幸せが終わるとき。(完結)

紫苑

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想いが叶った後は。

不自然なピース(※残酷表現アリ。)

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何でそんな遠くに居る?

君クレハクレハ俺の物自分の物だろう?

暖かく抱きしめあえば、近くなると思ってた。

そう自分は単純で、その行為浮気のしないセックスで回数の分、近くなると思ってた。

でも、さっきからクレハは幸せそうに腕を組み、
幸せそうに笑うのに、

写真を沢山撮る姿は、思い出を沢山作ろうと不自然に思える。

何で疑ってしまうのだろう。

好きなのに。愛してるのに。他の女なんて…要らないのに。


気のせいだ。

気のせいなんだよな?

あの泥のように眠った昨晩。

「ん?クレハ…?」

美味しそうな匂いがする…。

「朝ごはん出来てるわよ」

白いレースのエプロン何か着て。
脱がしたくなる衝動に駆られながら、それでも食欲の方が今の俺に勝る。
その朝ごはんとやらを食べてみることにする。

「いただきます」
珍しく綺麗な目玉焼き。何度も練習したけど、焦がしてしまう度に俺を呼ぶのがいつもの日課だったのに?

焦げた目玉焼きを「美味い♪」と笑顔で笑うのも日課だったのに?

ぱくりと口に含んでもぐもぐと舌を動かす。
「く、クレハ…??」
「美味しい??」

少し不安そうな表情で俺の顔を近くで覗いている。

そんな様子を可愛いと思いながら、

「う、…美味い??」

だって、あの料理が下手くそなクレハが、こんなに普通の目玉焼きを作れるのだからおかしいとかどうしたんだ?とかも聞きたくなる。

「何よ、その疑問形は?」
「痛っ!!」

親指と人差し指を使って、俺にでこぴんしてくるものだから、涙目になりながらゆっくりと味わう。

その不思議な美味しさは何だか寂しい。

「貴方レアは私じぶんが居なくても大丈夫」

そんな風に言われてるようで。

気のせいだ。

気のせいだよな?

それから俺はパジャマからポロシャツに着替えて、ズボンを履きかえると、荷物の忘れ物が無いか色んな所をクレハと調べた。クレハにちょっかいを出しながら、笑いながら、「レア、どこ触ってるのよ」と更に今度もおでこにデコピンされてしまう。

幸せなのに…何だか怖い。

「よし、行くか」

ホテルをチェックイン。
その後飛行機に揺られて、俺とクレハは冬なのに暖かい滅多に雪の降らないこの土地に来た。

まずは美味しい物を食べようと、ガイドブックを見ているクレハをぎゅうっと後ろから抱きしめた。

「ひゃっ…な、何するのよ」
「いいじゃん、みんなも一緒だよ」

周りを見るとみんなカップルや夫婦、家族連れは殆ど居ない。
着いたのがもう夕暮れ時で、空港の近くには美味しい食べ物やさんなんか沢山あるから調べなくても大体どこも混んでる。

飛行機の中で、クレハが肩に凭れ掛かってすやすや寝ている姿を携帯に収めるだけで幸せだったりした。

「もう」

嬉しそうに微笑む彼女クレハ。

「ねぇ、レア…

あたし、貴方に話すことがあるの」

笑顔は掻き消え、真顔で俺の方を見る。
イルミネーションが綺麗で…クレハの顔は明るいライトに照らされる。
こんな表情をしているクレハは観たことが無い。
冷たい顔、冷たい目、冷たい口元。

クレハは俺にキスをした。

―後から思うときっと最後のキス。

この時に俺は…思いもよらない事実を受け止められなくて。

離れて、そっと抱き着く。
その肩を抱き寄せた。

「レア、あたし、妊娠してるの。

貴方との子供だけど、

あたし、一人で生むわ」

「ど、どうして…??」

クレハの表情は抱きしめていて見られない。
今までの事を淡々と語り始めたクレハ。
彼女を抱きしめてるのに…俺の心臓の心拍数だけ多いような気がした。

今までの違和感がパズルのように当てはまり始める。

その「真実本当」が悲しい。

何だよ、それ。

それは残像のように、少しずつ俺の心を惑わした。

「あたし、犯されたの」

「レアじゃない人よ」

―何を言ってる?

「でも、子供は…レアとの子」

―そんなの分かるもんか。

「あたし、もうレアと付き合えない」

―嫌だ、嫌だ。


「泣かないで…」

無理だ。

だって、俺は。

たまたま、俺は普段持たない果物ナイフを、クレハに林檎を剥こうと購入していた。不器用で、りんごすら剥けない彼女。

目玉焼きも作れないぐらいが愛らしい。

なのに、俺を置いて行かないで。

俺以外に抱かれないで。
俺以外を愛さないで。
俺より成長しないで。

やっとやっと手に入れたのにそんなのは嫌なんだ。

その瞬間、寄りにも寄っていつもは降らない雪が降る。

「レア、さよなら」
彼女の頬に雪の結晶がぽつりぽつりと落ちては消える。
それは涙なのか、雪が熱で溶けたのかは分からない。

どうせ、オレノモノ二ナラナイノナラ。

その瞬間、魔が差した。

俺は失うぐらいなら、と。

泣いている彼女を果物ナイフで突き刺した。

真っ赤な鮮血、漂う悲鳴。

それで自分の犯した罪に戸惑う。

倒れた彼女を抱き寄せて、

俺は涙を流して、

「ごめん」

そう言って…

彼女は最後の力で俺の肩をぎゅうっと強く握って、

「ありがとう」と笑顔で笑う。

そして、彼女は動かなくなる。

―『いや…あのね、最近刺される夢を見るの…すごくリアルで…怖い…』

そう彼女は忠告してくれていたのに。

彼女を刺すのは、

他でもない、

俺だったんだと言う事に気が付くのが遅すぎた。

ナイフをかしゃんと落とすと、俺は最後まで彼女に泣きじゃくりながら抱きしめた。
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