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闇の魔法使い

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「ゲラン、その他は何かわかったか?」

ゲラン様は首を横に振った。
「今わかっていることは、ドレスの件だけでございます。その他のことはダリス魔術師団長が調査中でございますが、今しばらくお時間を頂きたいとのことです。なお、ダリス魔術師団長から提案がございました。」
「なんだ?」
「今、滞在いただいているイルギアス殿の魔法でアーリス様の失われた記憶の1部を取り戻すことが可能かもしれないとのことでございます。ただ、これは闇魔法に属しますので、陛下とアーリス様の許可が必要となりますが・・・。」
「闇の魔法か・・・アーリス嬢に害がおよぶことは無いのか?」
「はい。害はおよぶことは無いかと。ただ、記憶を探られる魔法とのことなので、不快感を感じることはあるやも知れません。」

陛下が気遣わしげな目線で私をみた。

「アーリス嬢、イルギアス殿はメシアン国の高名な魔法使いだ。アーリス嬢さえ良ければ、受けてみるがいい。どうする?受けるか?」

チラッとお父様を見ると肯定するように頷いている。
(でも、ナターシャは闇の魔法を使っていた。本当に大丈夫なの?)
不安そうな私にお父様が小さな声で囁いた。
「アーリス、イルギアス殿はナターシャの闇魔法を見破った高位の魔法使いなんだよ。信頼できる人物でもある。大丈夫だ。」
お父様の声でやっと安心して頷いた。

「はい。お受け致します。」
「分かった。イルギアス殿を呼べ。」
「既に控えの間に待機いただいております。」
「・・・さすがだなゲラン。手回しがいいな。」
半ば呆れたように王が陛下ゲラン様を褒めた。頭の回転、機転、手回しと宰相様は凄いなと改めて感心する。

イルギアス様が足音をたてずに謁見の間に入ってくる。貴族の礼をとりお辞儀した彼を見ると、50過ぎくらいの背の小さな男性だった。闇の魔法使いとのことで、怖いイメージがあったが圧迫感が無い方でホッとした。

「イルギアス殿、闇の魔法でアーリス嬢の記憶を取り戻すとは、どういうことだ。またアーリス嬢に危険は無いのか?」
「はい。闇魔法には〘夢渡り〙という魔法がございます。夢は潜在意識下に眠っている過去の記憶や失われている記憶を見ることが出来ることがあります。必ず取り戻すとはお約束できませんが、やってみる価値はございます。アーリス様には危険はございませんが、潜在意識下に眠っている記憶とは、意識的に忘れたくて封じた物が潜んでいることがございます・・・お辛い気持ちになることがあるやも知れません。」

「そうか。アーリス嬢大丈夫か?」
「はい。私は大丈夫でございます。」
何かを思い出せるのであれば、多少辛くてもやってみる価値がある。

「〘夢渡り〙は今すぐ行えるのか?」
「いいえ、恐れながら準備が必要でございますので、早くても明日の午前中となります。また、謁見の間では広すぎて行えない為、10数人程度が入れる小さな部屋とベットが必要になります。ご用意いただけますでしょうか。それと・・・アーリス様のプライベートな内容に関わることがあるかもしれませんので、見届ける方は最小限に抑えてください。」

「明日は予定が埋まっているので私は立ち会えないが、ゲランに立ち会う者を厳選させよう。アレン、お前も立ち会うように。」

「「承知いたしました。」」
2人が頷くと、イルギアス様が私の方に顔を向けた。

「アーリス様、『夢渡り』にはアーリス様の髪が必要となります。今、いただけますでしょうか。」
「あっはい。」

近づいてきたイルギアス様を手で遮り、お父様が近衛兵から短剣を借りて髪をひと房切り取った。
「これで良いかな。」
「はい。充分です。公爵様。」
イルギアス様は、手に持った髪をハンカチーフに包み懐にしまった。

「なお、『夢渡り』を行う場合、施術される対象者はゆったりと寛いでいただいている必要がございます。拝見したところ、かなりお疲れのご様子。本日はもうお休みいただいた方がよろしいかと。」
陛下は何か言いたげな表情をしていたが、わかった。今日は王宮に泊まるようにと仰られると謁見の間を退室された。

お父様と一緒に、謁見の間の控えの室まで下がるとアレン様がいらしてくださった。

「イソラ公爵、アーリス嬢、お疲れでしょう。いま、直ぐに部屋の手配をしますので、お待ちください。」
アレン様は手早く私とお父様の客間と食事の手配してくださると、東宮へ戻られた。

客間のベッドに潜り込むと、思わぬ出来事で張りつめていた緊張が解けたのか、どっと疲れが押し寄せて来た。
長かった1日がやっと終わったのだ。

(クリス様は今頃、どの様に過ごされているのかしら・・・)クリス様のことを思いながら、眠りに着いた。眠りに着く直前に『アーリー大好きだよ』と囁く彼の声が聞こえた気がした・・・


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