妹ちゃんは激おこです

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妹ちゃんは激おこです

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どうして帰ってきてしまったの?お兄様?
早くこの家から出ていってくださいまし。
二度と門をくぐらないで。
もう家名を名乗ることさえ許さなくってよ。


どうしてわたくしがここまで言うかって、義姉となるはずだったカロリーヌ様を蔑ろにし、男爵家の庶子を妻にするだなどと寝言をほざいたからですけど。
お父様にはわたくしが後を継ぐと宣言し、受け入れられました。
幸い、わたくしも跡継ぎ教育を念のため受けておりましたから、問題ありませんわ。
婚約者もこれから決めると言う段階でしたから、嫁ぐのではなく婿取りとなりますが、それだって問題なくってよ。


で、いつ出ていきますの?三秒後?


……はぁ~。
お兄様、本当に狂ってしまわれたのね。
男爵家の、庶子!引き取られて三年も経っているのにまともな礼儀作法も覚えられない蒙昧!
それが侯爵家の夫人になれると?本気で?
同じ侯爵家のカロリーヌ様は家の取り仕切りを完璧に学ばれて、社交だって頑張っておられましたのよ。
もちろん礼儀作法も完璧。王族となっても問題ないと言われるくらいでしたわ。

それで、特進科――総合的に高度な教育を受ける科の一員として入学して、お兄様の助けとなれるようにと励んでおられましたのに。
その庶子は淑女科の最下位クラス。教育を家で出来なかった令嬢が基礎の基礎を学ぶクラスで、その中でもぶっちぎりの最下位。

ええ、有名ですわ。
悪い意味で、ですわよ!
男漁りに夢中で授業もろくに受けない、補習も出ない!追試にも行かない!
女性教師が少しきつく言うと若い男性教師に泣きつく!ま、泣き落としなんて聞いちゃくれませんけれどね。

逆ハーレムというものを作って遊んでる阿婆擦れ女と大変有名ですのよ。
その一員がお兄様というわけですけど、庶子はお兄様と結婚すると一度でも明言しましたか?
しておりませんわよね。
肉体関係にまで発展したのに婚姻の話さえ出なかったのに不信感も持たないなんてお兄様ってほんとに……。



入学が来年のわたくしでさえこんなに情報を持っているのですもの、お兄様にはもう嫁など来ませんわよ。
庶子にも拾っていただけないなら貴族でいられるわけもありませんわ。
それともお兄様、ご自分の貯金で商売でも始めて、その利益で妻を買うご予定でもありましたの?ああでもお兄様ってば庶子に貢いでおられたのでしたっけ。将来性ありませんのね。

ええ、ええ。
同じようにあの庶子に色仕掛けをされても断固無視出来た殿方の評判は上がりましたけれど、お兄様がた腑抜け野郎どもの評判は地の底ですわよ?
今時、あんな見え透いたぶりっこ演技しか出来ない大根役者をもてはやす審美眼のない人なんていませんものね。
あ、目の前にいましたわ。うふふ!


そうそう、カロリーヌ様にはお兄様の残り少ない貯金全額を賠償金としてお渡ししましたの。
慰謝料とは別途でですわ。
まったく、どう使ったらあんな少額の貯金になるのです?
恥ずかしくって、お兄様の衣類も装飾品も、家具も何もかも売り払って足してしまいましたわ。
ですから部屋に戻られても何もありませんわ、ご愁傷様。

……しつこいですわねぇ。
家名に泥を塗る行いを長々してきた男を、わたくしが許すとでも?
ち・な・み・に、貴族院にはもう書類を提出しておりますの。
お兄様は戸籍上もう当家の人間ではございません。


ま、お水でも一杯いかが?お茶はさすがに玄関では差し上げられませんので。



ええと、それでなんだったかしら。
お兄様が戸籍の上でも他人になった話まではしましたわね。

親戚一同にも鳩を飛ばしておきましたので、お兄様が急ぎ向かって保護を願い出ても門前払いですわよ。
お母様のご実家なども無理ですわね。お母様がキレッキレの笑顔を浮かべながらお手紙書いておりましたし。

わたくしからの餞別があるとすれば、このパンと平民服の入ったカバンくらいですわ。
王都には日雇いの肉体労働もございますし、その気がおありなら男娼にもなれましてよ。
なので、とっとと労働して生活基盤を整えることをお勧めいたしますわ。

え?学園?
通い続けるには貴族の身分も学費も必要ですのに、どうして通えると思ってらっしゃるの?
わたくしどもとは無縁で文無しの平民が通える道理はございませんわ。
ええ、ですので庶子にはご自身で連絡つけてくださいましね。
平民と庶子なら身分的に釣り合いますし、うまくいくんじゃないかしら?


ああ、頭痛がしてきましたか?
よかった。それ、断種用のお薬が効いてきてる証拠です。
いつ飲ませたって……さきほどのお水ですけど。
この状況で、苦みのあるお水を警戒もせずに飲むんですもの。
わたくし、警戒して一口飲んだところで突っ返されると思っておりましたのに。
あなた普通に一気飲みなさるんですもの。
その警戒心のなさ、どこぞの貴婦人か男色家のお妾さんになって囲われるのが一番よいのでは?


