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平定者パスカルの呪い:苦い選択
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「父上は私を不吉な息子だと・・・そう思われていたのですか?・・」
ガクッとアレン様は膝から崩れ落ちた。陛下はアレン様に駆け寄りその肩に優しく手を置いた。
「私はそなたが恐ろしかった。同時に愛しくてならなかった。そなたはいつも自分より他者を優先し、誰よりも優しい子供だった。・・・パスカルも幼い頃は、精霊に愛されその姿を見ることが出来た程、慈悲深い王子だったといわれている。パスカルが粛清に走ったのは自分の為ではなく、トバルズ国とアーサーとエリスの為だった。パスカルのやり方は間違っていたかも知れないが、国を護りたい気持ちは私も痛いほど分かった。だからこそ、私は自分の息子にパスカルと同じ道を歩ませたくなかった。」
陛下はポンポンとアレン様の肩を叩くと、手を取り立ち上がらせた。
「私はアレンが産まれてから、邪悪な魔法使いと危険思想の集団の摘発に一層力を入れていった。厳しい取締りを行う中、側近達からは様々な意見が飛び交った。メシアン国に倣って魔法師団を創設する方が良いと言う意見もあった。だが、トバルズの民は『暗黒期 』の歴史的な傷があり、魔法使いに良いイメージが無い。その段階では受け入れることが出来なかった。そんな中、クリストファーが学園に入学してあの事件が起きた。」
陛下は深い溜め息をついた。
「あの当時、王家の影からクリストファーの報告を聞いていたが・・・魔法とは特定できず、ただの色恋沙汰に過ぎぬと判断した。たかだか小娘1人如きと侮っていた。それにあの時、小娘1人の為にかまける余裕もなかった。何故ならあの3年間、我々は邪悪な魔法使いとその集団との戦いを繰り広げていたからだ。奴の名はグレアム・シュナイザー。王家の血を呼称し、国家転覆を企んだ極悪人だ。」
グホッと思わず咳き込んだ。慌てて取り繕う。『グレアム・シュナイザー 』彼は、「いつかあなたを必ず振り向かせてみせる!」の隠しキャラの名だった。たしか・・・シナリオでは、先王のご落胤の息子だったはず。今のいままですっかりその存在を忘れていた。
「グレアムは王家の血筋を主張したが、本物とは年齢的に合わずただの詐称に過ぎなかった。この事件は、密かに暮らしたいという本物の意向を慮り、公にはされなかった。グレアムを取り押さえホッとしたのもつかの間、あの事件が起きたのだ。邪悪な魔法使いは1人ではなく、2人いたのだ。私は、たかだか小娘1人と侮ったことを悔やんだ。特にナターシャの事件の際、クリストファーの廃嫡を望む声が上がったのは大きな誤算だった。クリストファーを廃嫡にすれば、アレンが王となる・・・運命がアレンを、私の息子をパスカルと同じ道に引きずりこもうとしていると感じ・・・持てる権力全てでクリストファーの廃嫡を阻止した。」
「父上、父上は私より兄上を大事にされていると思っていました。」
「そんなことは無い。クリストファーも確かに大事な息子だ。だが、そなたも私の大事な息子だ。如何なる災厄からも守ってやりたいと思っている。」
アレン様はそれを聞いて静かに涙を流した。思わず流れたようで、慌てて涙を拭っていた。
「その後も誤算は続いた。クリストファーの奇矯な振る舞いだ。アーリス嬢を、あたかもそこにいるかのように語り、有り得ない姿を絵に描いていた。クリストファーは恋に狂ったのだ。これも"平定者パスカルの呪い"の1種なのかと思い悩んだ日もあった。あの事件を利用して魔法師団を新設したのも、何とか対応策がないか模索した結果だ。
時が経つにつれ、臣下の者達からクリストファーの廃嫡とアレンを王太子にと望む声は日増しに高まってきた。苦肉の策として、クリストファーの子を次代の王にすることを考えたが、クリストファーににべもなく断られた。無理に子を成せと言うならば、王太子を辞すると・・・子を成せなけれぱ、トバルズ国には未来が無い。私は苦渋の選択をした。それが1か月前のことだ。」
陛下はまた、深い溜め息をついた。
「この1ヶ月、自問自答した。このままで良いのかと。アレンにパスカルと同様の重荷を背負わせるのも否、クリストファーを正気に戻すのも無理だ。そんな中、アーリス嬢が3年振りに現れアーサーとエリスの言葉を伝えた時、やっと光明が見えた気がした。」
陛下は私をじっと見つめて言った。
「彼らは語った──新しい生き方を、選択を大事にして欲しい──と。その言葉を聞いて慟哭するアレンに、イルギアス殿が"嘆いていたのは別の何か"だとゲランに告げたと聞いた。パスカルの凍りついた魂に、アーサーとエリスの言葉だけは届いたのではないかと思ったのだ。新しい治世の為に彼らがアーリス嬢を遣わせてくれた気がした。」
