7 / 44
証拠探し①
しおりを挟む
入って来たのは城付きの医者パージスと宰相のゲラン・ハイネ公爵様だ。攻略対象だったセドリックの父親だ。かなりの美男子で有名で、最後に会った時も30代後半にはとても見えない若々しさだった。だが・・・今の彼は疲れた顔をしていて白髪が目立つ。あまりの変貌ぶりに驚いた。
先に、パージスに手当をしてもらう。パージスには、王妃教育で宮廷に登城するようになってから何度か診てもらったことがあった。
「アーリス様、本当にアーリス様なんですね!」涙を浮かべながら治療してくれた。幽霊!と叫ばれなくて良かったが、涙して喜んでくれる姿を見ると、何だか申し訳ないような気がした。
「ええ。私よ。何だか心配を掛けてしまって・・・私もこうなった理由が分からないのよ。」
治療が終わると宰相がパージスを促して退出させた。疲れた顔に加えて表情も若干青くなってる気がする。
「アーリス様、失礼ですが貴方様は亡くなられたはず。私も貴方様の亡骸をこの目で見ています。申し訳ありませんが、まず本物であるかどうか、お調べさせていただきます。」
「宰相、この方はアーリス・イソラ嬢に間違いない。私が保証する。」
「・・・。アレン様、お気持ちは分かります。私もこの方が本物だと感じています。だからこそ証拠を探さないと、死者が蘇るなんて他の者が納得するはずがないでしょう。後からアーリス様が糾弾される可能性がありますので、不穏な者どもに対抗する意味も込めて、本物である証拠を押さえておかねばなりませぬ。」
宰相から、値踏みするような鋭い目線でしげしげと見詰められ、思わず目線を逸らした。何も悪いことしていないのに居心地が悪い。
「アーリス様、覚えている限りで結構です。目覚める前に何があったのか教えて頂けますか?」
「お父様から卒業式の舞踏会の日に、謹慎しているように申し付けられておりましたのでずっと自室におりました。自室では、何かしていないと落ち着かなかったので、部屋の片付けとお世話になった方々に手紙を書いておりました。そんな時に首の後ろに何かが刺さって、手をやった所までは覚えているのですが・・・そのあと、この宮殿の庭で目覚めたんです。」
「首の後ろですか?失礼ですが、傷口をあらためさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ。」
髪をかきあげうなじが見えやすくするために俯く。
「これは、確かに跡がありますね。針かもしれません。何かの薬物を盛られた可能性があります。魔術師団の者に痕跡を辿らせてみます。」手を叩くと宰相補佐に魔術師団長を呼ぶように指示を出した。
「宰相様、魔術師団って?以前はございませんでしたよね?」魔術は廃れたものと呼ばれていた為、トバルズ国には魔術師団は存在していなかった。
「3年前まではございませんでした。あの事件後、必要性を痛感して新設したのです。」
「必要性?あの事件?」
小首を傾げて訝る私を見て、宰相はため息を着いた。
「アーリス様はあの事件の顛末を何もご存知無かったのですよね。長い話になりますので、調査が終わりましたらお話いたしましょう。」
「宰相、あの事件については私からアーリス嬢に話す。調査に集中してくれ。」
「承知致しました。アーリス様あの事件については、アレン様にお聞きください。」
宰相はアレン様に会釈をすると話を続けた。
「そのドレスについてですが、本物か確認させていただきたいのですがよろしいでしょうか?以前、クリストファー殿下から、その服の内側に本物にしかない特徴を伺っておりますので、それが証拠になると思います。只今、代わりになる衣装と靴をご用意させていますので、お着替えをお願い致します。」
「分かりました。でも、ドレスに証拠が?」
「はい。殿下と貴女様だけに意味が分かるような細工をしてあったそうです。・・・実は仮の棺に納める時、そのドレスを着せるか揉めまして・・・特にイソラ公爵が反対されました。私がイソラ公爵を説得したのですが、その時に殿下が私にその証のことを仰られました。それを聞いたイソラ公爵はやっとドレスを着せることを承諾したのです。このことは、王子、イソラ公爵、私、ドレスを仕立てた衣装係しか知らないはずです。」
「見える限りそんな細工があるようには見えませんが。」
「ある手順を踏むと見えるようになっています。今はそれが何かは言えません。」
「・・・分かりました。」
「今、侍女に新しいドレスと靴を用意させます。脱いだドレスはその侍女にお渡し下さい。それでは、私は色々手配がありますのでこれにて下がらせていただきます。後ほど魔術師団長が参りますので、お待ちください。」
その後、侍女が代わりのドレスと新しい靴を持って来てくれたので、そのまま侍女の手を借りて着替えた。脱いだドレスを裏地を含めてひと通り見てみたが、見た限りでは何か証拠になるものは見つからなかった。この状態で調査して問題無いのか少し不安を感じながら侍女に着ていた紫のドレスを託したのだった。
アレン様は着替える間だけ退出していただいていたが、それ以外はずっと付き添って頂いていた。飲み物や食事について尋ねられたが、食事は喉を通らない気がして飲み物だけお願いした。気遣わしそうにしている表情に過去の姿が重なる。(王宮で労りのお言葉をかけていただく時、よくこんな表情をしていらした。身体は成長されても、お優しいのは変わられない。なんだが安心する。)
「アレン様、魔術師団長が参りました。」
「わかった通せ。」
魔術師団!かつて傾倒していた魔術の言葉に少しワクワクする気持ちが湧いてくる。
(魔術師ならローブ姿かな?)
