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あれから月日は流れ一年。
母の体調は回復し、今では食事にさえ気をつければ普通に生活出来る様になっていた。我が家に養子を迎える話は保留になった。何故なら母が妊娠したのだ。何時までも仲の二人に呆れながらも、兄妹の誕生が今から待ち遠しい。
主治医は私が読んだ古書が気になって、店がオープンすると同時に連日通い詰め本の内容を全て現代語に訳した。オーナーの許可も得て現代語の医学資料として出版し、母と同じ病気の人から感謝されたらしい。
コリン殿下からは時々、手紙が届く。夏の暑さに大分、やられたと書かれていたが辺境伯と好みや趣味が同じ様で今の生活を楽しんでいるようだ。一番新しい手紙には、子供のいない辺境伯の養子となって一緒に治める事になったと書かれていた。
ガイは部屋に閉じ籠るのは無理だと言って半年前にギルドマスターを他の人に引き継ぐと、直ぐに一人でダンジョンへ潜ってしまった。数ヶ月後、ダンジョンを攻略したと言って我が家にやって来た時には、大量の貴金属や武器を担いでいて大騒ぎになった。その中に伝説の宝剣が混ざって今は神殿に奉られているが、本人はまた直ぐに新しいダンジョンに潜ってしまって連絡はない。
王弟殿下は、食事に行ったあの日を最後に本当に我が家に押し掛けて来る事は無くなった。同じ街に住んでいるのにコリン殿下よりも頻繁に手紙が届いている。内容は仕事の事や季節の移り変わり。あと大した内容ではないけど、本の読んだ感想を交換している。
そして、今日は陛下の誕生日を祝うパーティーの日。国中の貴族が集うこのパーティーは、婚約者のいない人は相手を探すチャンスの日でもある。その為か家族と一緒に入場するならエスコート無しでも可となっている。私もその一人でエスコート無しで両親と共に入場した。
光輝く照明の下、正装をした紳士、淑女が会話や料理を楽しみ、会場中心のホールでは今年、社交デビュー白い衣装の男女がダンスをしていた。彼らのダンスが終わると一般の人達の時間。身重の母を気遣い、私達はホールから離れた壁際の椅子に座っていた。
「シュミットガル令嬢」
家族で話をしていると名を呼ばれて視線を向けた先には王弟殿下がいた。眩しそうに一瞬だけ目を細めると、両親に頭を下げたあと私の目の前に立った。
「シュミットガル令嬢、どうか私と踊って頂けませんか?」
「……」
返答に困って両親に視線を向けると、二人は笑顔で行って来いと言わんばかりに手を振る。周りからの様子を伺う視線に居たたまれなくなって、殿下が差し出していた手に自分の手を乗せた。
「お受け致します」
そう言うとニヤリと意地の悪そうな笑顔を見せた殿下は、私の腰に手を添えてホールへと向かう。少し離れた場所から女性の悲鳴のような甲高い声が聞こえた気がしたが、殿下が邪魔して確認する事は出来なかった。
一度、音楽が止まりデビューしたての男女がホールから下がる。全員がホールから下がると、曲が変わり大人達が踊り始める。そのダンスの輪の中に入った私達は、何故か注目を集めていた。
「やっと会えた」
「律儀にお約束を守るとは思っていませんでしたわ」
そんな事を話ながら一曲、踊り終えるとホールから離れ、殿下に誘われるまま休憩用に解放されたテラスの椅子に腰掛けた。
「それで何の御用ですか?」
注目された事への抗議を込めて睨みつけると、殿下が声を出して笑ったあと私の前に跪くと両手で包む様に手を握った。
「カルラ嬢」
え?急に何かしら……しかも私の名前を呼んだ?周囲から誤解されない様に名前で呼ぶ事はなかったのに……
「どうか私と結婚して下さい」
殿下の射貫く様な強い眼差しと真っ直ぐな言葉に、私は一瞬息が止まった。
