耳をボクにいっぱい見せてくれて嬉しいな……キャットアイメイクもちゃんと見れて嬉しいな)
「やめないよ、やめるわけない」
真横に向けた彼女の顔に更なる欲情を高め……断りもなく耳に向かって口付ける。
「んっ」
「……っ、ん」
彼女の小さな喘ぎは燿太の熱を際限なく高めていき、水音を混じらせながら唇で吸い付く行為をやめられないでいる。
「ぁ」
「ふふっ♡ 馨さん、耳弱いんだ?」
燿太は余計に嬉しくなり、チュッと吸うだけでなく舌でも愛撫を始める。
「ぁぁ」
「可愛いらしい反応だね、もしかして初体験?」
「っ、や、ぁ」
耳が性感帯であるのを自覚した事がなかったのだろう、馨はますます可愛らしい反応を見せてくれた。
「馨さんのちっちゃな喘ぎ声、大好きだよ」
艶めいた彼女の声は燿太の言葉通りささやかでか弱いものだった。
『うとうと屋さん』の客みたいに躊躇いなく大きな声で発散するでもなく、かといって喘ぎ声を全く発する事なくジッと蹂躙されるのを耐えるのでもなく、「気持ちいい」と自分の感情を表現する代わりに褒めの語句を羅列してくるわけでもない。馨の反応は燿太にとって初めての体験であり、心の奥底に眠っていた何かをくすぐられているような気分になった。
(ここは古いマンスリーマンションで壁が薄いもん。気持ち良くても思いきり声出せないよね)
馨の声がそのようになってしまう理由は存分に理解していた。だからこそ、それがゾクゾクくるのだ。
(小さくてもいいから……吐息でもいいから、地声じゃない馨さんの声が聞きたいな……)
女性を悦ばせるテクニックは持っている。4年ほどチワワで居たが、それ以前はケースケやカナタのように客の粘膜に指を差し入れ、溢れ出た体液を嚥下していたのだから方法を知らない訳ではなかった。
(久しぶりに啼かせてあげたいな……)
「っぁ、ああ」
鎖骨を舐めると唇が鮮やかな紅に変化し、脚も妖しく開いていく。
「馨さんのスケベ♡」
それを好機と捉えた燿太はワザと意地の悪いセリフを吐いて
「やっ……言わないでっ」
「ううん、言っちゃう♡ スケベな馨さん可愛くて大好きだから♡」
馨の妖しさ美しさにうっとりとしながらも、更に……
「ねぇ、脱がしてもいい? 馨さんの全部が見たい」
彼女の香りを存分に吸い込んで酒酔いよりも更に強い酔い方をして、己の熱さを煮えたぎらせたいと欲する。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
言祝ぎの子 ー国立神役修詞高等学校ー
三坂しほ
キャラ文芸
両親を亡くし、たった一人の兄と二人暮らしをしている椎名巫寿(15)は、高校受験の日、兄・祝寿が何者かに襲われて意識不明の重体になったことを知らされる。
病院へ駆け付けた帰り道、巫寿も背後から迫り来る何かに気がつく。
二人を狙ったのは、妖と呼ばれる異形であった。
「私の娘に、近付くな。」
妖に襲われた巫寿を助けたのは、後見人を名乗る男。
「もし巫寿が本当に、自分の身に何が起きたのか知りたいと思うのなら、神役修詞高等学校へ行くべきだ。巫寿の兄さんや父さん母さんが学んだ場所だ」
神役修詞高等学校、そこは神役────神社に仕える巫女神主を育てる学校だった。
「ここはね、ちょっと不思議な力がある子供たちを、神主と巫女に育てるちょっと不思議な学校だよ。あはは、面白いよね〜」
そこで出会う新しい仲間たち。
そして巫寿は自分の運命について知ることとなる────。
学園ファンタジーいざ開幕。
▼参考文献
菅田正昭『面白いほどよくわかる 神道のすべて』日本文芸社
大宮司郎『古神道行法秘伝』ビイングネットプレス
櫻井治男『神社入門』幻冬舎
仙岳坊那沙『呪い完全マニュアル』国書刊行会
豊嶋泰國『憑物呪法全書』原書房
豊嶋泰國『日本呪術全書』原書房
西牟田崇生『平成新編 祝詞事典 (増補改訂版)』戎光祥出版
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。
今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。
【短編集】リアル・ラブドールの憂鬱
ジャン・幸田
SF
ラブドールに中の人はいない! はずだが、実は我がキジネコ・サービスが提供するサービスは本物の女の子が入っている。そんな、中の人にされた女の子の苦悩とは?
*小説家になろうのアダルトコンテンツに同名で連載している作品と同じです。
趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです
紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。
公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。
そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。
ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。
そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。
自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。
そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー?
口は悪いが、見た目は母親似の美少女!?
ハイスペックな少年が世界を変えていく!
異世界改革ファンタジー!
息抜きに始めた作品です。
みなさんも息抜きにどうぞ◎
肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!
婚約破棄、喜んでお受けします。わたくしは隣国で幸せになりますので
しおの
恋愛
前世、読んだことのある小説の悪役令嬢に転生してしまった主人公。
婚約破棄? 喜んでお受けしますわ。
そのために十歳から断罪に備えさせていただきます。
その後はわたくしの好きにさせていただきますので。
41話完結。
※R18 性的描写ありますのでお気をつけください。
この作品に限らず私は書きたいものを書きたいように書いておりますので、色々ご都合主義多めです。
バリバリの理系ですので文章は壊滅的ですが、雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。
読んでいただきありがとうございます!
誤字脱字、間違い報告ありがとうございます!
番外編、近いうちに書こうかなと思います。
感想や報告、ありがとうございました!
番外編アーティの回想
3/25日から一日1話ずつ全7話くらいで終わりますが載せていきます。
長男イース編さわりだけ載せておきます。
これは続きを書くかは未定ですが。
ようこそ奴隷パーティへ!
ちな
ファンタジー
ご主人様に連れられて出向いた先は数々のパフォーマンスやショーが繰り広げられる“奴隷パーティ”!? 招待状をもらった貴族だけが参加できるパーティで起こるハプニングとは──
☆ロリ/ドS/クリ責め/羞恥/言葉責め/鬼畜/快楽拷問/連続絶頂/機械姦/拘束/男尊女卑描写あり☆
Bグループの少年
櫻井春輝
青春
クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?
航海のお供のサポートロボが新妻のような気がする?
ジャン・幸田
恋愛
遥か未来。ロバーツは恒星間輸送部隊にただ一人の人間の男が指揮官として搭乗していた。彼の横には女性型サポートロボの登録記号USR100023”マリー”がいた。
だがマリーは嫉妬深いし妻のように誘ってくるし、なんか結婚したばかりの妻みたいであった。妻を裏切りたくないと思っていたけど、次第に惹かれてしまい・・・
予定では一万字前後のショートになります。一部、人体改造の描写がありますので、苦手な人は回避してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる