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3文字が、私を壊す

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「なっ……なんだよ健人、そこまで怒鳴らなくたって」
 
 キヨさんの声は、この異様な雰囲気によって弱々しくなっていくのに

「俺だって知らないまま仕事したかったよ……知らないまま! 『清さんが世話になった先生に良いの選ばなくちゃ』とか! 鼻歌うたいながら呑気にプロの仕事したかったよ!!」

 田上くんはせきを切ったように喋り始める。

「なんで……なんで今の『高美昌弘たかみまさひろ』じゃダメなんだよ! なんでわざわざ旧姓の方で送り先書かなきゃいけねーんだよ! 何が『』だ馬鹿野郎が!! マジで知りたくなかったっつーの!!!!
 清さんが世話になったマサ先生とやらはなぁ!! 俺の大事なお客様を3傷付けたとんでもねぇクソ男なんだよ!!」
「健人……」
「っていうかさぁ!! 息子のジュンくんはこんなに気を遣えるのになんで清さんは鈍いんだよ! 察してくれよ俺の嫁さんにまで辛い仕事させんなよクソ男のアホみたいな嘘を信じてんじゃねーよ!!!!」

 田上くんの声は大きく、怒りに震えていて……悲痛に感じた。

「許嫁が居た? ……皐月さつきちゃんに執着して身も心も傷だらけにしておきながら許嫁が居たんだあのクソ男。
 ふざけんなよ……じゃあなんで皐月ちゃんは地獄みたいな恋愛続けた上に死ななきゃいけねーんだよ! なんで亮輔りょうすけくんはそんなクソ男に頭を切られてなんで遠野が何年も電車乗れないくらいにトラウマ抱えなきゃいけねーんだよ!」

「えっ? 亮輔くんって、朝香ちゃんの彼氏の事?」
「そういえば頭にデカい切り傷あったよなぁ」
「普段は目立たないヘアカットしてんのよね。でも時々チラ見えしちゃってねぇ……ちょっと気になってたのよねぇ……」

 皐月ちゃん、では分からなくても、この商店街で「朝香ちゃんとの仲良しカップル」として知られている亮輔くん、で周囲はザワつき始めた。

「じゃあ、あの傷は清さんが世話になった先生ってヤツが昔やったって事?」
「嘘だろ……」

 田上くんは一度沸き上がった怒りを制御出来ず、ズンズンと清さんの方へ歩み寄る。

 その場で固まっていたジュンも通り越して……そのまま清さんの目の前に立って……

 ガッ!!!

 次の瞬間、清さんの頬が赤く腫れた。

「ちょっと健人」
「危なっ! 清さんがっ」

 清さんを支える人達と、目を白黒させてる清さんと……田上くんの怒りに燃える背中。

 まだ混乱している私はそれを後ろから眺める事しか出来ていない。

「俺が今ブチ切れてんのはなぁ! 清さんが意気揚々と喋ってたくだらねー話だよ!! 『マサ先生はお坊ちゃんだから許嫁婚だったんだ。けど、何年か前にに付きまとわれて苦労してなぁ……それで最近ようやく結婚出来たって訳なんだ。
 マサ先生は良い人だから、その無碍むげに出来なかったんだろうよ可哀想になぁ~』だっけ? くだらなさ過ぎて一言一句覚えちまったじゃねーかその嘘マジでムカつくわ!!
 『変な女に付き纏われた』とかよく平気な顔して患者に言えるよ変なのはクソ男の方じゃねーか! クソ男が起こした事で1番苦労してんのは遠野なんだよ血の繋がった家族なんだよ!! 清さんもそんなクソの言う嘘信じんじゃねーよ! ジュンくんならすぐに察するってーの!!!
 扱いされた皐月ちゃんや遠野が可哀想過ぎるよ……」

 田上くんの声は、私のこんがらがった糸みたいなものを一つ一つ解いていき……

「清さんのリハビリを担当した理学療法士って……」

 私の頭に、田上くんが言わせないようにしてくれていた平仮名3つの名字が浮かんで

「皐月……あなた、それ……知ってたの知らなくて、恋……してたのよね??」

 「もしかして妹は許嫁が居る事すら知りながら医学生の彼と付き合っていたのではないか?」という考えまでもが駆け巡って……

(皐月の手紙……あの家に残したまま読めてない……!!)

 6年前に手放したあの家に、皐月が私に遺してくれた手紙を置いたままにしていた事を思い出した。


 ダッ……

 私が駅方向へ駆け出すのと同時に

「ユウちゃん!」

 ジュンの呼び声や足音が追いかけ……数分シンクロする。
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