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10回目の帰省
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しおりを挟む「……ここ?」
「そう」
不思議そうに辺りを見回すジュンの態度に、私はクスリと笑う。
「なんで……こんな、駅裏の道の途中に?」
彼が不思議に思うのも無理はないと思った。
「この先の向こうに、父と母と……妹と住んでいた住宅地があるの」
私が真正面を見つめながら言うと
「駅裏の住宅地かぁ」
ジュンの声も私と同じ方向を向く。
「もうね、私の所有じゃなくなってるの。都市開発予定地だから……いずれは立ち退かなくちゃいけないからって、妹が死んですぐにサインしちゃって……もう、あの家は誰のものでもなくなってしまったから」
「都市開発……確か、車線を増やすとか公共施設を建設するとかいう噂があるよね」
私の話に、ジュンは一切疑問に思う事なく口を開いた。
「そう。タワマンの噂は立たないのよねー、何故か」
「この辺じゃタワマン建てらんないでしょ。都内の中でものんびりしてるから、ここは」
会社でしか私と共通点がなかったジュンだって、実はこの土地で生まれ育った地元民だ。昔からそう言った噂はかねがね聞いていたのだろうと思う。
「本当はね、家まで行ってみたいの。だけどもう所有を放棄してる状態だし未練たらしく家だけをジロジロ見るのも良くないかなぁなんて思ってね。ここまでしか行かない事にしてるの」
「そうなんだ……」
私の隣で、ジュンは優しくて柔らかな声で相槌を打った。
「まぁ……まだ家が壊されてる訳じゃないし、見に行こうと思えばまだ行けるんだろうけどね」
私は彼の優しい声に甘えて、自分の話を少しずつし始めた。
「私があの家へ行きたいってなるのは、よっぽどの事がないとあり得ないと思うのよ。
だからいつも行くのはここまで……っていっても、この5年でここには10回も来てないんだけどね」
「……じゃあ、ここはユウちゃんにとっての」
「心の拠り所っていうのかなぁ……」
私の言葉に、ジュンは一呼吸置きながらゆっくりと返事をして
「ユウちゃんにとって、ここは帰省の場所なんだね。『ただいま』って、言う場所だね」
あくまで優しく、柔らかく、私を肯定してくれた。
「そうね……『ただいま』に、なるわね……」
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