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本編 2

第十二話 思考放棄する(狼)男

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「異様だな」

 ウォルフは、辺りを見回しながら呟く。カマラが「そうね」と頷いて顔を顰めた。
 森の中は異様な静けさに包まれていた。
 獣人族であるウォルフ達が知る森というのはどこも賑やかだ。人族より何倍も優れた聴覚は、意識すればジャックラビットが穴を掘る音、鹿ヒルシュの群れが森の中を移動する音、栗鼠イーラが木から木へ飛び移る音、小さな魔鳥たちの囀りや魔虫たちのひそかな息遣い。そういうものが溢れている筈の森の中は、生物がいなくなってしまったかのようにシンと静まり返り、風が木々を揺らす音や自分たちの話し声や乗る馬の蹄の音と息遣いがやけに大きく聞こえる程だった。

「……なんか空っぽになっちゃったみたい」

 護身用の短剣を腰に差したジョンは、不安そうに森の中を見回す。
 ウォルフたちは昨日の昼過ぎにはカロル村に無事到着し、歓迎を受けた。翌日、森に入るために最近の村の様子などを村人たちから聞いて回り、被害状況を調べて、報告書にまとめる。人への被害は幸いなかったが、家畜が少々Dランクのルーブウルフにやられ、畑の作物がラビットやマウスによって荒らされるという被害が出ていた。
 ジョンの祖父母は、ジョンが森に入ることを反対したがジョンが「僕はお父さんの息子だし、村を守る義務があるもん」と譲らず、こうして予定通り、案内してくれている。まだ八歳なのだから未知の魔獣に対して恐怖があるはずだ。いざとなれば祖父を担いで案内を頼む予定だったが「いざとなったら僕は逃げるから、あとはよろしくね」と言われた。肝の据わり方が尋常ではないが、彼の周りにいる大人の顔を思い浮かべると納得せざるを得ない。
 
「泉に何かいるのは間違いなさそうだけど……どうやって結界の中に入ったのかしら」

 カマラが首を傾げる。
 ルーたちも辺りを警戒しながらこちらの話に三角の耳を傾けている。

「おじいちゃんが確認できてないって言ってたから、もしかしたら結界自体が壊れされちゃってるのかも。特定の血筋以外の人間は弾くけど、城主様のお城を守っている結界みたいにそこまで強いものじゃないって言ってたから」

「結界が壊れてるようなら、全員で行こう。結界ありきの作戦じゃ意味ねえからな」

 リュコスが視線を鋭く尖らせながら言った。もともと鋭い顔立ちで子供に泣かれがちの男だが、ジョンは慣れているので泣かないため、彼はジョンをとても可愛がっている。

「いざとなったら、ランとカマラはジョンを護衛して村に戻れ。大至急、鳥を飛ばして、援護を頼んでくれ。俺たちも倒せたら狼煙を上げる不可能なら何が何でも村に戻るから、村の防衛に関しても徹底してくれ」

 ウォルフの指示にカマラとランが頷く。

「水の匂い、火の匂いもする……」

 ルーが不意に顔を上げた。口数の少ない男でほとんど喋らないのが特徴だ。

「火災ってんじゃなさそうだけど……火というか煙だな」

「僕には分かんないや」

「俺たちの鼻は特別だからな」

 鼻をひくひくさせるジョンの頭をリュコスがぽんと撫で、ランを振り返る。
 しかし、頭を撫でられたジョンが足を止め、ウォルフたちも足を止める。ジョンは、空色の瞳をぱちりと瞬かせて、辺りを見回している。

「ジョン、どうした?」

「結界、なくなっちゃってる。これが入り口への目印で、こっちが入り口」

 ジョンが指差したのは、木の根元にウォルフの両手で抱える大きさの石が三つ積み重ねられていて、ジョンが指差した先、その木の裏へ回り生い茂る草をメイスの柄で払えば、獣道が細々と続いているのを見つけた。

「ってことは、俺たちも入れるってことか?」

「うん。さっきの石の目印、皆に見えたでしょ? 本当は僕とお母さんとおじいちゃんにしか見えないはずなんだ」

 見えたな、と確認を取れば四人の仲間は首肯する。とりあえず獣道を少し進んでみようと相成り、足を踏み入れる。本来、泉まで行かなければジョンと手を繋いでいなければ弾かれるらしいが、五人はジョンと手を繋いでいないにも関わらず普通に進めた。やはりジョンの言葉通り、結界が壊れている。嵐か何かで術式が壊れたのか、外部からの干渉で壊されたのかは分からないが何かいるのは間違いないようだ。

