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10月18日

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 グラタンを食べ終えてもテラス席でたわいもない会話を続けていた私と田上くんだったんだけど

「えっ? 臨時の集会、今から始まんの? マジで??!!」

 不意に鳴り響いた田上くんの着信音をきっかけに、優雅なランチタイムの秋風がピタッと止む。

「えっ? 田上くん、今のって」

 物凄く嫌な予感がしてスマホをエプロンのポケットに突っ込んだ彼に呼び掛けた。

「嫁さんから連絡きた! 臨時集会が今から始まるみたい。集会所に行かないとヤバいよ遠野!」
「マジ? なんで今日臨時でやんの? 一日待てないの?」

 例の集会は明日の筈だ。なんでわざわざ前日に臨時なんか開くのだろう?と私は不思議でたまらなかったんだけど

「なんか分かんないけど……キヨさんが倒れたみたい……」

 信じられないとでも言いたげな田上くんが、唇を震わせながら私にそう伝える。

「えっ? 清さんが?!」

 偶然にも私達が話題にあげていた『キヨパン』の清さんが倒れたというしらせは度肝を抜くものであって

「俺、先に集会所行くよ! 遠野も食べ終わったから急いだ方がいいかも!!」
「うん! 分かった!! 急いで追いかける!!」

 私も田上くん同様に青ざめ、早々に会計を済ませると洋食店から集会所まで一気にダッシュした。

 集会が2日連続になるのはしんどいし、せっかく朝香ちゃんから貰えたランチタイムが強制終了された悔しさはほんの少しある。
 けれども清さんは「商店街を照らす温かな光みたいだ」と皆が口々に語るくらいに良い人で、義雄さんと仲が良いだけでなく私や田上くんのような若者にも優しく接してくれていて「義雄さんとの潤滑油」の役目を担ってくれている非常に有難い人だ。

(倒れただなんて……あの、元気で明るい清さんが……そんな!!)

 急いで既に皆が集まってる中へと入っていく。

 すると……

「———というわけで、今日から2週間父が入院する事になりました。その間、店は通常通り兄夫婦が…………母は父の世話等で外出する事が多くなりますので皆様ご了承お願い申し上げます」

「えっ」

 私の目に飛び込んだのは、商店街メンバー面々の後頭部と、記憶に残る茶色のウェーブヘアを冠した男で……


「ほだか…………くん?」

 7年前と見た目がさほど変わらない彼の姿に私は目を見開きながら、口からその名を呟いてしまった。


「あれっ? 夕紀ちゃん、まさか『ジュン坊』を知っているのかい?」

 すると、私の隣に立っていた「長沢金物店」の店主で我が店の常連様である長沢さんが、不思議そうな声色を聞かせながら私の肩をトンッと叩いたのだから

「えっ??!!! 清さんがいつも言ってた『バカ息子のジュン坊』って、穂高ほだかくんの事だったの??????!!!!!!」

 と、皆が……まして本人が居る前でかなり大きな声を出してしまった。


「ああ~! 夕紀ちゃんダメだよ! 集会中は静かに!」

 長沢さんが慌てて指を口元に持ってきて私に合図したけどもう遅い。

「えっ? 夕紀ちゃん?」
「遠野……ジュンくんと知り合いだったの?なんで?」

 近くで立っていた「もりやま青果」の初恵はつえさんや田上くんだけでなく

「遠野さんって確か、ジュン坊がこっち来なくなった後に店出したよな?」
「変だよなぁ」
キヨさんも美智代みちよさんもジュン坊がなかなか帰ってこないって嘆いてたっていうのに」

 一斉に私の方を向いてしまってザワザワし始め……

「えぇ!!? 本当の本当に遠野さんなの????」

 さっきまで説明口調で皆に喋っていた彼がハイトーン&ハイテンションボイスを出しながら私の方へと顔を向けてしまったのだった。

「あ…………」

 私は彼の大きな口から発せられた声で「7年前の10月18日に棄てた彼だ」という確信を持つ。
 綺麗な茶髪のウェーブヘアや乳白色の肌だけでなく、声もテンションの高さも他人と一致するだなんて有り得ないと思ったから。

「やっぱり遠野さんじゃん!!本物だ! 超久しぶり!! えー? どうしてここに居るの? ビックリなんだけど!」

 周囲からの視線に顔が熱くなる私の方へ彼は大股でズンズンと近付き、ためらいもなく私の手をギュッと握ってきた。

「えっ……ちょっ!」

 急に手を握られて戸惑う私に、長沢さんは苦笑いになり

「今朝に清さんが入院したっていうんで、ジュン坊はわざわざ有給取ってこっちに帰って来てくれたみたいでね。しばらく商店街の集会とか手伝いに来てくれるみたいなんだ」

 と、説明してくれた。

「え? 穂高くんが集会の手伝い?!」

(穂高くんが例の「バカ息子のジュン坊」だった事に驚いてるっていうのに、明日の集会にも参加するとか……! 理解が追いつかないんだけど!!)

「清さん、入院2週間くらいかかるらしいよ。ジュンくん優しいよね! なんだかんだいって地元好きなんじゃん♪」

 「ジュン坊」と幼馴染の田上くんが喜ぶのはまぁ、意味が分かるとして

「遠野さんの店って、うちのパン屋の2軒隣なんだってね! さっき義雄さんから聞いたよー♪  知らなかったー! なぁんか運命感じちゃう♡ すげー嬉しい♡」

 田上くん以上に笑顔になってピョンピョンと子どもみたいに垂直跳びして喜ぶ穂高くんのが正直理解出来ない。

「清さんが入院しちゃってしばらく集会来られないからジュン坊が代わりに出てくれたり店の見回りとかしてくれるみたいよ。清さんの代わりになる人がすぐ来てくれて助かるわ♪」

 初恵さんは私と穂高くんを微笑ましく交互に見つめて意味深なニヤニヤをしてくるし……長沢さんも田上くんも「良かった良かった」と頷いちゃってるし……

「えっ…………ええええ………」

 予想だにしていなかった穂高くんとの再会に、私はうろたえる事しか出来なかった。





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