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しおりを挟む「……今更、な……ぜ……」
そう一年も経った。もう諦めたと考えていたのに……
そう思っていた私に殿下は困った様に眉を少し下げて笑った。
「何年経とうと君への気持ちは変わらない」
「……私より頭のいい人は沢山いるわ。綺麗な人だって、もっと高位の人だって沢山います」
「そんなの関係ない。君が良い」
私の言葉を否定して追い詰める様な殿下にイライラする。怒りに任せて手を振り払うと殿下は、私の隣に座り話を始めた。
「私は一人で不貞腐れていたんだ。家族からは愛されたが、貴族から見たら厄介な存在だったからね」
幼い頃から優秀だった殿下だが、陛下とは十六も歳が離れている。後継者が決まっている中で産まれた王子は、政略的に使えないと邪険にされていたらしい。
「私に聞こえる様に女だったら良かったとか、武に長けていれば騎士団団長にしてやったとかね」
本当にそんな事がと疑問が浮かんだけど、高位の貴族から避けられている殿下。周囲のその態度を考えると否定出来なかった。
「五歳の子供の前で言う事ではないけど、彼らの言いたい事も理解できた。人間不信になっていた時、君と会ったんだ。何の忖度もなく話をしてくれたのは君が初めてだったんだ」
「たったそれだけで……」
話を聞いて浮かんだ言葉はその一言だった。それだけの事が一生を左右する事には思えない。
「情報屋を女避けに使うなとキャサリンに叱られたよ」
殿下の話では婿に迎えて王家と繋がりも持ちたい人か、仕事を押し付けて遊んで暮らしたいと考える人が取り込もうと近づいて来ていた。見え透いた魂胆と嘘と虚構の狭間で心が疲弊していた時、私の勉強に打ち込む姿に目を奪われたらしい。
「君は周囲が何を言おうがお構い無しに勉学に励み両親を助け、領地の改革を進めた」
「……買いかぶり過ぎです。ただ、我武者羅にやってきただけの事」
「その我武者羅に進む君が眩しくて羨ましく思った」
少し俯いていた殿下が改めて顔を上げると、私を真っ直ぐに見詰めてくる。その視線の強さに思わず後ろに下がろうとして背もたれに当たった。
「今はまだ信じられなくても良い。私は諦めない」
「は?」
殿下の言葉を理解出来ずに変な声が出た。そんな私を見てスクスクと小さな声で笑う殿下は、普段の作り笑いではなく少年の様に無邪気に笑う。先に立ち上がり私に手を差し出した殿下は、ずっと笑顔のままだった。
「会う度に結婚を申し込むよ。君が了承するまで何度でもね」
「本当にバカね。そんな下らない事、続ける意味ないですわ!!」
私の返事の何がおかしいのか、今度は声を出して笑い出す。そんな様子に腹をたてた私は、殿下の手を無視して会場へと一人で戻った。
「またね」
後ろから聞こえた殿下の一言は、どこか愉しげで弾んでいる。振り返ると負ける気がして、私は真っ直ぐ両親の元に戻った。
「あら、暑いの?顔が真っ赤よ」
母の言葉に無意識に両手を頬に当てた。言われてみれば、顔が暑いかも?でも、さっきまでテラスにいたのに……
「お母様、きっとダンスに疲れただけよ。大丈夫」
「そう?なら良いけど無理はしないでね」
まさか宣言通りに王弟殿下と会う度に結婚を申し込まれ、殿下から逃げ回る様になるなんてこの時は思いもしなかった。
「本当にバカね!早く諦めて下さい!!」
「まぁ、まぁ、先は長いから気長に待つよ」
「バカ!!」
end
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