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━━第十章━━

━━ 四節 ━━

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鳴り響く爆音を背に、廊下を疾走する少年達。

「やっぱり、加勢した方が良かったんじゃ…」

残したオルロフが気がかりのハルカ。

しかし、先頭を走るアレーニに却下されてしまう。

「相手は、大陸を代表する魔導師。
僕達が束になったところで、敵う相手ではありません」

「だったら━━ッ!」

「ハルカッ、気持ちは分かるけど、中将の言うとおりだよ」

クレフは、ハルカの言い分を妨げ、苦笑を浮かべながら説得する。

「それに、シャンディさんを止めることが出来なかった僕達が加勢したところで、足手まといになるのが目に見えてるでしょ?」

痛いところを突かれ、言葉を詰まらせる。

確かに、相手はシャンディと同等の力を持つ者。

そんな相手とやり合ったところで勝算などない。

どれだけの思いをぶつけても歯が立たなかったあげく、死にかけたというのに、まだ懲りない自分がいた。

「心配要りません」

ふと、アレーニが呟く。

「ウチの大将は、そう簡単にやられはしません。
アレでも誰よりも前からこの国を守ってきたんですから」

決して振り返らぬ彼に、ハルカは、すぐに失言をしてしまったことに気付く。

そうだ、一番不安に感じているのは、この人だ。

今すぐにでも引き返して、助けに行きたい気持ちは、誰よりも強いハズ。

それなのに、命令に従ってオレ達を逃がそうとしているのは、オルロフ大将を信じているからこそじゃないか。

あの人は・・・・必ず帰ってくる・・・・・・・

信頼している者に口を出すのは失礼だと深く反省した。

認めたくはないが、無力なオレ達が出来ることをやるしかない。

ハルカは、そのまま黙ってアレーニの背中を追うことに専念した。



━━黒い球体は砂を巻き上げ、荒々しく音を立てている。

やがて、黒球は、地面を削りながら高速で突進し、アミュレットの眼前まで接近するが、瞬時に脇を閉め、体勢を低くして避けられてしまった。

しかし、黒球は彼女を逃がさず、俊敏に曲がり、後を追う。

アミュレットは、すかさず手を伸ばし、障壁を5枚展開して直撃を免れるが、2枚、3枚と徐々に破られていく。

新たに障壁を何重にもかさね、力まかせに押し返す。

陣を幾つも作り出し、光弾を連発させ、集中放火を浴びせるが、砂鉄の高速回転で生まれる摩擦熱によってかき消されてしまう。

まさか、そんな防御策があるとは…。

意外な魔術対策に驚くアミュレット。

なら━━。

彼女は、大きな魔法陣を出し、巨大な槍を具現化させた。

貫通力なら、どうでしょう?

魔術の槍を発射させ、高速で黒球を突ら抜き、四散するが、そこにオルロフの姿がなかった。

ッ!? 何処に━━ッ!? 

そのとき、背後から気配を感じたため、即座に振り返ると、先程射止めたハズの黒球の存在があった。

僅かな隙間からオルロフが顔を出し、身に纏った砂鉄を、彼女の顔面に鞭の如く叩き付けた。

いつの間に分身をッ!?

その弾みによって仮面が削られ、小さな亀裂が入ってしまう。

体勢を立て直すと、辺りに無数の黒球が浮遊していることに気付き、動揺する。

なん━━ッ!?

