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第三十五話
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天正一〇年{一五八二年}五月二十七日。毛利軍殲滅のために中国地方の秀吉勢への援護を信長より頤指された光秀は現京都市右京区の愛宕山にのぼりよもすがらまどろみもせずに戦勝祈願をおこなった。無論麾下たちには『毛利勢への戦勝祈願』と見做されたであろうが実際にはすでに『第六天魔王』への天誅を蹶起していたのだ。当時神仏垂迹によって愛宕権現は勝軍地蔵と同一視されていた。つまりここでまず『信長への勝軍祈願』をしたわけである。爾後光秀は亀岡の篠村八幡宮でも軍神たる八幡神に祈禱しているがここでも扈従たちに『謀叛』の気配はきづかれていない。さらに光秀は現京都市上京区の廬山の地蔵菩薩像を崇拝していたといわれる。つまり『神道の神神』に信長への勝利を祈禱し『仏教の菩薩』に敗衄した場合の死後の冥福をいのっていたわけである。まさに典型的なる戦国武将の信仰心のもちぬしであった。
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