「ラン、探索に何か引っかかるか?」

「……人の気配があるよ。魔獣がいるかどうかは分からないけど、もう少し近付くか、精度を上げれば分かると思うけど」

「魔力は温存しとけ。ルー、カマラ、偵察だ。行け、リュコスはランの補助を頼む。俺が先頭、ジョン、ラン、リュコスで進む」

 こくりと頷いたルーとカマラが音もなく駆け出し、草むらに消える。リュコスがランの後ろに下がり、ジョンが背後に下がったのを確認し、駆け足で進む。ジョンを振り返るが、彼は危なげなく着いて来ている。
 ジョンは、あの神父様が溺愛するミアを憎からず思っていて、ジョシュアが「将来はマヒロのところに婿に入る気らしい」と疲れた顔で言っていたが、なるほど将来が楽しみな少年だとウォルフは思う。剣術の才能も魔法の才能も父親譲りの素晴らしい才能があるとも聞いている。今度、手合わせにでも誘ってみようかと少し場違いなことを考えながら足を動かす。
 ふと人の耳には聞こえないがウォルフ達には聞こえる特別な笛の音が聞こえ、顔を上げる。木々の枝から枝へとルーが飛び移りながら並走している。目が合うとルーが降りて来た。

「カマラは残って見張り。……魔物でも魔獣でもない、人。女が一人、子どもが二人なんだけど……どっかで見た顔をしてる」

「子どもが? 女が? 指名手配犯か?」

 ルーは首を横に振った。

「子ども。犯罪者の顔じゃなくて……なんだろ、見たことある。絶対ある」

「……はぁ?」

 その時、キラキラと光るものが見えて足を止め、それぞれ木の影や薮の影に身を潜める。光っていたのは泉の水面だ。穏やかに陽光をはじき返している。腰に抱き着くようにジョンが背伸びをするように覗き込み、ウォルフ達も気配を最大限殺して覗き込む。視界の端でカマラが木の上から降りて来たのを見つけた。
 泉の傍にテントが立てられていて、その近くには明らかに洗濯を干すためか二本の木の棒が立っていてロープか何かが渡されている。その傍に人がいた。黒髪の女性であまり見かけない服を身に着けている。彼女の傍にはジョンより幼いだろう少年が二人いて、こちらも黒髪に見慣れぬ服を着ているがその服をどこかで見た記憶があって首を傾げる。
 親子なのだろうか、その三人はせっせと洗濯を干している。こちらの緊張感などお構いなしに暢気に洗濯を干している。真っ白なシーツが眩しいくらいだ。明らかに盗賊や山賊の類ではなさそうだ。

「顔が見えねぇな」

「うーん、でも悪い人たちじゃなさそうだけど、でも魔獣がなんで逃げ出したかは分かんないわよね」

 傍にやって来たカマラがひそひそと告げた。

「奴隷ってんでもなさそうだしな」

 きゃっきゃっと子どもたちは楽しそうに手伝っていて、女性の細い手が時折、彼女と同じ黒髪を優しく撫でている。クエストの最中に奴隷商に鉢合わせ、捕縛したことがあるが奴隷たちは基本的に手足を縛られ人としての尊厳を無視されているために感情が死んでいる。暢気に洗濯は干さない。
 それとも盗賊の類の頭の妻子なのだろうか。いや、それにしては身形がよすぎるし、こんな森の中で踝まで隠すようなスカートはあり得ない。

「ねえねえ、洗濯物の数からしてあと二人、いるんじゃないかな?」

 ジョンの言葉に洗濯物に顔を向ける。
 女性のものと思われる淡い紫色のワンピース、子どものものと思われる色違いの見慣れぬ服が二着とズボンが二本、その横に明らかに男物と思われる子どもと同じ型の服が一着、ワイシャツが一着、ズボンが二本、干されている。明らかに間違いなく男者だと思われるが、背の高い女が男装して護衛をしている可能性もある。どのみちあと二人いるのだと気付き、辺りを見回し、それと目が合い血の気が引く。
 退路を塞ぐように燕尾服を着た赤茶の髪の獣人族の男が一人、にこやかな笑みを湛えて立っていたのだ。音も気配もなかった。臭いさえも気付かなかったという事実にウォルフは背筋に冷たいものを感じた。
 ウォルフが咄嗟にジョンを庇おうとしたその時だった。

「あぁぁああああ!! あの人、マヒロお兄ちゃんのお嫁さんだぁあああ!!」

 偶然、振り返った女性の顔を見たジョンが指を差して叫んでいた。

「は? へ!? マ、マヒロ神父様のお嫁さん!?」

「ちょっとお待ちください!! 今!! 真尋様と、私の主のお名前を拝聴したような気がするのですが!?」

 ジョンが駆け出し、追いかけようとするがウォルフは燕尾服の男に腕を掴まれ足止めを喰らう。カマラが慌ててジョンを追いかけ出て行き、ランとリュコス、ルーが攻撃するべきか否かオロオロしだした。

