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学園復帰編
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しおりを挟む「卒業おめでとう」
リュカ様が頭を撫でてくれる。
「頑張りましたね」
アラン先生が労いの言葉を掛けてくれる。
「新米魔法使いだねぇ」
ソフィア様の一言でモヤモヤの正体に気づいた。あ、私は魔法使いになれたけど何がやりたいんだろう?今まで回りから言われて勉強して、学園に入学してからも言われた事をやっただけ……
……私は何をやりたいんだろう……
学園に復帰して直ぐに卒業してしまった。でも、学園に残って何かしたいのか聞かれると何も浮かばない。謁見が終わって帰宅した私は脱け殻になった気分だった。
「ルナ嬢、ちょっといいか?」
夕食後、自室でベッドに座りボンヤリしているとリュカ様が訪ねてきた。何もする事がないから了承すると、ドアを開けたまま中に入り机の横の椅子に座った。
「ミューはもう寝たのか?」
「はい、昼間の件で疲れたようです……リュカ様にその椅子は小さかったですね」
私の部屋の椅子に窮屈そうに座るリュカ様は、苦笑いしながら自分の部屋の椅子は特注品だと言った。
「龍人は基本的に身体が大きいから一般的な家具は小さいんだ」
「確かにソフィア様も背が高いですもの。男性なら尚更ですね」
何気ない会話をしていたけど、リュカ様が膝に置いていた手に力を込めた事に気づいた。
「何かありましたか?」
リュカ様の態度が気になって尋ねると、少し驚いた様な表情を見せた彼は俯いて軽く息を吐き出した。
「……フッ……そうだな……」
自嘲にもみえる笑い顔で彼は、昼間の私の様子が気になったと言った。
「……そうですね。皆さんの視線が気になったと言うか……今の私に目標がないと言うか」
どうして……この人は私のモヤモヤを気づくのかしら。でも、自分でも説明のしようがない。心の整理が全然できてなくて言葉が見つからなかった。
「人は自分の常識から外れた者は、受け入れがたいのかもしれない。現に俺もいまだに拒絶されるからな」
無言になってしまった私の変わりにリュカ様が話し始める。その内容に少し驚いた。拒絶って隊長なのに?
「そうなんですか?リュカ様って騎士団に入って何年ですか?」
「うん……もうすぐ八年だな。最初の二年は魔法師団にいたからなぁ」
八年経っても受け入れないって……どうして?全く想像つかないわ。
「これは俺個人の意見だが、全ての人と仲良くするのは無理だ」
「へ?」
「育った環境や性格。要因は様々だが全く同じ環境、同じ性格の人間なんていないだろう」
リュカ様が何が言いたいのか分からず、首を傾げてしまう私の頭を撫でる彼は目を細めて笑っている。
「ルナ嬢を受け入れられない人間を気にするより、君を大切に思う人間の事を考えたらどうだ」
「大切に思う」
「ミューが大事だろう?サイオス殿も婆さんは……ほっといても大丈夫そうだが、アランは心配しすぎて胃に穴があくかもしれないな」
お腹を押さえるアラン先生の姿が頭に浮かんで声を出して笑ってしまった。先生、笑ってごめんなさい。でも、リュカ様の言う通りね。訓練場で見た怯えた顔が頭から離れなかったけど、本当に気にしないといけないのは見ず知らずの彼らじゃないわ。
「そうですね。ミューの感情が伝わってきて、余計に回りが気になったのかもしれません」
「感情が伝わった?」
「えぇ、泣いているミューから独りは嫌だとか怖いとか……自分の小さい頃と重なる所もあって……私も怖くなりました」
「そうか……きっとミューも自分だけが違う属性だから疎外感や孤独感が強いのかもな」
フッ会話が途切れて顔を上げると、リュカ様が泣いている様に見えて驚いた。涙が出ている訳でもないけど、何処か悲しげで寒そうにも見えた。そうか……この人も孤独感を知っている人なのね。魔法が使えず足掻いた過去があるから、だから何も言わなくても気づくのね。
「ありがとうございます」
「うん?何か言ったか?」
聞こえなかったのか首を傾げて聞き返す彼に、私は首を横に振って誤魔化した。
「何でもないです。明日から何をしようかなぁと思って。目標が見つからないんです」
「目標……考える暇がなくなるかもしれない。魔物討伐に同行して貰う事になりそうなんだ」
私から視線を反らしたリュカ様は、人差し指で頬を掻きながら魔物の群れの目撃情報が急増している領地がある事を教えてくれた。
「はい!?い、何時決まったんですか!!聞いてないです!」
「……婆さんが実戦したいと言ったから、今頃、カイト団長が精査しているはずだ」
「ウソでしょ……えーと、攻撃魔法の実戦練習って事ですよね?」
無言で頷くリュカ様を見て脱力してしまう。ベッドに身体半分を倒しながら大きなため息を吐き出した。えぇ、ソフィア様の言いたい事は分かりますよ。実戦で使えなければ意味がないって、よく言いますから……でも、でも……
「一言、言って欲しかったです」
「相手が婆さんだからなぁ……諦めるしかないな」
ですよね~
でも、今ウダウダ考えるより、目の前の事に集中した方が気は楽かしら?
苦笑いのリュカ様が染々と言った言葉に、私は同意するしかなかった。
こうして私の長いようで短い学園生活は終わりを迎えた。
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