先に、パージスに手当をしてもらう。パージスには、王妃教育で宮廷に登城するようになってから何度か診てもらったことがあった。
「アーリス様、本当にアーリス様なんですね!」涙を浮かべながら治療してくれた。幽霊!と叫ばれなくて良かったが、涙して喜んでくれる姿を見ると、何だか申し訳ないような気がした。
「ええ。私よ。何だか心配を掛けてしまって・・・私もこうなった理由が分からないのよ。」
治療が終わると宰相がパージスを促して退出させた。疲れた顔に加えて表情も若干青くなってる気がする。
「アーリス様、失礼ですが貴方様は亡くなられたはず。私も貴方様の亡骸をこの目で見ています。申し訳ありませんが、まず本物であるかどうか、お調べさせていただきます。」
「宰相、この方はアーリス・イソラ嬢に間違いない。私が保証する。」
「・・・。アレン様、お気持ちは分かります。私もこの方が本物だと感じています。だからこそ証拠を探さないと、死者が蘇るなんて他の者が納得するはずがないでしょう。後からアーリス様が糾弾される可能性がありますので、不穏な者どもに対抗する意味も込めて、本物である証拠を押さえておかねばなりませぬ。」
宰相から、値踏みするような鋭い目線でしげしげと見詰められ、思わず目線を逸らした。何も悪いことしていないのに居心地が悪い。
「アーリス様、覚えている限りで結構です。目覚める前に何があったのか教えて頂けますか?」
「お父様から卒業式の舞踏会の日に、謹慎しているように申し付けられておりましたのでずっと自室におりました。自室では、何かしていないと落ち着かなかったので、部屋の片付けとお世話になった方々に手紙を書いておりました。そんな時に首の後ろに何かが刺さって、手をやった所までは覚えているのですが・・・そのあと、この宮殿の庭で目覚めたんです。」
「首の後ろですか?失礼ですが、傷口をあらためさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ。」
髪をかきあげうなじが見えやすくするために俯く。
「これは、確かに跡がありますね。針かもしれません。何かの薬物を盛られた可能性があります。魔術師団の者に痕跡を辿らせてみます。」手を叩くと宰相補佐に魔術師団長を呼ぶように指示を出した。
「宰相様、魔術師団って?以前はございませんでしたよね?」魔術は廃れたものと呼ばれていた為、トバルズ国には魔術師団は存在していなかった。
「3年前まではございませんでした。あの事件後、必要性を痛感して新設したのです。」
「必要性?あの事件?」
小首を傾げて訝る私を見て、宰相はため息を着いた。
「アーリス様はあの事件の顛末を何もご存知無かったのですよね。長い話になりますので、調査が終わりましたらお話いたしましょう。」
「宰相、あの事件については私からアーリス嬢に話す。調査に集中してくれ。」
「承知致しました。アーリス様あの事件については、アレン様にお聞きください。」
宰相はアレン様に会釈をすると話を続けた。
「そのドレスについてですが、本物か確認させていただきたいのですがよろしいでしょうか?以前、クリストファー殿下から、その服の内側に本物にしかない特徴を伺っておりますので、それが証拠になると思います。只今、代わりになる衣装と靴をご用意させていますので、お着替えをお願い致します。」
「分かりました。でも、ドレスに証拠が?」
「はい。殿下と貴女様だけに意味が分かるような細工をしてあったそうです。・・・実は仮の棺に納める時、そのドレスを着せるか揉めまして・・・特にイソラ公爵が反対されました。私がイソラ公爵を説得したのですが、その時に殿下が私にその証のことを仰られました。それを聞いたイソラ公爵はやっとドレスを着せることを承諾したのです。このことは、王子、イソラ公爵、私、ドレスを仕立てた衣装係しか知らないはずです。」
「見える限りそんな細工があるようには見えませんが。」
「ある手順を踏むと見えるようになっています。今はそれが何かは言えません。」
「・・・分かりました。」
「今、侍女に新しいドレスと靴を用意させます。脱いだドレスはその侍女にお渡し下さい。それでは、私は色々手配がありますのでこれにて下がらせていただきます。後ほど魔術師団長が参りますので、お待ちください。」
その後、侍女が代わりのドレスと新しい靴を持って来てくれたので、そのまま侍女の手を借りて着替えた。脱いだドレスを裏地を含めてひと通り見てみたが、見た限りでは何か証拠になるものは見つからなかった。この状態で調査して問題無いのか少し不安を感じながら侍女に着ていた紫のドレスを託したのだった。
アレン様は着替える間だけ退出していただいていたが、それ以外はずっと付き添って頂いていた。飲み物や食事について尋ねられたが、食事は喉を通らない気がして飲み物だけお願いした。気遣わしそうにしている表情に過去の姿が重なる。(王宮で労りのお言葉をかけていただく時、よくこんな表情をしていらした。身体は成長されても、お優しいのは変わられない。なんだが安心する。)
「アレン様、魔術師団長が参りました。」
「わかった通せ。」
魔術師団!かつて傾倒していた魔術の言葉に少しワクワクする気持ちが湧いてくる。
(魔術師ならローブ姿かな?)
19
お気に入りに追加
614
あなたにおすすめの小説
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
光の王太子殿下は愛したい
葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。
わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。
だが、彼女はあるときを境に変わる。
アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。
どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。
目移りなどしないのに。
果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!?
ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。
☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる