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第二十八話
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元亀二年{一五七一年}九月十二日。
信長の軍勢は比叡山延暦寺を攻略していた。
不倶戴天の浅井朝倉連合軍を援助するなどして元来敵対していた信長勢と延暦寺だが今回の襲撃には無論『理由』があった。斯様なる事情をうすうす怵惕惻隠していた延暦寺側は信長勢との和睦交渉が断絶されて廼時に無辜の老若男女を山麓の方角へと四散させ百戦錬磨の僧兵たちを山巓に位置する根本中堂に嘯聚させた。爾時の延暦寺は風紀紊乱が明鬯たらしめられており魚類肉類の飽食や酒池肉林の饗宴または金銀財宝の隴断などが指弾されていた。ながらく歴史上では霊峰比叡山全体からなる延暦寺悉皆が攻撃されたとされていたが実際には爾時すでにほとんどの寺社仏閣は黯黮たる廃墟となっていた。ちょうど御仏の入滅から綿邈たる二千年ほどをけみして仏法の澆季混濁の時代に這入ろうとしていたのかもしれない。無論仏法はときに破戒されときに再建されて継承されてきた。科学が過去を否定してゆくことで進歩したのと同様に宗教が過去を改善してゆくことも必定といえた。
信長の軍勢は比叡山延暦寺を攻略していた。
不倶戴天の浅井朝倉連合軍を援助するなどして元来敵対していた信長勢と延暦寺だが今回の襲撃には無論『理由』があった。斯様なる事情をうすうす怵惕惻隠していた延暦寺側は信長勢との和睦交渉が断絶されて廼時に無辜の老若男女を山麓の方角へと四散させ百戦錬磨の僧兵たちを山巓に位置する根本中堂に嘯聚させた。爾時の延暦寺は風紀紊乱が明鬯たらしめられており魚類肉類の飽食や酒池肉林の饗宴または金銀財宝の隴断などが指弾されていた。ながらく歴史上では霊峰比叡山全体からなる延暦寺悉皆が攻撃されたとされていたが実際には爾時すでにほとんどの寺社仏閣は黯黮たる廃墟となっていた。ちょうど御仏の入滅から綿邈たる二千年ほどをけみして仏法の澆季混濁の時代に這入ろうとしていたのかもしれない。無論仏法はときに破戒されときに再建されて継承されてきた。科学が過去を否定してゆくことで進歩したのと同様に宗教が過去を改善してゆくことも必定といえた。
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