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━━第五章━━

━━ 五節 ━━

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急に、姐さんがオレに謝ってきた。

「いつもワガママを言ってゴメン。
これからは、お金のことは気を付けるようにする」

少し見ぬ間に何があったのか、彼女の素直な態度に戸惑ってしまったが、自分も言い過ぎたことに反省している面があったので、少し恥ずかしながらも謝った。

仲直りした姉弟の背中を、タオは微笑ましくてならなかった。



━━重厚感のある石造りの建物が横に長く続いている。

道が広い分、車の通りも多い。

ヒヨリを探す間に、クレフとキサラギは、先にギルドに戻っていると告げて別行動をとったのだ。

ここがギルドの場所だと地図も渡してくれたのだが、別れる際、2人は、やけに嫌そうな顔をしていた。

この後、何か面倒な事でもあるのだろうか。

3人は、地図通りに足を運ぶと、レストランと雑貨店の間に挟まれた細い建物があった。

入り口は、趣のある木製のドア、その上にある2、3階の窓は丸くて小さい。

…本当に、ここなのだろうか。

一瞬、疑ってしまったハルカだが、乗せてもらったトラックが前に駐車してある。

GUILD ギルド・Garnetガーネット

小さな看板が、ドアにかかっている。

確認のため、クレフから渡された地図にもう一度目を通す。

図面に印がついており、ギルド名も書き記されている。

どうやら、間違いはないようだ。

ドアに力のないノックを数回。

「お邪魔し━━」

恐る恐るハルカはドアを開けてみると、何故かクレフとキサラギがカウンターの前で正座をしていた。

2人共、沈んだ表情で下を向いている。

ハルカは、そのまま静かに閉めた。

「どうしたの、ハルちゃん」

「その、間違えちゃったみたいでさ」

ハルカの様子がおかしいと察したヒヨリ。

中にいたのは、明らかにクレフとキサラギだった。

しかし、どういった経緯でああなったのかは知らないが、気まずい空気だったのは一目でわかった。

とてもじゃないが、今あの空間に入る気になれなかった。

今日のところは、出直した方が良いのかもしれない。

そう判断したハルカは、ドアから離れようとしたそのとき、中から声が聞こえてきた。

「営業中だよォ」

ドキッとしたハルカは振り返る。

マジかよ…。

気が引けるが、仕方なく再度ドアを開ける。

中は、雰囲気のある優しいライトに照らされている。

元々は、飲食店だったのだろうか、椅子が横に6つ並び、カウンターの向こう側に棚が幾つもある。

棚には、書類のファイルが収められ、見慣れない装置も置いてある。

一ヶ所だけ、余裕のあるスペースに黒い刀が飾られていた。

「ハイ、いらっしゃい」

カウンターの向かい側に座っている青年がこちらに目をやる。

「アンタ等がそうなんだろ?
こいつ等が連れて来たお客サマってのは」

「そうですけど…」

全身黒一色の格好をしている。

アシンメトリーの少し長めの髪型、ロングコートに手袋、革製のブーツ。

黒髪に隠れていた耳のピアスが、チラッと顔を出す。

「ああ、紹介がまだだったな。
オレは、ハガ。
このギルドの事務を担当している」

堂々と足を組みながら回転椅子に座り、ハルカ達を招き入れる。

この人物が、クレフ達が言っていたギルドの一員。

前に、クレフがマスターだと聞いていたのだが、この状況は目を疑ってしまう。

「あの、これは━━」

「ハハハッ、気にしないでくれ。
ちょっと今回の出張期間がやけに長かったなと思ってさ」

軽く説明するハガの前に置かれた書類。

それは、依頼書と領収書だった。

依頼書の内容は、『猛牛ムゥの果実を採取する者 求む』というもの。

ムゥの生息地、報奨金額、そして、期日が記載されていた。

しかも、期日は昨日の日付・・・・・

「創設したばかりだっていうのに、少し危機感を持った方が良いんじゃないのか、と忠告しただけなんだが、こいつ等大袈裟でね」

穏やかな表情の背後に、殺気が漏れている。

これは、ハルカ達にも感じ取れた。

「ホラ、お前等もいつまでそうしてんだよ。
まるでオレが土下座しろって・・・・・・・・・・強要している・・・・・・みたいじゃないか」

ヘラヘラと床に座っている2人に話しかける。

「んまァ、宿代は良いとして、何で酒代まであんのか不思議で堪らないんだが、必要なことだったんだよな?」

ドキィッ。

「ボッ僕は止めたんだよッ。
ハガに怒られるから辞めた方が良いって!」

「テメッ!? お前だって一緒に呑んだくせして━━」

「あれは、キサラギが無理矢理━━」

必死に責任逃れをし始めたそのとき、突風が2人を襲った。

壁にかけていた絵画が幾つも床に落下し、建具もガタガタ揺れた。

停止した2人は、冷や汗をかきはじめる。

「…お前等、お客の前でみっともないことするなよ」

爽やかな表情で注意するハガ。

何だ、今の…。

居心地の悪い空気を、一気に掻っ攫っていった今の現象は…。

「ハガ殿は、“魔導師”なんだな」

タオが口を開くと、その拍子にハルカは我に返った。

「ああ、そうだよ。
けど、今はここでデスクワークさ」

魔導師…ってことは、今のは魔術だったんだ。

ハルカは、魔導師との出逢いに目を輝かせる。

噂で聞いたことがあるくらいで半信半疑だったが、間近で魔術を見ることが出来て少し感動してしまった。

「ハガは、すごいんだよ!
“テミス”の国家魔導師だったんだから!」

━━テミス。

確か、“木之大陸”の一国。

木之大陸は、魔術の歴史が古く、未だに解明されていない魔導書や古文書が多いと聞く。

素質のある者は、幼少の頃から魔導師として育成し、国のために忠誠を尽くされるんだとか。

しかも国家魔導師といったら、魔導師の中でも選りすぐりの者でないとなれない資格。

そんな実力者が、何故、錬金術師の国に?

「バカ、そんな昔のこと持ち出すな。
今関係ないだろ」

ハガから軽く口止めをされ、クレフは苦笑する。

武将の部下だった元傭兵、若き亜人のギルドマスター、そして、事務のエリート魔導師。

この者達は、身分も生まれも違うのに、どういった経緯で縁が繋がったのだろう。

タオは、不思議で仕方なかった。

「それはさておき、アンタ等、人を探してるんだったな」

ハガは、ヒヨリ達の方へ椅子を向け、本題に入ることにした。

「そうだ、シャンディという武将を探しているのだが…」

「…ちなみに、その武将に会ってどうしたいんだ?」

「ただ直接会って話がしたい」

それを聞いて、しばらく沈黙が続き、深くため息しては、棚の上の新聞を手にする。

「非常に申し上げにくいんだが━━」

そして、ハルカ達の前にポンッと置いた。

その記事には、大きな見出しでこう書かれていた。

━━少将、急逝す。



━━ 第五章 完━━
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