風吹く先の物語

藤宮 和紗

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風吹く先の物語

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その日魔女が倒された。
人には余るほどの魔力と、残虐な性格。
人々は魔女を恐れて憎み。
奪われた笑顔を取り戻すため決意した。

魔女を殺せと民が言う。
魔女を生かすなと王が言う。


斯くして、ありふれた物語のように魔女は殺された。


かつて、魔女の婚約者であった勇者と。
かつて、魔女の後輩であった聖女によって。

人々はありふれたハッピーエンドを迎えたのであった。










魔女は昔。
風を操る心優しい聖女だった。
傷ついた人々を見つけ、水魔法で癒せる後輩とともに各地を周った。
人々の平和を祈り王国を守った。

しかし、人の欲というものは尽きない。
人の発展とともに森林が伐採され、燃やされ。
小さな生き物の棲家はなくなりつつあった。
風は汚れ水も濁り、生き物たちは王国からの脱出を余儀なくされた。

人というものはどれだけ美しいものでも、その心は薄汚れていた。
王国から生き物たちが逃げ出したことで、人々はそれに希少価値を見出した。
数少ない生き物を捕まえるようになったのだ。
あるものは高値で売り飛ばし。
あるものは日々の憂さ晴らしに甚振り。
あるものは自己のアクセサリーとして可愛がり価値が無くなったら処分。

生きものたちは祈った。
そしてその祈りは風にのり聖女まで届いた。

聖女は悲しんだ。
人々を助けて回ったせいで小さき生き者たちが犠牲となったことに。


人々の平和のため。
幸せのため。
笑顔のため。

聖女は憎んだ。
聖女がしたことはなんだったのかと。

聖女の風は汚れ。
後輩の水も濁り。

人とはなんて醜い物なのかと。

私たちは疑問も抱かずに人々を助けた。
私たちの身を犠牲にし、弱き者を見殺しにし。

誰かの上に立つ幸福とは何と脆いものかと。
聖女は荒れた。

風が呼び込む。
人々の不安を、嵐を、絶望を。


聖女は人よりも多い魔力で森に風の結界を張り生き者を守った。
人の手により縮小された森をじわじわと広げた。

いつの頃からか聖女は魔女と呼ばれ始めた。
弱き生き者たちに力を与え、己を守る知識を与えた。
決して無闇に力を奮わないように、人という醜い物と同列にならないように。
いつの間にか、生き者たちは他から獣人と言われるようにまでなった。
生き者たちに返り討ちにあった物は彼らを魔獣と呼んだ。

風とともに魔女は彼らを守った。



それを崩したのは王国からやってきた勇者と聖女だ。
魔女は信じた。
人と彼らが手を取り合って笑いあう未来を。

全て嘘だと知らずに、魔女は勇者と聖女をもてなした。
結果、魔女は殺された。
何一つ、抵抗などできないまま。

勇者と聖女には魔女を殺すことなど簡単なことだったのだろう。
だって、魔女は昔のまま心優しい魔女だったから。
不意をついて倒すことなど赤子の手を捻るほど簡単だったのだ。

そのまま、勇者と聖女は獣人を甚振り殺し森を焼いて帰って行った。

生き延びた獣人は、語る。
どちらが悪なのかと。

獣人の嘆きは女神にまで届いた。
女神は最初から最後まで嘆き悲しんでいた。
愛しい子たちの最後を。 

そして、獣人たちの嘆きにより女神は決意した。
現世に干渉出来ないルールの女神だったが風に呼びかけた。

風たちよ集え
主人のもとに
心捧げろ

風たちよ集え
主人の最後に
この身滅ぼそうとも

風が吹く
命のろうそくを

風が喰らう
この世の全てを




ルールを破った女神はそのまま消滅した。
そして、新しい女神は意思を受け継ぎ風たちの行方を見守ることにした。





風が唄う
世界の始まりを

風が運ぶ
新しい命の芽を


世界は一度崩壊した。
だが、生き延びた数少ない物たちは手を取り合い新しい世界を作った。

獣人も人も関係なく、心優しい者たちが残り世界にはまた平和が訪れた。


そこには、心の底から魔女が望んだ世界があった。
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