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本編

貴女は誰ですか?

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「貴女、マチルダの娘でしょう?会いたかったわ!」

 マチルダは私の母の名前。その名前を知っているって事は、祖母で間違いないけど、事前に見せられていた絵姿より年齢が上に見える。この人が私の祖母かぁ。やっぱり実感湧かない。

「貴女……その瞳」

 私の母は、髪はオレンジだけど瞳は黒だった。祖母は逆に髪は黒いけど、瞳はオレンジだ。私の瞳がオレンジだと気付いて、驚いた様な表情に変わった。

「どちら様でしょうか?」

 わざと瞳の事は触れずに首を傾げて尋ねると、一歩前にいたランバートさんが横に並ぶ。今日の彼はライトグレーのタキシードで普段より格好いい。彼は見せつける様に私の手を取り、指先に唇を寄せた。ちょっと待って!打合せにない事すると恥ずかしくて間違えるから!それに後ろのお義父様から殺気が怖いですよ!!!!

「ご婦人。彼女は自分の婚約者ですが何方かと誤解されているのでは?」

「婚約者……私の孫が勇者様の婚約者?」

 祖母が私を孫だと言った瞬間、会場の人々の視線が私達に集まる。本当に孫なら王族と勇者様の親戚になるから注目された。

「可笑しいな……リナは天涯孤独のはずだが?」

 お義父様が私の前に出て祖母に尋ねる。威嚇する様に祖母を睨むお義父様の視線に気付いて、彼女は一歩後ろに下がった。微かに震える手を握り締めた彼女は、私に縋る様な視線を向けた。

「母親から何か聞いているでしょう?貴女は貴族の娘で私の孫よ」

「存じ上げません。私の両親から祖父母の事は一度も聞いておりません」

 私が首を横に振って改めて否定すると、祖母の後ろから来た男性が彼女の腕を掴んだ。

「何をしているんだ!」

「あなた……だって私の孫が……」

「こんな場所で言う事では無いだろう」

 祖母が話している途中で、男性は言葉を重ねる様に正論で遮った。まぁ、当然かな。もし間違ってたら大恥じかくもんね。

「でも、この色は珍しい色よ。間違いないわ」

 そう言って私の髪を指す祖母の手を掴んで、手を無理矢理下げる。えっと、貴族のマナーとかの前に、人の事を指でさしちゃいけませんよ。

「それでも、今、言う事ではない。カイン様、並びにご息女のイリーナ様、妻が大変失礼致しました」

 しつこく食い下がる祖母を視線で黙らせた男性は、私とお義父様に謝罪の言葉を述べて頭を下げた。

「謝罪は受け取った。しかし、奥方はお疲れの様だ。別室で少し休まれるといい」

 お義父様が代表で謝罪を受け入れ別室に行くように促す。男性もこれ以上の騒ぎは不味いと思っているのか、素直に従って祖母を連れだそうしていたけど彼女は違った。

「待って!意地を張らないで。母親から私の事を聞いてるでしょう?」

 私が黙って首を横に振ると、祖母は今度こそ黙って男性と一緒に会場を出ていった。
 会場の扉が閉まり二人の姿が完全に見えなくなると人々の会話が再開する。私とランバートさんは、何事も無かったかの様に席に戻って、王族の方々と一緒に挨拶に来た人達と話を始めた。


 別室にはオーウェンさんが待っているので後はお願いします。



 
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