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3、エノキの語る801穴

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前回のあらすじ

ガッチムーチカントリーの住民は全員ガチムチでうほっ。としてました。



☆☆☆☆☆



 ムチオさんに連れられ、村長の家までやってきた。
 どうやらこの村では俺のようなモヤシは珍しいようで(住民全員ガチムチだもんな……)、ここに来るまでも情熱的な熱視線を何度も感じたのだった。

 一旦はムチオさんから逃げようと思った俺だけど、この村でひとりになるのは非常にデンジャーだと思い知らされた。

 幸いムチオさんは力ずくで俺をうほっ。とするつもりはないみたいだし、どんな危険が潜んでいるか分からない以上、ムチオさんと一緒にいるのが一番安全なはずだ。

「しっかし……大きい家ですね」
「村長は村で随一のガチムチだからね。家も大きくなるのだよ」

 いやいや、
 身体の大きさ=家の大きさ
 ってどんな理屈だよ。

「ここにいても仕方がない。行こうかモヤシくん」

 ムチオさんがスタスタ歩いていく。村長宅の家のドアは開いていた。
 というか、この村はどの家もドアが少なからず開いていた。ムチオさんに理由を聞いたら……「いつでもパートナーが入ってきてハッテンできるようにさ」と、頭が痛くなるような答えが返ってきたのだ。

 この村長の家も、パートナーウェルカムってことだよなあ……。俺は無事に帰れるんだろうか……。

「なにしてるんだい?」
「あ、すみません。今行きま……って、なにやってるんですかアンタ!?」

 いつの間に脱いだのか。
 ムチオさんがすっぽんぽんになっていたのだ。

 紳士の嗜み(らしい)靴下までも脱ぎ去り、一糸纏わぬ姿で仁王立ちしている。
 先程までブーメランで隠されていた場所には立派なゾウさん……いや、マンモスが威風堂々パオーンしている。

 マンモスの鼻が下を向いていたのは救いだ。もし鼻を振り上げていたら、脇目も振らずに一心不乱に駆け出していた自信がある。

「家の中では全裸が正装だと教えたじゃないか。さあ、モヤシくんも脱ぎたまえ」

 ああ……そうだった。確かにそんなこと言ってた……。忘れてた……というか、忘れたかった記憶を掘り起こされた。

「どうしても嫌なら、私が手取り足取り優しく脱がしてあげようか……?」
「大丈夫です!」

 少しムチオさんから距離を取り、背を向けトランクスを下げた。
 ムチオさんに任せたらドサクサまぎれにうほっ。とされる危険がある。自分でやったほうがまだマシだ。

 大事な部分を手で隠してムチオさんに向き直ると、彼は少し残念そうな顔でこちらを見ていた。

「ふう……。モヤシくんはシャイボーイなんだね。でも……それはそれでまた……うほっ」
「さあ行きましょう! 今すぐ行きましょう!」

 ムチオさんの声を聞こえなかったことにして、俺たちは村長の家に入っていったのであった。


…………

……


 家の人(使用人らしい)に案内され、大きな部屋で正座をしながら村長を待つことになった。
 驚いたことに、この部屋は畳の部屋だった。村の様子から西洋風な文化だと思っていただけに、この畳は本当に意外だった。畳の上には座布団まで用意され、そこに正座をして待っている。

 あぐらで座ったほうが楽なんだけど、隣のムチオさんも正座だし、なにより、あぐらだと局部へのガードが薄い気がして、正座を選択したのだ。
 そこで待つこと数分。不意に引き戸が開き、全裸の巨漢が姿を現した。

 束ねた長い髪に、口元を覆う立派なヒゲ。
 その容貌は、まるで戦国武将かって思うほどに、威厳に満ち溢れているようだった。

 ただ一点。
 本当に一点だけ。

 身体の中心部に生えているキノコだけは、マツタケでもエリンギでもなく、だった。そこだけは威厳も何も無い。

 しかし、屈強な肉体とのアンバランスが可愛らしいというか、なんとなく親しみが持てるというか……いや、ごめん。前言撤回。この毛むくじゃらのダイナマイトワガママボディで、可愛らしさもクソもない。

「お初にお目にかかる。私はガチ・ムチノリ、この村の村長だ。キミが異世界転生してきたという人間か?」
「はい。細井燃矢史ほそい もやしです。 あなたが元の世界に帰る方法を知っていると聞いてきたんですが……」

 ムチノリさんは、ムチオさんをチラリと見て、俺に視線を戻す。

「……知っているには知っているが……とても険しい道のりだ」
「どんなに険しくても構いません。どうか教えてください!」

 このままこの世界にいたら、俺の菊門の防壁が突破されるのは時間の問題だろう。門が破られ凶棒の侵入を許す前に、なんとしてでも帰らなければならない。

「分かった。……キミは、801穴やおいあなというものを知っているか?」
「やお……? すみません。聞き覚えがないです」
「……すでに若者への伝承は途絶えてしまっていたか……。801穴とは、キミのいた世界では、男のとして伝えられていたものだ」
「……はあ」
「しかし、その実態は、ガッチムーチカントリーと異世界とを繋ぐ時空の穴なのだよ」
「!? つまり、その801穴を使えば俺は帰れるんですね!? その穴はどこにあるんですか!?」
「慌てるな。話には順序がある。801穴を語るには、まずはこの世界の成り立ちについて知ってもらう必要があるのだ」



続く

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