「真尋様、真尋様をご存知ですか!? 神が与えたもうそれはそれは素晴らしい美貌と完璧な頭脳を兼ね備えた国の宝と言っても過言ではない、ティーンクトゥス教神父、水無月真尋様をご存知なのですか!? お元気ですか!?」

「ちょっ、まっ、近い! 落ち着け!!」

 ぐいぐい来る男の顔を押し返しながらウォルフは叫ぶ。

「私、水無月家の執事の園田と申します!! 真尋様はどこに!?」

「みっちゃん、ほら落ち着いて。狼さんたち困ってるじゃん。Stayだよ、Stay」

 眩い金髪の青年がどこからともなく現れて、ソノダというらしい燕尾服の男をウォルフから引っぺがした。どこかで見たことあるような面影のある男は二十歳かそこらだろうか。随分と背が高く、見覚えのあり過ぎる黒い神父服を着て、腰にマヒロやイチロのものと同じロザリオをぶら下げていた。

「Hi、俺は海斗。一路のお兄ちゃんだよ」

「イ、イチロのお兄ちゃん!?」

「本当だ! イチロとよく似た魔力の匂いする! え、でもイチロと違ってデカくねぇか……え?」

 リュコスが叫び、次いで困惑する。ウォルフもくんと鼻を動かせば、確かに大好きな敬愛するイチロの魔力によく似た穏やかな良い匂いがする。

「ウォルフくん、みてみて、マヒロお兄ちゃんがちっちゃくなっちゃったみたい!!」

 ジョンの声に振り返り、ウォルフたちは絶句する。
 ジョンに手を引かれてやってきた二人の少年は、ウォルフたちの良く知る美貌の神父様に本当によく似た顔をしていた。まるでマヒロの幼少期を見ているよな見た目だ。

「ど、どういうこと、だ?」

 呆然と呟いたウォルフの腕をカイトががしりと掴んで歩き出す。

「積もる話が山とあるから、テントで話をしようよ。みっちゃん、悪いけどお茶頼める?」

「かしこまりました」

 どんどん歩き出したカイトにウォルフは「あ、イチロの親族だ」と妙な感心をしながらその背に着いて行ったのだった。







 案内されたテントの中は、テントの中とは思えないほど快適な空間が広がっていた。部屋数はあまりなくてごめんね、と通されたのは居心地の良さそうな居間でウォルフとカマラ、ランがソファに座りジョンはウォルフの膝の上、リュコスとルーは、カイトがさっと魔法で作ってくれた蔦の椅子に腰を下ろす。
 そして目の前には、清純な色香を纏った美女が座り、彼女の両隣にはマヒロの弟だという双子が座り、カイトは一人掛けのソファ、ソノダはお茶を仕度すると彼女の背後に控えた。燕尾服は執事の印だったようだ。
 双子はマヒロにそっくりだった。右側の子の瞳の色は銀に黄緑が混じり、左側の子は銀に水色が混じっている。瞳の色が違う以外は、マヒロによく似ていてマヒロの子ども時代はこうだったと言われたら納得できてしまう。お人形のように愛らしく可愛い子どもたちだ。

「緑茶……グリーンティーというんです。お茶しかお出しできなくてすみません」

 鮮やかな深緑色のお茶がティーカップの中で揺れている。おそるおそる口を着けると爽やかな風味と苦みを感じた。紅茶よりはさっぱりしているが苦みが強い。でもウォルフは好きな味だった。甘いお菓子に合いそうだ。

「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。私は、真尋の妻で雪乃と申します。こちらは弟の真智と真咲。後ろに控えていて下さるのは、私たち夫婦に仕えてくれている執事の充さん、こちらは一路のお兄さんで海斗くんです」

 双子は「こんにちは」と挨拶をし、執事は丁寧な礼を、カイトは優雅にお茶を飲みながらひらひらと手を振って笑みを浮かべた。イチロとマヒロに感じる貴族みたいな雰囲気を彼らからも感じる。

「皆さんは、夫をご存知なのですか?」

 ユキノが躊躇いながら口にする。不安そうに揺れる大きな瞳は、銀に紫の混じる夜空に浮かぶ小さな月を連想させる色合いだった。そういえば、真尋は銀に蒼の混じる月夜色の瞳をしている。
 けぶるように長い睫毛に縁どられた大きな瞳は垂れ目がちで、左の目元には色っぽい黒子がある。白い肌にすっと通った形の良い花と淡いピンク色のふっくらとした唇が品よく美しく収まっていて、艶やかな長い黒髪が彼女の色の白さを際立たせている。黒い髪の頭上には、白い兎の耳が生えていて彼女が獣人族だということが分かる。薄紫のワンピースは腰の革ひもで長さを調整するものでなんとなく凄く細いがスタイルがとんでもなく良いというのが分かる。あのマヒロの妻というだけはあって、あの美貌に劣らない美しさを湛えていて、ウォルフの乏しい語彙力では表現しきれない人だった。儚げで穏やかで、けれどどこか凛とした雰囲気のある不思議な美女だ。
 そういえば、彼女とマヒロの弟たちが着ている服は、イチロが休日に好んで着ている服と同じだと気が付いた。きっとこれが彼らの故郷の服なのかもしれない。

