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━━第九章━━

━━ 三節 ━━

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デメテルから100㎞程離れた森の中、遥か先の戦線から砲撃音が響き渡り、10人以上の護衛に囲まれた要人用装甲車へ微かに伝わってくる。

中は、快適な作りになっており、ワイングラスを片手に悠然と過ごす2人の中年の姿があった。

ネメオズ=レオン、メガロ=カボウリの国王達である。

2人は、滅び行くデメテルの今後について、愉快に談笑していた。

何故、このような経緯となったのか、それは、木之大陸に敗戦して間もない頃に遡る。

大陸を統べる教皇の側近が、各々、自分達の前に訪れていたのだ。

その者は、三賢者の一人であり、あのシャンディと互角にやり合った仮面の女性だった。

何の前触れもなく突如現れ、機械仕掛けの仮面で表情がわからない分、余計不気味に感じてしまう。

側近は、単刀直入にこう話した。

明朝、電話会談を行う際、そちらに条件をつきつける。

しかし、シャンディを亡きものにしても、あの国には不安要素がまだ残っているため、心の底から安堵出来ない。

なので、デメテルそのものを世界地図から消し去り、両国がその土地を支配下にするのであれば、今回の件は丸くおさめる。

そうなれば、こちらの大きなしこりがなくなり、友好の証としてそちらとの貿易を円滑に行いたいと考えている。

急な要件であり、多少躊躇ってしまったが、彼女の戦場での姿、厳重な警備を潜り抜けた時点で、自分の命を掴まれたも同然。

拒否権などなく、従うしかなかった。

だが、正直なところ、その条件は、両者共に非常においしい話でもあった。

話し合いの場を設けるわけでもなく、いきなり喧嘩を売られ、力で服従された両国は、あまりの屈辱に腹が煮え繰り返っていた。
シャンディ・ヤン・イゥマオという一人の軍人に翻弄され、礼儀知らずで生意気な印象が強くなってしまい、デメテルという存在に、強い嫌悪感を抱くようになっていったのだ。