彼女を仕留めるため、一斉に飛んでいくが高速でその場から逃げられてしまう。

そのまま黒球は掘削し、壁を突き抜けていくが、それでは終わらず、彼女の後を追う。

やがて、アミュレットは垂直に疾走し、黒球の群れから離れるため、更に加速する。

彼女の通った後を黒球が蝕み、城が崩れていく。

徐々に距離を詰められ、足場が崩れて踏み外してしまい、ついに崩壊に飲み込まれてしまった。

捕まえた。

オルロフは、黒球を集中させ、しまいには塵旋風を作り出した。

立ち上った黒い竜巻は、周囲の物を巻き込み、瓦礫や植木を細かく磨り減らしていったのだった。



━━何故、オレなんだと思ったよ。

あの日、ただの二等兵だったオレは、リサー王に呼び出された。

王から呼び出されるなど、一生縁のないことだと思っていたオレは、正直少し驚いた。

そこには、あの至高の錬金術師、ジェンフォン・ヤン・イゥマオの姿があった。

城や公の場に滅多に顔を出さない彼が腕を組み、堂々と王の傍で立っている。

懐かしい人がいんな…。

昔、彼を何度か見かけたことがあり、見た目がガタいの良いおっかねェオッサンだったため、あまり近付くことはなかった。

しかし、世界的に有名な錬金術師としての功績よりも、人当たりが良く、子供に優しい、城下町の顔としての噂の方が印象に残っていた。

オレが軍に入隊してからは、目にすることはなくなり、思い出の一部となっていた人物が何故ここに?

━━そなたを、国の守り手として、少佐に任命する。

はッ!?

唐突だった。

状況が理解出来ないまま、待ったをかける間もなく影踏男を差し出され、ある意味パワハラではないかと感じる程だった。

こうして、気持ちが追いつかぬ状態で一気に大出世してしまったオレは、同時に周りからの視線も冷たくなっていったのだった。

一部の同期からは祝福されたものの、まだ10代のオレを快く思っていない輩は大勢いた。

他にも優秀な人材やキャリアを積んできた奴は、いくらでもいただろうに…。

とんだ災難だわ。

皮肉混じりの陰口は叩かれるわ、舐められた態度をとられるわのオンパレード。

オレだって被害者だッつ~の。



━━おかしい。

暴風と研磨の轟音が鳴り響く中、妙な胸騒ぎで落ち着かなかった。

一度この技にハマッてしまうと、普通の人間なら骨も残らず、死に至るのだが━━。

呆気なすぎる…。

最強の魔導師が、こんな容易く殺られるわけがない。

思い返せば不自然なのだ。

何故、彼女は極力魔術を使わず体術にこだわる?

それが彼女の戦闘スタイルだとは聞いているが、やけに上手くいきすぎている気が━━。

すると、彼の前に光の紋様が浮き出てきた。

よく見ると、靴底の模様が輝きを放っており、先程アミュレットが城壁を走った際のものだと気付く。

なんだ?

疑問を抱いている間にも、同じように幾つもの足跡が出現し、オルロフは囲まれてしまう。

やがて、足跡はある形へと変化していったため、すぐさま警戒体勢をとった。

こいつァ━━ッ!

このとき、渦の中から人影が映り、ゆっくりと白い腕が伸びて出てきた。

コートは裂け、肌はほとんど露出し、俯いたまま、彼女は姿を現した。

外傷は見られないが、仮面が無くなっており、目の前のオルロフに鋭い視線を送る。

ゾッとするほどの悪寒を感じたオルロフは、反射的に後退しようとした途端、四肢の自由がきかず、動揺を隠せない。

体が、動かな…ッ!?

恐らく、周りに浮遊している魔方陣が原因だろう。

もがいても状況は変わらず、ますます平常心が保てなくなっていく。

女子レディの裸を見るなんて、失礼ですね」

アミュレットが姿勢を正しているうちに、破れた服の繊維から魔力によって少しずつ自己修復されていく。

そして、異常な魔力を身に纏い、段階毎に噴出させ、右拳をそっと引っ込めた。

次の瞬間、彼女は消えた。

地上にいた彼女の姿を見失ったと認識した途端、腹部から鈍く重い痛みがゆっくりとやってきた。

オルロフは咳き込み、腹から伸びる白い腕を目で辿る。

バカなッ!? みッ、見えな━━ッ!?

更に驚くことに、砂壁を突破し、肩まで侵入してきているにも関わらず、傷一つ付いていない。

何故、腕が失くならないッ!?

疑問を抱き、冷や汗を流していると、膨大な熱量の魔力が拳に集中していることに気付く。

覚悟を・・・決めてください・・・・・・・

そう言って、裸の少女は腕を引き抜くと、内部に残した魔力を暴発させ、オルロフは、眩い光に包まれた。

衝撃は、城中に響き渡り、先に行った3人にも伝わったのであった。




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