「うん、知ってるよ。僕はお兄ちゃんと一緒に住んでるの」

「真尋さんと?」

 ジョンの言葉にユキノが目を瞬かせる。

「僕のお父さんとお母さんと弟のリースも一緒だよ。あ、春になったら妹が生まれるの! まだお母さんのお腹の中だけど、妹も一緒!」

「まあ、そうなの? それは素敵なことだわ」

 ふわりと笑うと綺麗すぎて心臓がドキドキする。はっとカマラを見ればカマラまで顔を赤くして気まずそうな顔でウォルフを見ていて、思わずお互いに苦笑を零す。神父様の嫁、凄いなというのが二人の感想だ。

「真尋さんは、元気にしているかしら?」

「うん。今は出かけてていないけど、すごく元気だよ! あ、イチロくんも元気だよ!」

 ジョンの言葉に彼らの表情がほっと緩む。そこには嘘も偽りもなくて、ただただ本当に心配していたのだろうなという情を感じ取ることが出来る。愛する故の純粋な心配だ。
 だが、生憎とウォルフたちはユキノの姿絵を見せてもらったことがない。ジョンは見せてもらったことがあるからこそ、ユキノがマヒロの妻だと判断した訳だが、ウォルフたちにはそれが出来ない。マヒロが「男には見せない主義だ」と一貫して見せてくれず、そもそもイチロに懐いているウォルフたちはマヒロの妻についてそこまで興味がなかったのもある。こんなことならカマラとランだけでも見せて貰っておけばよかった。
 確かにイチロの兄だというカイトからはイチロの魔力とよく似た匂いがしてそれは親族特有のものだが、高度な技術を持つ彼らであるからもしかしたら何者かが化けているという可能性だって捨てきれないのも事実だ。マヒロの双子の弟たちもマヒロを小さくしましたと言わんばかりによく似ているが、油断はできない。最も胡散臭いのは、彼らの背後に控える獣人族の執事であるソノダだかミツルだかいう男だ。
 アーテル王国では、貴族以外はどれほどの大富豪であっても英雄であっても家名は持たない。
 だが、最初にウォルフ達に名乗った時、彼は「ミナヅキ家の執事のソノダと申します」と告げた。更にその前には「ミナヅキマヒロ」とも言っていた。
 ウォルフが記憶している限り、マヒロがそのミナヅキという家名を名乗ったことは一度もないはずだ。とはいえ、マヒロのステータスもイチロのステータスも隠蔽が掛けられていて、本人が許可しない限り正式なものは見られないと前にジョシュアが零していたので、家名は隠されていた可能性もある。そもそも家も故郷も家族さえも捨てて来たのだと寂し気に告げる彼らがそれを名乗らなかったとしても致し方ないかもしれないが、ではどうして一介の執事である男が、ソノダとミツル、二つの名前を持っているのだろう。ソノダが名前なのか、ミツルが名前なのか、耳慣れない響きを持つ彼らの名前は今一つ判別しがたいが、ユキノがミツルと呼ぶから、そちらが名前なのだろうか。
 ちらりと視線を向けた先、微かに笑っているのだろうと思われる表情を浮かべてそこに立っている執事は、一分の隙もない。そもそもウォルフたちの目を欺いて、あそこにいきなり立っていたこと自体が思い出すだけで冷汗ものだ。ウォルフはジョシュアやレイに次ぐ実力を持ちブランレトゥで冒険者として名を馳せているのだ。あの時だって最大限、警戒していたのにあの執事には全く気付けなかった。暗殺でも生業にしているのか、と叫びたいくらいに気配も音もなかったのだ。
 ウォルフは、一度、息を深く吸ってゆっくり吐きだし、呼吸を整えてユキノを見据える。

「……でも、その……イチロに聞いたんスけど、イチロとマヒロ神父様は、故郷で死んだことになってるって。妻も弟も家族も誰もイチロたちが生きていることは知らないって、全部、全部、何もかもおいて来てしまったって……言ってたんすけど……どうして……ここに?」

 悲しそうに細められた眼差しにだんだんと言葉がしりすぼみになっていく。
 ユキノの視線が落とされて、その先を追えば膝の上にあった左手の薬指を撫でていた。そこには見覚えのある銀色の指輪が光っている。マヒロの左手にあるものと同じものだった。