両者は、利害の一致でこれを承諾し、国に戻らず、森の中で身を潜め、シャンディが亡くなった情報が入ったのを機に動いたのだった。

国王達が互いにワインを口に運んでいると、一本の電話が鳴り出した。

受話器を手にして呼び掛けると、先程の気楽な態度から一変、衝撃的な報告を耳にすることとなる。



━━排気口から火を吹き、二輪を横滑っていく。

その際に陣形をとっていた兵達は轢かれ、蟻の如く踏み潰される。

隊列は乱れ、得体の知れない怪物に恐怖し、その場から逃げ出す者も続出する。

眷属を仕留めようと砲撃を繰り返すも、俊敏な機動力に見事避けられてしまう。

最悪なことにその砲弾は、近くの兵達を巻き込んでしまい、更に混乱を招く事態となった。

「イィィィィィヤッフォォォォォウ!!」

ヒヨリは鎧に掴まり、槍を片手で振り回す。

爽快な気分で、興奮のあまり声を上げる。

やがて眷属は、鎖に繋がれた拳甲を広げ、二輪を軸に高速回転し、大勢がはね飛ばされた。

「とうッ!!」

ヒヨリは、高く翔び上がり、群がる兵の中に着地しては、槍で弧を描く。

何人も両断され、死体の中心に赤い目の少女が前を向く。

ヒヨリを見ては、悲鳴を上げたので、そんな彼等に魔力を込めた一閃をお見舞いする。

一方、タオは、低空飛行しながら大きく旋回する。

彼女に触れる間もなく、血しぶきが舞い、近くにいた者達は、風圧を感じた途端に身体が切り裂かれ、次々と倒れていく。

足を着けると、タオを囲んで一定の距離から銃を撃つ。

しかし、黒刃の鎧は、銃弾を全て受け流していく。

鎧に触れた瞬間、弾丸は2つに分かれて散乱し、周りにいた兵達が返り討ちとなった。

すると、遠方の砲塔がこちらを向いていることに気付き、タオは、すかさず片手を前に伸ばす。

戦車は放たれ、砲弾は手のひらに触れる前に6つに割かれてしまい、通り過ぎては爆発した。

タオは、翼を広げ、戦車へと突っ込んでいく。

「撃て撃て!! 撃ちまくれェッ!!」

車長が慌てて叫ぶが既に遅く、硬い装甲に深い傷を負い、直ぐ様大破された。

続いて、近くの戦車部隊も全滅させ、辺りは火の海と化した。

ハガとキサラギは、見張り台からこの光景を眺め、呆然と立ち尽くしていた。

「キサラギ…」

ハガの一言で我に返り、彼の横顔を見て驚く。

「お前、とんでもない奴等を連れてきたな…」

いつも余裕のある彼が、今まで見せたことのない険しい顔つきで汗を流している。

そして、何故か異様に髪の毛がボサボサになっていることに気が付いた。

「ハガさん、髪…」

「あッ?」

ハガが手で確認すると、急に背筋が悪寒を感じ取った。

何か、嫌な予感が━━。

それは、キサラギにも感じたらしく、身を縮ませて目を合わせた。

次の時間、町の方から一筋の青白い雷光が関門に衝突し、壁は砕かれ、見張り台ごと吹き飛ばした。

突然の出来事に、ヒヨリとタオも動きを止める。

関門が大破し、崩壊した瓦礫からキサラギが声をかける。

「ハガさんッ…、大丈夫かッ!?」

「ああ、生きてるよ」

弱々しい声を発するが、互いに命に別状はない様子。

「一体、何が━━ッ!!」

頭を押さえながら顔を上げると、信じられない光景を目の当たりにする。

国の外に、上半身裸の巨漢が立っていた。

背中から膨大な魔力が漏れだし、身体中から青白い電流が帯びている。

腰には銃鞘を所持し、手には、激しく燃える大剣。

それは、火之大陸に名を轟かせた英雄の証。

「シャッ、シャンディ殿ッ!!」

堂々と仁王立ちをする彼の姿に、敵はたちまち震え上がる。

その隙に彼女達は、シャンディの元へと集まり、顔を合わせる。

「いよォ、ガキ共。
オレが来るまでの時間稼ぎ、ご苦労」

上から目線で彼女達に挨拶を交わす。

「自惚れるのも大概にしろ、シャンディ。
ここは、戦場。
浮いた思想は、命取りだぞ」

「テメェは誰に言ってんだ!?
軍人のオレが、ンなヘマするかよ」

タオの忠告に鼻で笑い、ヒヨリに視線を向ける。

「おい、ガキ。
テメェには、後でみっちり大人の恐ろしさってモンを教えてやっからよ。
逃げんじゃねェぞ」

提燈男オモチャを持った途端強気だね。
小物感・・・が半端ないよ」

「なんだとッ!?」

脅しに全く動じないヒヨリに対し、額の血管を浮き立たせる。

「使いこなせない魔力を垂れ流しちゃって…。
分かりやす過ぎるくらい形だけだね・・・・・

一触即発な空気に、タオが穏やかに割って入る。

「止めろ2人共、相手を間違えているぞ」

納得のいかないシャンディだったが、舌打ちをして目をそらす。

「ところで、ハルカ達はどうした?
一緒じゃないのか?」

彼等の姿が見えず、気になったタオは、シャンディに尋ねた。

「アイツ等は、使い物にならねェから・・・・・・・・・・置いてきた・・・・・

「そうか…」

恐らく負傷してしまい、休んでいるということなのだろう。

あまり追及せず、目の前の問題に視線を向けた。

「嘘だろッ、生きてるッ!?」

「死んだんじゃないのかッ!?」

偽情報に惑わされ、怯えた兵達の表情に、満更でもない気分についニヤける。

「良いねェ、その落胆ムード。
1㎜も勝機がなくなった戦意喪失の瞬間。
堪らない快感だな」

そう言いながら、柄を両手で握り、剣先を天に向ける。

すると、大剣に大量の魔力を注ぎ込み、豪炎の激しさが増していく。

「でも決め手には程遠いかな」

ヒヨリは、槍で目標を指し、眷属の拳甲の口が開いては、魔力を装填しはじめる。

「その通り、圧倒的な力を見せつけなくては」

そう言ってタオも翼を広げ、身体中の黒刃を右腕に集中させる。

やがて、右腕以外金色の鎧となり、衝撃に備えて身構える。

身の危険を察した兵達は、シャンディ達に背を向け、逃亡しはじめる。

しかし、彼女達は、渾身の一撃を放ち、去り行く者達に追い討ちをかけたのだった。



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