上 下
62 / 113
キュウッと締め付けられる

2

しおりを挟む
「戻ろうっか……散歩に」

 私は左側を向いて、ジュンの顔を久しぶりに見る。

「そうだね」

 私の話を受けてか、とても辛そうで痛そうな表情をしていた。

「ジュンはショック受けなくていいのよ。私の家族の、くだらない話なんだから」

 私がそう言い返すとジュンはその大きくて熱い手のひらで私の頭をポンポンしながら

「くだらないなんて言わないで……大事な話を俺なんかにしてくれてありがとう」

 そう言い、涙目を細めて微笑んだものだから

「   」

 無意識に私の左目から涙がこぼれ落ちる。

「ユウちゃんの辛い気持ち、俺にも伝わるよ。ユウちゃんの話は笑って聞き流せないけど、だからこそ嬉しい」
「……」
「俺は馬鹿だしチャラいけど、話は聞けるから」


ーーー

『ジュンくんなら……遠野の色んな部分を理解してくれそうな雰囲気あるんだけどなぁ』

ーーー

 ふと、私の脳内に「双子の弟」のセリフがリフレインする。

(田上くんが言っていた事……本当だったのかも)

 急に私の心がキュウッと締め付けられた。


「田上くんに謝らなくちゃ……田上くんとの喧嘩の原因は私なの。私が変に頑固になっちゃったから」

 珈琲店に戻るまでの帰り道、私はジュンの顔を見つめながらそう話すと

「あー、そういえばさっき健人も同じような事言ってたよ。ユウちゃんの店に寄る直前に健人とも話したんだ」

 と、ジュンは兄貴分みたいな風を吹かせる。

「そうだったんだ……」
「健人言ってたよ『家族を沢山亡くした親友に酷い事いっぱい言っちゃった』って。
 『出来ればまた明日もちゃんと楽しく会話したい』って」
「そっか……」

 偶然なのかそれともか、ジュンの口から「脳内家族」や「双子の弟」というワードが無い。
 私はその意味を探りつつ、細く長い息を吐いた。

(私も私で、そろそろ卒業しないといけないなぁ「脳内家族」や「家族ごっこ」)

 田上くんは反省していたようだったけど、「脳内家族に付き合うのを辞める」と宣言したのは本心でもあったのだろうと思う。

 ジュンへの「好き」の気持ちを押し殺すのか解放するかの前に、私はもうとっくのとうに「ごっこ遊び」をしてはいけない年齢に達しているのだ。
 義郎さん裕美さんが私を娘のように、朝香ちゃん亮輔くんが私を姉のように想ってくれる気持ちは純粋に受け止め、甘え過ぎてはいけないと心に強く思う事にした。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?

ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。 しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。 しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...