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━━第一章━━
━━ 四節 ━━
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朝、山から陽が差しはじめ、いつもと変わらぬ町の風景を照らす。
スーガが、眠たそうにあくびをしながら宿舎から出てくると、埃と汗と擦り傷だらけのハルカの姿に目を見開いてしまう。
足元には、手軽なリュックがあり、いつもと違う空気を漂わせていることに気付いたようだ。
「…どうした、こんな朝早くに」
「スーガさん」
ハルカは、彼に深く頭を下げ、声を震わせながらもはっきりと伝える。
「今まで御世話になりましたッ。
右も左もわからない身寄りのないオレを拾っていただいてッ、厳しく接し、いつも見守ってくれてッ、とても感謝していますッ。
オレにとってスーガさんは、近くて遠い憧れの存在でしたッ!!
オレは、スーガさんに出会えて、本当に幸せ者でしたッ!!」
「…そうか」
スーガは、初めて会った頃のハルカの姿が重なって見え、沈黙が支配する空気の中、ポケットに手を突っ込み、落ち着いて口を開く。
「時間ってのは早いもんだな。
あんときのガキが今、オレの前でいっちょ前なこと言いやがる。
ってことは、もう面倒な御守りをする必要はなくなったわけだ」
皮肉を言い放つ彼に、ハルカは、ゆっくり顔を上げる。
「ガキを育てるなんて、オレには荷が重すぎたわ。
何処さでも行け」
そう言い残し、中へと入っていった彼に、再度頭を下げる。
静寂の部屋の中で遠ざかっていく足音に耳を傾け、ドアに寄りかかりながら、深くため息をするスーガだった。
聖堂へと向かうと、先に来ていた職人達が何やらざわついていた。
「どうした、お前等」
「あッ! スーガさん、ちょっとこれ見てくださいよ」
スーガの存在に気付いた職人が、彼が通れるように道を開けると、そこには、一からやり直す予定だった足場が、聖堂を見事に囲んでいたのだ。
「こいつァ、一体…」
「いやァ、オレ等もついさっき来たばかりで何が何だか…。
でも、これで当初の予定通り作業が進みますよ」
この光景を目の当たりにしたスーガは、全てを察して鼻で笑う。
「達者でな」
その場にいない者に対して、ボソッとそう呟いた。
━━その頃、2人は町から大分離れた場所まで歩み、自分を成長させてくれた故郷に別れを告げる。
「ありがとう、ございました…」
小さくなっていく町を、名残惜しそうに見つめる。
「…やっぱり、寂しい?」
「ちょっとね、でも━━」
オレは、ヒヨリに手を差し伸べる。
「これからは、そばにいてくれるんだろ?
“姐さん”?」
一瞬、耳を疑ったが、その言葉に感激して、彼女はその手を握り返す。
「もちろんだよッ! ハルちゃんッ!!」
満面の笑みを浮かべながら、2人はこの時をもって“姉弟”となったのだった。
━━ 第一章 完━━
スーガが、眠たそうにあくびをしながら宿舎から出てくると、埃と汗と擦り傷だらけのハルカの姿に目を見開いてしまう。
足元には、手軽なリュックがあり、いつもと違う空気を漂わせていることに気付いたようだ。
「…どうした、こんな朝早くに」
「スーガさん」
ハルカは、彼に深く頭を下げ、声を震わせながらもはっきりと伝える。
「今まで御世話になりましたッ。
右も左もわからない身寄りのないオレを拾っていただいてッ、厳しく接し、いつも見守ってくれてッ、とても感謝していますッ。
オレにとってスーガさんは、近くて遠い憧れの存在でしたッ!!
オレは、スーガさんに出会えて、本当に幸せ者でしたッ!!」
「…そうか」
スーガは、初めて会った頃のハルカの姿が重なって見え、沈黙が支配する空気の中、ポケットに手を突っ込み、落ち着いて口を開く。
「時間ってのは早いもんだな。
あんときのガキが今、オレの前でいっちょ前なこと言いやがる。
ってことは、もう面倒な御守りをする必要はなくなったわけだ」
皮肉を言い放つ彼に、ハルカは、ゆっくり顔を上げる。
「ガキを育てるなんて、オレには荷が重すぎたわ。
何処さでも行け」
そう言い残し、中へと入っていった彼に、再度頭を下げる。
静寂の部屋の中で遠ざかっていく足音に耳を傾け、ドアに寄りかかりながら、深くため息をするスーガだった。
聖堂へと向かうと、先に来ていた職人達が何やらざわついていた。
「どうした、お前等」
「あッ! スーガさん、ちょっとこれ見てくださいよ」
スーガの存在に気付いた職人が、彼が通れるように道を開けると、そこには、一からやり直す予定だった足場が、聖堂を見事に囲んでいたのだ。
「こいつァ、一体…」
「いやァ、オレ等もついさっき来たばかりで何が何だか…。
でも、これで当初の予定通り作業が進みますよ」
この光景を目の当たりにしたスーガは、全てを察して鼻で笑う。
「達者でな」
その場にいない者に対して、ボソッとそう呟いた。
━━その頃、2人は町から大分離れた場所まで歩み、自分を成長させてくれた故郷に別れを告げる。
「ありがとう、ございました…」
小さくなっていく町を、名残惜しそうに見つめる。
「…やっぱり、寂しい?」
「ちょっとね、でも━━」
オレは、ヒヨリに手を差し伸べる。
「これからは、そばにいてくれるんだろ?
“姐さん”?」
一瞬、耳を疑ったが、その言葉に感激して、彼女はその手を握り返す。
「もちろんだよッ! ハルちゃんッ!!」
満面の笑みを浮かべながら、2人はこの時をもって“姉弟”となったのだった。
━━ 第一章 完━━
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