今更吐いても薬はもう染み渡っておりますからお兄様の子種はもう死んでおりますわ。安心なさって。
ええ?平民に落とすのですもの、将来的に「侯爵家の血筋のものです」と名乗る不審者が出てこないように断種は当然ですわ。
どこの家でもそうですわよ?男女関係なく、子を残す機能は潰されて家を出ることになります。
でなければ青い血を引く平民が大量発生しますし、子孫を名乗る不審者があらゆる家に押し寄せていると思いません?
ですから、家の存続に関係なしとされ家を出される子供は子孫を作れない体にされるのです。
わたくしとて、嫁げなければそうなる予定でしたわ。
どうしてこの程度の知識もありませんの?


さ、跡継ぎに必要な子孫を残す能力も失って、これで思い残すことはございませんでしょう?
家に縛られ、将来の妻さえ決められず、不自由な俺……でしたかしら?
もうお兄様を縛るものは何一つございませんので、自由に羽ばたいてくださいまし。
ちなみに今から十数える間に出ていかれぬようなら騎士たちに男娼用の娼館に売り飛ばすよう指示いたします。
売ったお金は騎士たちへのお手当てにでもしますわ。

いぃち……にぃ……さぁん……しぃ…………





いなくなりましたわね。
ああよかった!
庶子にうつつを抜かし始めたところであれこれ手を打った甲斐がありましたわ。
どうせあのひとのことですもの、都合のいいように酔っ払いながら不貞の道を突っ走って落ちぶれていくと思っていたもの。

だってあのひと、まだ小さい頃わたくしが大事にしていたうさぎのぬいぐるみを引っ張って破いた時、なんて言ったと思う?
わたくしが抱きかかえていたのが悪い、ですって。
はぁ?って思うでしょう?
わたくしのぬいぐるみをわたくしが抱いていて何が悪いのか、今でも分かりませんわ。
幸い、裁縫の得意な侍女が直してくれましたけれど、兄だったひとは一度たりとも謝りませんでしたわ。

それからも自己弁護や八つ当たり、見当違いな擦り付けを繰り返すものだから、お父様もとうとう覚悟をお決めになられたのだけど、分かってないのでしょうねぇ……。
お父様はお母様を溺愛しておられますもの。似た顔つきのアレを可愛がるのは仕方ありませんわ。
けれど人間性に問題アリを嫡子として扱うのは……ねぇ。
おじい様たちもわたくしにしておけと忠告するはずだわ。
それでも結婚すれば落ち着くだなんて言えるのだから、すごいわよね。
わたくし、成人したらすぐにでも当主を継いでお父様から決定権を奪うつもりよ。


お父様に対して思うところはあるわ。もちろん。
だけれど今の当主はお父様なのだもの。
代替わりまで反発する姿勢は見せないわ。
婿となる方だって、よほどの愚か者をあてがわれない限り受け入れますとも。

大丈夫。わたくし、この見た目ですけど精神的には強い類に入りますもの。
結婚相手が多少おばかさんでも調教くらいしてみせるわ。
兄だった人レベルのおばかさんならまず結婚しません。調教できるレベルならして差し上げてよろしいけれど。

ええ、お父様の審美眼は信頼してないわ。
アレをあの年まで許してしまった方なのだもの、ねえ?


はぁ。
おじい様は素敵な紳士なのに、どうしてお父様もアレも頭が変なのかしら。
劣化が激しすぎるわ。
お父様は家の運営はそこそこだけれど親としてはまるでダメだし、アレはもう人間性からダメだったし。
弟が出来ていたとして、無事産まれたのかしらね……知性の次は肉体がダメそうじゃない?
人のかたちをしていないおぞましいものが産まれていたかもしれないわ。
そうなったら可哀想だから生まれないように神様がはからってくださったのかしら。

ほんとヤになっちゃう。
けれど、わたくしが当主になるからには頑張らないといけないのよね。
さすがに二百年の歴史をお父様かわたくしかで終わらせるわけにもいかないし。
あーあ。


学園に通う前にこうなってよかったって思うべきかしらねえ。
成人したらもう断種のお薬がお待ちかねだもの。
まだ婿になれる殿方が残ってるはずだし、いっそお父様に任せずわたくし自身が学校で見定めるのもありね。

うん!決めた!

わたくし自分の婿は自分でつかまえるわ!
そうと決まったらお父様を頷かせなきゃ。
今の落ち込みモードのお父様ならアレのことを突き付けながらちょっと脅せば落ちるわ、きっと。
いいえ、落としてみせる。
そもそもお父様じゃなくてわたくしの伴侶になる方なのよ、決める権利はこっちにありよ!
そうだ!いっそお母様にも援軍を頼もうかしら?

アレのおかげで気分が沈んでいたけれど、明るい未来に思いをはせたってかまわないわよね!?
アレみたいに当主となる自覚もなく自滅の道を行かないように気を付ければいいだけなのだもの!
ああ、焚き付けにもならない兄だった人にも役立つことってあったのね。
反面教師!ありがとう、さようなら!
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