母の体調は回復し、今では食事にさえ気をつければ普通に生活出来る様になっていた。我が家に養子を迎える話は保留になった。何故なら母が妊娠したのだ。何時までも仲の二人に呆れながらも、兄妹の誕生が今から待ち遠しい。
主治医は私が読んだ古書が気になって、店がオープンすると同時に連日通い詰め本の内容を全て現代語に訳した。オーナーの許可も得て現代語の医学資料として出版し、母と同じ病気の人から感謝されたらしい。
コリン殿下からは時々、手紙が届く。夏の暑さに大分、やられたと書かれていたが辺境伯と好みや趣味が同じ様で今の生活を楽しんでいるようだ。一番新しい手紙には、子供のいない辺境伯の養子となって一緒に治める事になったと書かれていた。
ガイは部屋に閉じ籠るのは無理だと言って半年前にギルドマスターを他の人に引き継ぐと、直ぐに一人でダンジョンへ潜ってしまった。数ヶ月後、ダンジョンを攻略したと言って我が家にやって来た時には、大量の貴金属や武器を担いでいて大騒ぎになった。その中に伝説の宝剣が混ざって今は神殿に奉られているが、本人はまた直ぐに新しいダンジョンに潜ってしまって連絡はない。
王弟殿下は、食事に行ったあの日を最後に本当に我が家に押し掛けて来る事は無くなった。同じ街に住んでいるのにコリン殿下よりも頻繁に手紙が届いている。内容は仕事の事や季節の移り変わり。あと大した内容ではないけど、本の読んだ感想を交換している。
そして、今日は陛下の誕生日を祝うパーティーの日。国中の貴族が集うこのパーティーは、婚約者のいない人は相手を探すチャンスの日でもある。その為か家族と一緒に入場するならエスコート無しでも可となっている。私もその一人でエスコート無しで両親と共に入場した。
光輝く照明の下、正装をした紳士、淑女が会話や料理を楽しみ、会場中心のホールでは今年、社交デビュー白い衣装の男女がダンスをしていた。彼らのダンスが終わると一般の人達の時間。身重の母を気遣い、私達はホールから離れた壁際の椅子に座っていた。
「シュミットガル令嬢」
家族で話をしていると名を呼ばれて視線を向けた先には王弟殿下がいた。眩しそうに一瞬だけ目を細めると、両親に頭を下げたあと私の目の前に立った。
「シュミットガル令嬢、どうか私と踊って頂けませんか?」
「……」
返答に困って両親に視線を向けると、二人は笑顔で行って来いと言わんばかりに手を振る。周りからの様子を伺う視線に居たたまれなくなって、殿下が差し出していた手に自分の手を乗せた。
「お受け致します」
そう言うとニヤリと意地の悪そうな笑顔を見せた殿下は、私の腰に手を添えてホールへと向かう。少し離れた場所から女性の悲鳴のような甲高い声が聞こえた気がしたが、殿下が邪魔して確認する事は出来なかった。
一度、音楽が止まりデビューしたての男女がホールから下がる。全員がホールから下がると、曲が変わり大人達が踊り始める。そのダンスの輪の中に入った私達は、何故か注目を集めていた。
「やっと会えた」
「律儀にお約束を守るとは思っていませんでしたわ」
そんな事を話ながら一曲、踊り終えるとホールから離れ、殿下に誘われるまま休憩用に解放されたテラスの椅子に腰掛けた。
「それで何の御用ですか?」
注目された事への抗議を込めて睨みつけると、殿下が声を出して笑ったあと私の前に跪くと両手で包む様に手を握った。
「カルラ嬢」
え?急に何かしら……しかも私の名前を呼んだ?周囲から誤解されない様に名前で呼ぶ事はなかったのに……
「どうか私と結婚して下さい」
殿下の射貫く様な強い眼差しと真っ直ぐな言葉に、私は一瞬息が止まった。
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