「……突然、でした。本当に突然、夫とイチロくんはいなくなってしまって……あの日の朝、いってらっしゃいと送り出したんです。でも、帰って来てはくれなかった。ただいまの声を聞かせてくれなかったんです」

 細い手が俯いた双子をそっと抱き寄せる。

「でも、悲しみにくれていた私たちを見かねてティーン様……いえ、ティーンクトゥス教会の司祭様が私たちだけに本当のことを教えて下さったんです。アーテル王国とティーンクトゥス様を救うための旅に出たのだと……遠い遠い地で本当は生きているのだということを教えてくださいました。追いかけますかと問われて、皆で話し合って追いかけることに決めました」

「でも、お姉ちゃん、体が弱いから無理していないか心配だってお兄ちゃんいつも心配してたよ? 大丈夫?」

 ジョンが心配そうに問いかけるとユキノが顔を上げ、泣きそうな顔で小さく笑った。

「ええ。司祭様が特別なお薬を下さって、前よりは丈夫になったの。そうでなければ、追いかけてくることは無理だったと思います。司祭様に真尋さんが一路くんと共にブランレトゥという町にいると教えて下さって、けれど道に迷ってしまって私の体調を心配した皆が少しここで休もうと言ってくれたのでしばらくここに」

「毎日、辺りを探っていて近くに村を見つけてね。観察していた限り平和そうな村で人の出入りも割とあるようだったから、明日辺りそこに行ってみようと思っていたんだけど、まさか先に人が来るとは思わなかったよ」

 カイトが肩を竦めて言った。

「そこは多分、カロル村と言ってジョンの生まれ故郷なんスよ。実は……俺たちは狼のしっぽっていうパーティーを組んでるブランレトゥ支部の冒険者で泉の調査に来たんス。カロル村周辺に異常に魔獣や魔物が発生するようになって、この森やカロル村の守護精霊様が棲むといわれるこの泉に異変があったのではということで調査に来たんス。何か異様に強い魔獣とか見かけませんでしたか?」

「あたしたち冒険者ギルドの見解ではこの泉か森に異常に強い魔獣が急に現れて、弱い魔物や魔獣が棲み処を捨てて逃げてきたと判断したんです。それで魔獣を探すつもりで来たんですけど、心当たりは?」

「……あー、あるっちゃあるなぁ。ただ、うん、無害だよ、無害」

 カイトが青に緑の混じる瞳を泳がせて言った。
 双子がユキノに何か言うと、ユキノが「タマちゃんのことかしら?」と呟いた。

「タマちゃん?」

 ウォルフはその愛玩魔物の愛称みたいな可愛い名前に首を傾げる。

「ええ、ここへ来た次の日、今から二週間ほど前かしら。空から降って来た卵を拾ったんです」

「え? 空から?」

「そう、空からですよ。どーんって、びっくりしちゃったわぁ。すぐそこの森の中なんですけど地面が抉れていましたもの」

 うふふとユキノは笑っているが、ウォルフの本能が警笛を鳴らし始めている。
 空から落ちてきて無事な卵なんて聞いたことはないが、もしも一つだけ可能性があるとすれば、とあるSランクの魔獣の卵ならばそれだけの頑丈さも納得がいくが、そんなものがこんなところに落ちているわけがない。

「生憎と主食しか持っていなくて、野草や果物しか調達できなかったものですから、双子ちゃんにたんぱく質を食べて欲しくて茹で卵にしようと思って拾ったんです」

「ゆ、ゆで卵」

「はい。マヒロさんが生卵は危ないって言っていたから、加熱殺菌も兼ねて魔法で茹でたんですけど」

「茹でた」

「ええ。そうしたらあれこれしていたらうっかり忘れちゃったんです。それでお昼寝から起きたちぃちゃんと咲ちゃんと一緒に見に行ったんですよ」

 これくらいの大きさで、とユキノが身振り手振りで教えてくれる。多分、彼女の腕に抱える程、大きな卵というのは伝わって来た。

「可哀想に巣から盗まれちゃったんでしょうね。冷たくなっていたから死んじゃったと思っていたのだけれど、茹でたら何だか生き返ったみたいでパキパキって卵が割れて生まれたんです、命って凄いですね!」

