『神々の黄昏』中篇小説

第十八話

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　大本営では会議がひらかれていた。
　以下神國科學軍将校の議論である。
「――以上のとおり亜あ米め利り加か教国はすでに遡及不可能なる瀆とく神しん的領域に闖ちん入にゆうせんとしているわけであります。ここで簡略にまとめましょう。七月二十六日連合教国軍は神州神軍無条件降伏を希求するポツダム宣言の受諾を指し嗾そうしてきましたが無論われわれ神軍はこれを擯ひん斥せきし八月六日の爆撃天使ラファエルによる広島への『天罰』および八月九日の爆撃天使ウリエルによる長崎への『天罰』をけみして八月十二日に爆撃天使ミカエルによる新潟への『天罰』が遂行されました。斯か様ようにして亜あ米め利り加か教国軍は本土決戦に匹ひつ儔ちゆうする最終手段として日本国民への『最後の審判』を宣告してきたわけであります。『最後の審判』の宣告日時は八月十五日十八時とされております。ここで今回の大本営会議がもよおされふたたびポツダム宣言を受諾するかいなかの喧けん喧けん囂ごう囂ごう侃かん侃かん諤がく諤がくたる議論がなされたわけでありますが無論今回も結論はおなじ『無条件降伏拒絶』ということに相成ったわけで厶ございます。では勿もち論ろんわれわれ神軍の今後の戦略展開をいかになすべきかという問題になるわけですがここで一旦『魂こん魄ぱく接続』についての神國科學軍なりの説明をさせていただきたく存じます。倜てき儻とうたる陛下および神軍各幕僚には退屈なる議論かもしれませぬがこれが嚮きよう後こうの『計画』の序説となりますので御容赦いただきたい。畢ひつ竟きよう『神かみ神がみ』はマックス・プランク博士を劈へき頭とうとする量子力学とアインシュタイン博士の標ひよう榜ぼうした相対性理論によってなりたっていらっしゃいます。神かみ神がみは本来この泡宇宙内の八割以上を支配するとおもわれる『神性エネルギー』として世界に偏在していらっしゃいますが物質そのものの観測による相補性の聚しゆう斂れんでは物質化できません。そこで人間の『魂こん魄ぱく』による観測でエネルギーとしての神かみ神がみの波動関数を聚しゆう斂れんさせて粒子化させていだたいておるので厶ございます。『魂こん魄ぱく接続』は接続端末の接続機関の埋込み手術をなせばだれでも可能であります。たとえばわれわれ日本神軍の軍人たちは『ハラキリ』というかたちで魂こん魄ぱく接続するためにそれぞれの腹ふつ腔こうを横一文字に切開して接続機関を埋込んでおります。翩へん翻ぽんとして西欧教国軍の軍人たちは十字架型の接続端末への『磔たつ刑けい』というかたちで魂こん魄ぱく接続するために両手のひらに『スティグマ』とよばれる接続機関を埋込んでいるわけであります。斯か様ように魂こん魄ぱく接続には『信仰』が必要十分条件であることになります。つまり接続者はそれぞれの信仰する神話に基づいて神性エネルギーを観測しそれぞれの信仰どおりの神かみ神がみを粒子化するわけですが問題は『接続した神が創そう痍いすると操縦者もおなじく傷付く』ことであります。畢ひつ竟きよう『接続中に神が斃へい仆ふなされば接続している操縦者も殪えい死しする』わけです。昭和最大の総力戦にもかかわらず魂こん魄ぱく接続が軍人にしかゆるされていないのは斯か様ような理由で危険だからであります。そこで今回われわれ神國科學軍は『窮極の計画』を考こう覈かくしました。というのもわれわれ神州国民は曩のう時じの『國民総動員法』の発令によって『非常事態のために国民全員が受信機関埋込み手術をうけている』のでありますから――――」