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夜に咲く山百合

酒酔い醒めぬまま、花香に酔う

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 コーヒーの一気飲みでビールの酔いは完全に抜けたつもりでいた。

「帰ろう、一緒に」

 けれど、頬の熱はどんどんと上がっていくし

「お姉さんを……馨さんを、いっぱい心地よくしてあげる」

 胸の鼓動はうるさく打ちつけ、落ち着きを全く見せていない。


 馨は一瞬目を大きく見開いたが、燿太の誘いを断る素振りをせず

「うん」

 と、小声を出し……小さく頷いてくれた。

「ん……」

 燿太にとってそれは嬉しくてたまらず、股間を更に硬く起立させるに至った。

「じゃあ、行こうっか」
「うん」

 燿太が馨の手をとり、反対側の手で彼女の荷物を持ってやる。

(お姉さんがボクの誘いに乗ってくれた……)

 単純に嬉しいだけではなかった。
 同時に「この手を離すまい」と、欲をかいたのだ。



 胸の鼓動は地下鉄の席に座ってもおさまらない。

(ボクってこんなに暴走するタチだったかな……)

 犬となって誰かを癒したり、主人との夜を過ごしたりする時だって、今夜ほど興奮してはいなかった。何故ならその「誰か」も「主人」も所謂とやらが存在しており、所詮自分は女性達の欲を解消する道具の一つであると自覚していたからだった。

 けれど、現在の木崎馨は違う。
 夢中になって零コンマ1秒の世界へと没入していた高校二年の若き力は醜い妬みによって手折られ、それから「好きな人と結婚し家庭を育む」という誰もが一度は頭を過ぎるようなありふれた風景をも失い絶望の淵に立っているようなものだ。
 燿太は二度も折れそうになっている29歳の木崎馨と運命的な出会いをし、「羨望」から「恋慕う」に想いを変え、今こうして彼女の隣に座って支えている。
 今の彼女には想い人が居ない、何かしらを推している存在もない。

 今の燿太が彼女を望めば、こちらの想いに応えて振り向いてもらえる確率が高まるだろうか……?

 それはもう、ただの疑問ではなく希望に近い問いのようになっていて

(ビールの所為かも……多分ボク、まだ酔ってるのかも)

 「なるべくならその希望を現実のものにしたい」という考えが強まっていった。
 





「着いたよ、お姉さん」

 燿太はいつものように201号室へ馨を呼び込むと

「けど……ごめん、いつもみたいに出来ないかも」

 オイルほぐしをする為の折り畳みベッドではなく、寝具として使用しているシングルベッドへ彼女を寝かせる。

「ん……」

 仰向けになった馨の耳は真っ赤に染まっていて

「可愛い」

 湧き上がった感情そのままを言葉としてぶつける。

「……」
「可愛いし、綺麗だよ。馨さんは」

 もしかしたら自分の頬もこのくらい赤く染まっているのだろうか? と思いながら、熱を確かめる意味でも自分の指を彼女の耳に添えてみた。

「……」
「うん……間違いない」

 キュッと唇を一文字いちもんじに瞑る彼女は、燿太の「間違いない」は先程の「可愛いし、綺麗」にかかっていると考えたのだろう。

「っ……恥ずかしいから、やめてよ」

 彼女はそう言って顔を背けた。

「ううん……」

 けれど、燿太にとって「間違いない」は耳の赤さと頬の熱の確認でしかなかったので

(真っ赤な耳をボクにいっぱい見せてくれて嬉しいな……キャットアイメイクもちゃんと見れて嬉しいな)

「やめないよ、やめるわけない」

 真横に向けた彼女の顔に更なる欲情を高め……断りもなく耳に向かって口付ける。

「んっ」
「……っ、ん」

 彼女の小さな喘ぎは燿太の熱を際限なく高めていき、水音を混じらせながら唇で吸い付く行為をやめられないでいる。

「ぁ」
「ふふっ♡ 馨さん、耳弱いんだ?」

 燿太は余計に嬉しくなり、チュッと吸うだけでなく舌でも愛撫を始める。

「ぁぁ」
「可愛いらしい反応だね、もしかして初体験?」
「っ、や、ぁ」

 耳が性感帯であるのを自覚した事がなかったのだろう、馨はますます可愛らしい反応を見せてくれた。

「馨さんのちっちゃな喘ぎ声、大好きだよ」

 艶めいた彼女の声は燿太の言葉通りささやかでか弱いものだった。
 『うとうと屋さん』の客みたいに躊躇いなく大きな声で発散するでもなく、かといって喘ぎ声を全く発する事なくジッと蹂躙されるのを耐えるのでもなく、「気持ちいい」と自分の感情を表現する代わりに褒めの語句を羅列してくるわけでもない。馨の反応は燿太にとって初めての体験であり、心の奥底に眠っていた何かをくすぐられているような気分になった。

(ここは古いマンスリーマンションで壁が薄いもん。気持ち良くても思いきり声出せないよね)

 馨の声がそのようになってしまう理由は存分に理解していた。だからこそ、それがゾクゾクくるのだ。

(小さくてもいいから……吐息でもいいから、地声じゃない馨さんの声が聞きたいな……)

 女性を悦ばせるテクニックは持っている。4年ほどチワワで居たが、それ以前はケースケやカナタのように客の粘膜に指を差し入れ、溢れ出た体液を嚥下していたのだから方法を知らない訳ではなかった。

(久しぶりに啼かせてあげたいな……)

「っぁ、ああ」

 鎖骨を舐めると唇が鮮やかな紅に変化し、脚も妖しく開いていく。

「馨さんのスケベ♡」

 それを好機と捉えた燿太はワザと意地の悪いセリフを吐いて

「やっ……言わないでっ」
「ううん、言っちゃう♡ スケベな馨さん可愛くて大好きだから♡」

 馨の妖しさ美しさにうっとりとしながらも、更に……

「ねぇ、脱がしてもいい? 馨さんの全部が見たい」

 彼女の香りを存分に吸い込んで酒酔いよりも更に強い酔い方をして、己の熱さを煮えたぎらせたいと欲する。
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