「生マレタ」

「ええ。今、お昼寝しているのだけれど……タマちゃーん、タマちゃん、起きてらっしゃい……あら、だめね。充さん、見て来て下さる?」

「畏まりました」

 一礼した執事が居間を出て行き、階段を上がる音がした。そしてしばらくすると戻って来る足音が聞こえてくる。
 正直な話、ウォルフは逃げ出したかった。いや、カマラもランもルーもリュコスも皆、逃げたかったと思う。この時、ウォルフは「マヒロ神父様の嫁」という事実をじわじわと感じていた。
 ガチャリとドアが開いてしまう。カマラとランが両側から抱き着いて来る。
 真っ白なそれがばさりと白い羽に覆われた翼を広げて雪乃の膝の上に降り立った。ジョンが「うわぁ、すごい」と感動に拳を握っているが、ウォルフ達は失神しそうだった。ジョンはやはり将来、デカイ男になる。
 真っ白なそれは、真珠色の鱗に覆われていて三角形の頭、銀色の角、短い前足には鋭い鉤爪が生えていて、太い後ろ足も同様に鋭い鉤爪が生えている。たてがみのように白銀の毛が首から背中、尻尾の先まで覆っていて、美しいアメジストのような目は蛇のような縦長の瞳孔を持っていて、口からは小さな牙が見えている。
 それはそう、間違いなく――ドラゴンだった。

「タマちゃんですよ」

「ドラゴンだ! すごーい! 僕初めて見た!!」

 ジョンが手放しで拍手を送る。
 可能であれば、今すぐブランレトゥに帰りたいとウォルフたちは、心の底から願いながら強く確信した。

「タマちゃん、可愛いでしょう? 良い子なんですよ」

 のんびり笑って犬猫でも撫でるかのようにドラゴンの頭を撫でるユキノは間違いなく「ああ、俺のペットだ。顔は怖いが良い子だぞ」とキラーベアの頭を撫でるマヒロと似たもの夫婦だった。







「……どう、報告する?」

「聞くな、考えてる最中だっつの」

 カマラの問いにウォルフは遠くを見つめながら答える。リュコスたちには馬を途中まで連れて来てほしいと頼んだので一度、カロル村へと戻った。今は彼らを待っている最中だ。これからユキノたちと共にカロル村へと行く、
 丸太に並んで腰掛けたウォルフとカマラの視線の先では、ユキノが洗濯物を魔法で乾かし、マチとマサキ、ジョンがせっせと畳むのを手伝っている。執事のミツルとカイトはテントを畳んだり、周辺の後片付けをしたりしている。純白の小さなドラゴンはユキノの周りを飛び回っていてご機嫌な様子だ。
 あのドラゴンは、ドラゴン大好き冒険者、リュコス曰く「ここ五百年生存が確認されていない、希少種中の希少種、ブラー種のニーファフト・ドラゴンだと思う」とのことだ。
 ドラゴンという魔獣は間違いなく存在するし、ウォルフも下位種であれば何度か討伐したこともある。だが、上位種となると話は別だ。そもそも下位種と上位種では全く別の存在だと言っていいほどだ。下位種はまだ大きな爬虫類で済むが、上位種になればなるほど強大な力を持ち、その姿も大きくなる。それに人と同じような知能を持つとまで言われている種もいくつかいて、そういったドラゴンは各地で守護獣として祀られていたり、伝説が残っていたりする。
 ブラー種というのは、草食系のドラゴンの一種だ。草を食べるのではなく、植物から生気を分けてもらい生きている、それこそ神や精霊に近いと言われる幻の種だ。
 生憎とウォルフはそんなものに会ったことがないので、リュコスの言葉全てを信じることはできないが、かといってあれが到底下位種には見えなかった。