ガクッとアレン様は膝から崩れ落ちた。陛下はアレン様に駆け寄りその肩に優しく手を置いた。
「私はそなたが恐ろしかった。同時に愛しくてならなかった。そなたはいつも自分より他者を優先し、誰よりも優しい子供だった。・・・パスカルも幼い頃は、精霊に愛されその姿を見ることが出来た程、慈悲深い王子だったといわれている。パスカルが粛清に走ったのは自分の為ではなく、トバルズ国とアーサーとエリスの為だった。パスカルのやり方は間違っていたかも知れないが、国を護りたい気持ちは私も痛いほど分かった。だからこそ、私は自分の息子にパスカルと同じ道を歩ませたくなかった。」
陛下はポンポンとアレン様の肩を叩くと、手を取り立ち上がらせた。
「私はアレンが産まれてから、邪悪な魔法使いと危険思想の集団の摘発に一層力を入れていった。厳しい取締りを行う中、側近達からは様々な意見が飛び交った。メシアン国に倣って魔法師団を創設する方が良いと言う意見もあった。だが、トバルズの民は『暗黒期 』の歴史的な傷があり、魔法使いに良いイメージが無い。その段階では受け入れることが出来なかった。そんな中、クリストファーが学園に入学してあの事件が起きた。」
陛下は深い溜め息をついた。
「あの当時、王家の影からクリストファーの報告を聞いていたが・・・魔法とは特定できず、ただの色恋沙汰に過ぎぬと判断した。たかだか小娘1人如きと侮っていた。それにあの時、小娘1人の為にかまける余裕もなかった。何故ならあの3年間、我々は邪悪な魔法使いとその集団との戦いを繰り広げていたからだ。奴の名はグレアム・シュナイザー。王家の血を呼称し、国家転覆を企んだ極悪人だ。」
グホッと思わず咳き込んだ。慌てて取り繕う。『グレアム・シュナイザー 』彼は、「いつかあなたを必ず振り向かせてみせる!」の隠しキャラの名だった。たしか・・・シナリオでは、先王のご落胤の息子だったはず。今のいままですっかりその存在を忘れていた。
「グレアムは王家の血筋を主張したが、本物とは年齢的に合わずただの詐称に過ぎなかった。この事件は、密かに暮らしたいという本物の意向を慮り、公にはされなかった。グレアムを取り押さえホッとしたのもつかの間、あの事件が起きたのだ。邪悪な魔法使いは1人ではなく、2人いたのだ。私は、たかだか小娘1人と侮ったことを悔やんだ。特にナターシャの事件の際、クリストファーの廃嫡を望む声が上がったのは大きな誤算だった。クリストファーを廃嫡にすれば、アレンが王となる・・・運命がアレンを、私の息子をパスカルと同じ道に引きずりこもうとしていると感じ・・・持てる権力全てでクリストファーの廃嫡を阻止した。」
「父上、父上は私より兄上を大事にされていると思っていました。」
「そんなことは無い。クリストファーも確かに大事な息子だ。だが、そなたも私の大事な息子だ。如何なる災厄からも守ってやりたいと思っている。」
アレン様はそれを聞いて静かに涙を流した。思わず流れたようで、慌てて涙を拭っていた。
「その後も誤算は続いた。クリストファーの奇矯な振る舞いだ。アーリス嬢を、あたかもそこにいるかのように語り、有り得ない姿を絵に描いていた。クリストファーは恋に狂ったのだ。これも"平定者パスカルの呪い"の1種なのかと思い悩んだ日もあった。あの事件を利用して魔法師団を新設したのも、何とか対応策がないか模索した結果だ。
時が経つにつれ、臣下の者達からクリストファーの廃嫡とアレンを王太子にと望む声は日増しに高まってきた。苦肉の策として、クリストファーの子を次代の王にすることを考えたが、クリストファーににべもなく断られた。無理に子を成せと言うならば、王太子を辞すると・・・子を成せなけれぱ、トバルズ国には未来が無い。私は苦渋の選択をした。それが1か月前のことだ。」
陛下はまた、深い溜め息をついた。
「この1ヶ月、自問自答した。このままで良いのかと。アレンにパスカルと同様の重荷を背負わせるのも否、クリストファーを正気に戻すのも無理だ。そんな中、アーリス嬢が3年振りに現れアーサーとエリスの言葉を伝えた時、やっと光明が見えた気がした。」
陛下は私をじっと見つめて言った。
「彼らは語った──新しい生き方を、選択を大事にして欲しい──と。その言葉を聞いて慟哭するアレンに、イルギアス殿が"嘆いていたのは別の何か"だとゲランに告げたと聞いた。パスカルの凍りついた魂に、アーサーとエリスの言葉だけは届いたのではないかと思ったのだ。新しい治世の為に彼らがアーリス嬢を遣わせてくれた気がした。」
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