上 下
8 / 107
本編

勇者様は苦労人でした

しおりを挟む
 面倒臭い同級生との再会で迷惑掛けたくなくて、私は勇者様の腕を掴んで引っ張った。

「行きましょう。無視で大丈夫です」

「蝋燭女って、イリーナの事か?」

 目を丸くして私とマークを交互にみる。勇者様が私に確認するから頷いた。
 私の髪と目はオレンジ色。髪が炎みたいだから彼は、私は蝋燭みたいだと言った。それ以来、彼は私を蝋燭女と呼んでいる。まぁ、マーク以外は呼ばないから気にしてないけどね。

「私の髪が炎みたいなんだそうですよ」

 私が自分の髪を一束掴みながらそう言えば、勇者様がその髪に触れた。

「あぁ、炎みたいに温かくて綺麗な髪だ」

 優しい笑顔でそんな事言われたのは初めてで、嬉しさと恥ずかしさで頬が熱くなる。

「ば、バカじゃねぇの!何が綺麗だよ!ブス!」

 また始まった。マークの友人達も呆れた顔で止めるけど、彼は更に人を貶して止まらない。小さな子どもみたいな行動に、大きなため息を吐いた。相手にしてたら怒鳴る。無視しても咎める。どうしたら良いのかなぁ?師匠に相談したら……駄目だ。悪い結果しか浮かばない。

「師匠は、この事知っているのか?」

 勇者様が心配そうに眉を下げて私の顔を見てくる。他人がみてもマークの言葉は酷いよね。でも……

「師匠に言ったら、魔法で吹き飛ばしそうですし」

「あー……うん、言わなくて正解かもな」

 勇者様、即答で肯定したよ。師匠は強いけど話し合いで解決が出来ない人なんだよね。勇者様と二人で苦笑いしていると、無視されて怒ったのかマークが更に騒ぎだした。

「「うるさい」」

 勇者様と言葉が重なって、二人で顔を見合わせて笑う。勇者様が楽しそうに笑うと、荷物を私に渡した。

「ちょっと、待っててくれ」

 え?ちょっと、重い!!待って、こんなに重い物を一人で軽々と持ってたの!?荷物の重さに私が驚いているうちに、勇者様がマークの耳元で何か言った後、首の後ろに手を添えただけでマークの身体が崩れ落ちた。

「寝てるだけだよ。悪いがコイツ連れて帰ってくれ」

 グッタリと力の抜けている大人を片手で持ち上げた勇者様が、友人達に彼を渡した。彼等はふらつきながらマークを支えると、勇者様に謝りながら町の中に消えた。彼等が見えなくなると、勇者様は一人で頷いて私のところに戻って来る。

「何かしたんですか?」

「あれか……帰ってから説明するよ」

 少し困った様な顔をしていたので、それ以上聞けなくなった私が、黙って頷くと、荷物を一人で持って先に歩き出した。慌てて後を追いかける。帰り着いて直ぐに片付けると、勇者様にテーブルに座るように言われた。向かいに座ると、勇者様は視線を下に向けたままで話し始めた。

「さっきの事だけど……」

 そう言って教えてくれたのは、触るだけで相手にダメージを与える事だった。溢れる魔力って、どれくらいあるんだろう?魔力切れなんてしないのかな?それに……

「魔力でダメージって聞いた事ないです」

「そうだね。珍しいらしいよ。だから、小さい頃は物を壊したり相手を怪我させたり大変だったよ」

 勇者様が今、普通に暮らせるのは師匠の修行のお陰なんだって。珍しいから誰も対処法が分からなかったらしい。確かに師匠は天才なんだよね。

「師匠、魔法に関して天才ですもんね」

「イリーナ、それは……言っちゃ駄目なヤツだよ」

「え?私、普通に本人に言いますよ」

 マジか~って言いながら勇者様が笑う。私も笑いながら勇者様の知らない師匠の失敗談を話した。師匠が昔、言った事がある。強いヤツほど苦労してるって。

きっと、勇者様の事なんですね。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

瞬殺された婚約破棄のその後の物語

ハチ助
恋愛
★アルファポリス様主催の『第17回恋愛小説大賞』にて奨励賞を頂きました!★ 【あらすじ】第三王子フィオルドの婚約者である伯爵令嬢のローゼリアは、留学中に功績を上げ5年ぶりに帰国した第二王子の祝賀パーティーで婚約破棄を告げられ始めた。近い将来、その未来がやって来るとある程度覚悟していたローゼリアは、それを受け入れようとしたのだが……そのフィオルドの婚約破棄は最後まで達成される事はなかった。 ※ざまぁは微量。一瞬(二話目)で終了な上に制裁激甘なのでスッキリ爽快感は期待しないでください。 尚、本作品はざまぁ描写よりも恋愛展開重視で作者は書いたつもりです。 全28話で完結済。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

【完結】フェリシアの誤算

伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。 正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。

余命2か月なので、好きに生きさせていただきます

青の雀
恋愛
公爵令嬢ジャクリーヌは、幼い時に母を亡くし、父の再婚相手とその連れ子の娘から、さんざんイジメられていた。婚約者だった第1王子様との仲も引き裂かれ、連れ子の娘が後釜に落ち着いたのだ。 ここの所、体調が悪く、学園の入学に際し、健康診断を受けに行くと、母と同じ病気だと言われ、しかも余命2か月! 驚いてショックのあまり、その場にぶっ倒れてしまったのだが、どういうわけか前世の記憶を取り戻してしまったのだ。 前世、社畜OLだった美咲は、会社の健康診断に引っかかり、そのまま緊急入院させられることになったのだが、その時に下された診断が余命2日というもの。 どうやって死んだのかわからないが、おそらく2日間も持たなかったのだろう。 あの時の無念を思い、今世こそは、好き放題、やりたい放題して2か月という命を全うしてやる!と心に決める。 前世は、余命2日と言われ、絶望してしまったが、何もやりたいこともできずに、その余裕すら与えられないまま死ぬ羽目になり、未練が残ったまま死んだから、また転生して、今度は2か月も余命があるのなら、今までできなかったことを思い切りしてから、この世を去れば、2度と弱いカラダとして生まれ変わることがないと思う。 アナザーライト公爵家は、元来、魔力量、マナ量ともに多い家柄で、開国以来、王家に仕え、公爵の地位まで上り詰めてきた家柄なのだ。でもジャクリーヌの母とは、一人娘しか生まれず、どうしても男の子が欲しかった父は、再婚してしまうが、再婚相手には、すでに男女の双子を持つ年上のナタリー夫人が選ばれた。 ジャクリーヌが12歳の時であった。ナタリー夫人の連れ子マイケルに魔法の手ほどきをするが、これがまったくの役立たずで、基礎魔法の素養もない。 こうなれば、ジャクリーヌに婿を取り、アナザーライト家を存続させなければ、ご先祖様に顔向けができない。 ジャクリーヌが学園に入った年、どういうわけか父アナザーライト公爵が急死してしまう。家督を継ぐには、直系の人間でなければ、継げない。兄のマイケルは、ジャクリーヌと結婚しようと画策するが、いままで、召使のごとくこき使われていたジャクリーヌがOKするはずもない。 余命2か月と知ってから、ジャクリーヌが家督を継ぎ、継母とその連れ子を追い出すことから始める。 好き勝手にふるまっているうちに、運命が変わっていく Rは保険です

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

処理中です...