「とりあえず村に戻ったら、アンナとジョシュアさんに連絡を入れて、指示待ちだな。俺たちだけの判断じゃブランレトゥには連れて帰れないだろう?」

「そりゃあ……肝心の神父様がいないし、あの人たちが万が一偽物でミアとサヴィに何かあったら領主交代の憂き目にあいそう」

「だろ? かといって、本物だった場合、下手な扱いをしたら神父様に何をされるか……」

 そうなのだ。彼女たちの扱いは非情に難しい。上にも置けないし、かといって、下にも置けないといったところだろうか。
 神父様は辺境伯にとって要人だ。彼の機嫌を損ねることだけは誰もしたくはないだろう。ユキノがただの友人であれば、偽物か本物か判断がつかない場合、マヒロの帰還を待って判断して貰えばいい。その間、このカロル村にでもいて貰えばいいだろう。だが、ユキノはマヒロの妻である。マヒロが愛妻家だというのは屋敷に妻の姿がなくとも町の皆が公然の事実として知っている事実だった。
 マヒロは愛情深い人で養子として引き取ったミアとサヴィラをこれでもかというほど溺愛していて、その愛情の根源は妻であると言ってはばからない。マヒロの親友で幼馴染でもあるイチロは「雪ちゃんは凄いよ。あの真尋くんが唯一頭が一切上がらない相手だからね。もう本当、鬱陶しいくらいイチャイチャしててさぁ、え? いつから? そんなの雪ちゃんが産まれた時からだよ。あの二人にとってお互いは空気なの、いるのが当たり前でいなくなったら生きて行けない、そういう夫婦なんだよね。何度、砂糖と砂を吐いたか分かんないよ。雪ちゃんを害されるのがあの人は、此の世で一番、不愉快なんだよねぇ」と言っていた。
 マヒロは愛情深く優しい人だが同時に冷たい人でもある。自分の懐に入れた人間は最期のその時まで目一杯の愛情を注ぎ、信頼を寄せ、彼の出来る限りで守ろうとする人だが、それ以外には酷く冷たい人だ。いや、冷たいとか以前の問題だ。興味がないのだ。首が落ちて転がろうが、ズボンに縋られ命乞いされようが、絶望に泣きわめかれようが眉一つ動かさない。
 それゆえか彼の大事な者を傷付けた馬鹿には容赦がない。ミアから弟を奪う根源となったどこぞの貴族の馬鹿も町で孤児を罵倒した馬鹿な騎士もその身に余るほどの制裁を受けたと耳にしている。前者は機密事項なので今、生きているのか死んでいるのかウォルフたちは知らないが、後者は、愚かにもミアとサヴィラに手を出して、マヒロにとんでもない魔力をぶつけられて精神を壊されたらしいともっぱらの噂だ。とはいえ、折角神父様のお蔭で溝の深かった貧民街と騎士団、そして町全体が良好な関係を築こうとしていた矢先の出来事だ。それ相応の罰が下るのは致し方ないことだともウォルフは思う。
 だが、その罰を身を持って受けたいかと言えば答えは否である。絶対に嫌だ。ウォルフは最愛の番であるカマラと結婚して、子どもは五人くらい欲しいし、孫、はたまたひ孫の顔もしっかり見たいのだ。

「……もういいや、全部、アンナとかジョシュアさんとか団長さんとか偉い人に丸投げしよ」

「それが正解ね。あたし達は、しがない冒険者だもの」

「だよな」

 後ろに手を着いて足を延ばす。
 ジョンは相変わらず人懐こいようで、真尋の弟たちともう仲良くなったようだ。広げたシーツを三人で楽しそうに畳んでいる。

「カマラは、どう思う? 本物だと思うか?」

「あたし? ……そうねぇ」

 カマラは足を組み、腿の上で頬杖をつきながらはしゃぐ子どもらを見ている。

「偽物か本物かはともかく、ドラゴンって凄く賢くて高潔な魔獣でしょ? その子が、ああして信頼を寄せるんだもの、悪人ではないんじゃない?」

「まあな……ってかそもそもドラゴンなんて下位種しか見たことねーもんな。リュコスのが言うはニーファフト・ドラゴンとか言うらしいけど、実際のところは分かんねえしな」

「竜人族なら分かるんでしょうけど、わざわざ聞きに行っても、泥棒だことの誘拐犯だことのあれこれ言われるに違いないしね。あの人たち、自分勝手で傲慢であたし、嫌いなのよね」

「俺も嫌いだよ。あいつらには礼儀ってものがねえ。ま、とりあえず村に戻って報告書飛ばして、多分、原因は間違いなくタマだけど一応、調査して……ああ、ランには一応、結界も見て貰わねえとな」

「そうね。っていうか、泉には守護精霊様がいるんでしょ? あの人たち、なんともないってことは怒ってはないのかしら」

「多分。俺、そういうのは専門外だからな」

「ジョンくんに聞いてみましょうか……ジョンくーん!」

 カマラが声を上げ、おいでおいでと手招きするとジョンが双子に何か告げてこちらに駆け寄って来る。

「なぁに?」

「ここはお前の村の守護精霊様がいるんだろ? あの人たちが勝手に暮らしてて、怒ったりとかしてねぇのかなって」

「うーん。僕は感じる程度だけど、怒ってないよ。寧ろ、何でか喜んでいるみたい」

「何で?」

「それは分かんない。でもさっきリュコスさんたちにチーズとワインをお願いしたから、お供えしてお礼を言えば大丈夫だよ。僕らの村の守護精霊様は優しい方だから」

「まあ、ジョンがそう言うならそれを信じるぜ。お前たちの村の守護精霊様だからな」

 ぽんぽんと頭を撫でれば、ジョンは「えへへー」と照れたように笑った。可愛い、カマラとの間にもこういう可愛い息子が欲しい。

「ところでね、ウォルフくん」

「ん?」

「お兄ちゃんのお嫁さんは、マヒロお兄ちゃんが養子を引き取ったって知らないけど、大丈夫かな?」

 ジョンの言葉にウォルフとカマラは思わず顔を見合わせた。
 そうだった、それもあった、と今更ながらにミアとサヴィラの存在について考える。
 生き別れた夫が孤児を、それも貧民街の孤児を引き取っていると知った場合、会いに来た妻はどう捉えるのだろう。
 優しそうな人だとは思うが、ウォルフたちは彼女の人間性については会ったばかりで全く知らない。下手にミアとサヴィラに合わせて、あの子たちが傷つくことだけは避けたかった。

