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━━第五章━━

━━ 一節 ━━

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━━火之大陸。

南に位置し、大陸の7割を密林が覆っている。

森の少し開けた場所。

2人の男女が衝突している。

少年は、錬金術で武器を変え、臨機応変に対処するが、冷静な女性は、素手で応戦し、一歩も退こうとせず、全て受け流している。

しかし、連擊を上手く捌ききれなかったのか、女性が態勢を崩してしまう。

それを見逃さなかった少年は、銀の柱で仕留めようと突きを入れるが、それは罠だった。

女性は、わざと隙を見せたのだ。

柱を避けては懐に入り、少年の顎に拳を寸止めする。

一瞬、少年の呼吸は止まり、直撃はしてないものの、拳圧で髪がなびいた。

まともに食らったら一溜まりもない。

「どうしたハルカ。
君の実力は、こんなものじゃないハズだ」

タオが拳を下げると、ハルカは、気が緩んでしまい、地に膝をついて荒く息を切らす。

ハルカは、息抜きという名目でしごかれていたのだ。

「私が女だからと遠慮しているのか?」

平然と立っているタオは、ハルカを奮い立たせようとするが、当の本人は汗だくで声も発せない状態である。

自身も決して手を抜いているわけではない。

相手は、“剣聖”と呼ばれている人物。

最初から本気でやらねば、こっちが大怪我をしてしまう。

しかも、刀を使わずに鍛錬をしてやるとハンデをつけてもらったにも関わらず、いくら錬金術で攻めても全て防がれてしまうという現実。

おかしい、オレはもっと出来るハズだ。

気持ちは、まだイケると折れてはいないのだが、体がついていけていない。

確かに、武術や経験は相手の方が上だが、職人時代に培ってきた体力でその分を補える…、とまでは言わないが、良い線までいくのではと考えていたのだ。

しかし、そんな甘い考えは、秒読みで消え去った。

全ての動きが読まれているかのように、力を入れずに受け流され、切られてはしなやかに避けられ、一本取られてしまうという繰り返し…。

「やめてお父さん!
この子はもう十分反省しているんです。
もうこの辺に━━」

「母さんは黙ってなさい!
此奴には体で教えてやらんと!!」

ヒヨリは、先程からずっと2人の鍛錬を見ていたのだが、特に冷やかしを入れるわけでもなく、眠たそうにあぐらをかいていた。

オレが膝をついた時点で頃合いだと判断したのだろう。

2人の間に割って入るなり、ヒヨリが妙な茶番を始め、意外にもタオもノッてきた。



━━剣聖、タオ。

剣の達人にして、ジャオ国の元国王。

昔、亜人の住む島を占拠し、殺戮の限りを尽くすが、生き残りを逃がしてしまう。

年月が経ち、生き残った亜人が復讐のため臣下を殺害し、国王の屋敷を襲撃。

これを国王自らが討伐し、事件は終息へと向かった。

しかし、今回の件で自責の念を感じ、王位を退くという決断をされる。

現在、ジャオは王を継ぐ者が決まっておらず、当面の間、国の経済や外交は、残った臣下が務めている━━。



と、世間にはそう知れ渡っているらしい。

改めて、ハルカの様子を見て、続行は無理そうだと判断し、鍛錬を切り上げることにした。

「ハルカ、君は錬金術に頼りすぎだ」

タオからの少しキツめの口調にドキッとした。

「確かに、錬金術で武器を変えることでリーチが長くなるし、その場の状況によって対処しやすくなるだろう。
しかし、それよりもハルカの戦闘技術が追いついていない。
錬金術の良さを引き出せていないんだ」

的確な指摘に返す言葉がない。

自分が一番分かっていることだから尚更だ。

まあまあと、ヒヨリはタオの背中を押し、さっさと切り上げようと促す。

その背後で、奥歯を強く噛み締めた。

各自、荷物を持って歩みを進める。

次に向かう先は、一国デメテルだ。

以前、タオが王位に座していた頃、耳にした情報なのだが、火之大陸で多くの戦果を上げてきた武将がおり、敵国に王手をかけたのだそうだ。

そして、その者が使いこなす大剣は、龍のごとく火を吹き、山を焼き尽くすと言われているらしい。

山を焼き尽くす、大剣…。

夢の中で一人、大剣を所持していた人物がいた。

顔までは記憶がボヤけていてよく覚えていないが、あの中で一番ガタいが良く、浮いていたという印象だけは残っていた。

その者の称された名は、“梟雄”。

強力な武器を使いこなして有名になった人物。

オレと同じ、武器を頼りに戦うタイプなのだろうか。

だとしたら、その者の戦い方を参考にし、何かヒントを得られるハズだ。

現在、3人は、火之大陸に足を踏み入れたばかり。

今日中に宿をとり、明日にはデメテル入りをしようと話し合ったのだ。

すると、上空に大きな飛行船が、3人の真上を通過しようとしていた。

「でッッッかァ!!」

ヒヨリが声を張り上げると、タオは、帽子のツバを上げながら説明する。

「飛行船だ。
魔術で宙に浮き、空路を進む乗り物だよ」

ハルカも、本で読んだことがあるくらいで存在自体は知っていたのだが、実物を目の当たりににして言葉を失った。

「オ~イッ!!」

ヒヨリが大きく手を振ってはしゃいでいるが、空にいる相手は、何も応えてくれない。

「私達もいつかあれに乗って、大空を旅してみたいものだな」

「叶うよ、きっと!!」

タオの呟きに、ヒヨリが笑顔で答える。

やがて飛行船は、翼についた4つのプロペラを回し、3人と同じ方向へと去っていった。

一分も満たない間の出来事ではあったが、面白いものが見れて良い気晴らしとなった。

そのとき、森の奥から悲鳴が轟く。

何事かと思い、3人は顔を見合せ、急いで向かった。

すると、茂みから2人の男性が飛び出してきた。

一人は頭にターバンを巻き、ラフなシャツに丈の短いダメージジャケット。

手には見慣れない形状の槍。

そして、もう一人の少年は、尖った耳に腰まである三つ編みの金髪。

両手にはパンクグローブで、華奢な体つきに似合う身軽な服装をしている。

亜人、なのだろうか。

2人共必死な形相で、こちらへと向かって来る。

「そこの人達、逃げてェッ!!」

少年が大声で警告すると、後方から地鳴りが近づいてきた。

オイオイオイ、何だってんだよ。

ハルカは、身構えながら腰のチェーンに手を添える。

何本もの木を薙ぎ倒し、現れたのは、自分達の3倍以上の大きさのある長い毛を生やした牛だった。

良く見ると短い足が6本あり、頭には、果実が実っている角が伸びていた。

「い"ィッ!?」

あまりの巨体にハルカも驚き、2人の後を追うように駆け出すが、タオとヒヨリは、その場を平然と動かないでいた。

「姐さんッ!? 何やって━━」

牛は、目元が黒い毛で覆われているにも関わらず、真っ直ぐこっちに向かって突進してくる。

ヒヨリは、右手を伸ばし、タオもポケットからジャックナイフを取り出した。

衝突時、牛は宙を浮いた。

右足を折られ、左足を斬られた牛は、勢いを殺し切れず、そのまま先に行った3人の元へと飛んでいく。

「「「あ"ァァァァァァァァァッ!!」」」

震源地の近辺にいた獣達は、動揺して散り散りに去っていった。


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