「……どうすりゃいいんだ?」

「これって凄く繊細な問題よね」

「でもね、ミアちゃんは、ママが早くパパに会いに来れたらいいのにってすごく楽しみにしてたんだよ」

「そうはいってもなぁ……俺たちの一存であれこれ喋る訳には……こういうのはさ、多分、当人同士、要はマヒロ神父様が直接奥さんに話すのが一番いいんだよ」

「でも、お兄ちゃん、まだまだ当分帰って来ないよ?」

「そこなんだよなぁ。弱ったな……まあ、これもジョシュアさん辺りに丸投げすっか」

 ウォルフは悩むのを止めた。
 イチロの事情には詳しいが、マヒロの事情をウォルフたちは詳しく知らないのだ。それならば事情をよく知るジョシュアや、いっそ養子縁組に関して手配した商業ギルドのギルドマスターでマヒロの友人でもあるクロードあたりに丸投げした方がいいに決まっているのだ。

「お父さんに?」

「ジョンのお父さんはマヒロ神父様と仲良しだろ? だから俺たちより事情に詳しいから適任なんだ。だからジョンもユキノさんたちにミアとサヴィラの話をするのはもうちょっと待っててな」

「ミアちゃん、ママに会えるの楽しみにしてるのにだめなの?」

 空色の眼差しはどこまでも真っ直ぐだ。

「そもそもあの人が本当にマヒロ神父様の奥さんかどうか調べないとならないんだ。神父様は良くも悪くも有名な人で、そしてとっても強いだろう? その力を悪用しようとする悪い奴が寄越した人かもしれない。それでもしミアやサヴィラに不用意に会わせて、傷付けられたら嫌だろう?」

「悪い人じゃないよ。だってマヒロお兄ちゃんのお嫁さんだもん」

 しょんぼりと落ちる肩と眉にウォルフは何とも言えない気持ちになって白い頬を両手で包み込む。カマラがシャツの裾を握りしめるジョンの手を取って小さな顔を覗き込む。

「それはあたしたちだって分かるわ。でもね、もしあのインサニアを操っていた悪い奴らみたいに、身の内に潜り込もうとする怖い存在だったら困るでしょう? 一番傷つくのは、きっとマヒロ神父様よ。偽物でも本物でも、彼の大事な奥さんが彼の大事な子どもたちや君や友人を傷付けたら、神父様が一番、哀しむわ」

 うん、と小さな声でジョンが頷いた。

「ジョンくーん、来て来て!」

「ジョン、早くー!」

 賑やかな声がジョンを呼ぶ。

「……マチくんとマサキくんとはお友達になってもいい?」

 不安そうに問う声にウォルフとカマラは顔を見合せ苦笑を零す。

「いいよ。リュコスたちが戻ってくるまで、泉を案内してあげるといいんじゃないか?」

 ウォルフの言葉にジョンはぱぁっと顔を輝かせて振り返る。

「今行くー! じゃあ、行ってくるね!」

「おう、気を付けて遊べよ。ただし俺たちの姿が見える範囲から出るな、約束だぞ」

「うん、分かった!」

 元気よく頷いたジョンが嬉しそうに双子の下へ駆けていく。三人は泉の縁にしゃがみこんで何かを見ているようだ。マチかマサキか分からないが、片方の肩にドラゴンのタマが乗っている。ユキノがいつの間にか用意された椅子に腰かけ、執事の差し掛ける日傘の下、それを見守っている。イチロの兄のカイトは子どもたちの下へ行き、一緒になってしゃがんだ。泉に魚か何かいるのかもしれない。

「……確かマヒロ神父様もイチロも両親は健在だって言ってたけど、何であの双子までついて来たんだろうな? 普通、兄貴より親を選ぶんじゃねえのか?」

「さあね。家庭の事情は人それぞれだもの」

「それもそうか……あーあ、イチロ早く帰って来ねえかなぁ、そうすりゃ一発で解決すんのになぁ」

 ウォルフの嘆きに「無茶言わないの」とくすくす笑いながらカマラがこてんと寄り掛かって来る。その頭に頬を寄せて、ウォルフは彼らを視線で追いながら、どうか何事もなく済みますように、と願わずにはいられないのだった。





――――――――――――
ここまで読んで下さって、ありがとうございました!
いつも閲覧、感想、お気に入り登録励みになっております!!

遂にユキノさんたちがウォルフたちと接触しました!
そして、あの卵から産まれたのはドラゴンちゃんです。命名は、雪ちゃんです。
真尋さんは全部にポチとつけますが雪ちゃんは全部にタマと名付けます。猫だろうがカマキリだろうがドラゴンだろうがタマです。

次のお話も楽しんで頂ければ幸いです♪
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