上 下
79 / 91
魔物と魔女編

1

しおりを挟む
 学園を無事に卒業した私は、新米魔法使いとして新たな一歩を踏み出した。

 せっかく魔法使いになれたのに、具体的な目標は何も思い浮かばなかった。そんな中途半端な自分にモヤモヤしているけど、今日はソフィア様とリュカ様の三人で、魔物の目撃情報が急激に増えたと報告のあった領地へ状況確認と初討伐に向かっていた。




「「海だ!」」

 馬車で二日掛けて移動したヤーディアー領は、領地の半分が海に面していて貿易と漁業が盛んな街。初めて見る海に私とミューは興奮しながら窓の外を眺めていた。

「窓から顔を出すと危ないぞ」

「は~い」

 御者台に座るリュカ様に注意されて再び座ると、ソフィア様も海を眺めて目を細めていた。その表情は何処か懐かしむ様な、でも寂しそうに見えて言葉を掛ける事が出来なかった。

 街に入り大通りを抜け騎士団の支部へと到着し、馬を預けていると大きな熊の様な巨体の騎士様が出迎えてくれた。

「私は支部長のノリス・マクレガーだ。何かあれば私に言ってくれ」

「ノリス支部長、お久しぶりです」

「あ?……フリューゲル?お前、リュカ・フリューゲルか!?」

 先に挨拶したリュカ様と面識がある事に驚いていると、ノリス支部長にバシバシと痛そうな音をたてながら背中を叩かれている。カイト団長と同期のノリス支部長は、リュカ様を指導した人達の一人らしい。久しぶりの再会に、目尻を下げて嬉しそうだった。

「狂犬と呼ばれたお前が護衛とはねぇ。随分、丸くなった」

「昔話はそれくらいにしておくれ。弟子のルナもいるんだ」

 話が長くなりそうだと思ったのかソフィア様が会話を切ると、私を紹介してくれた。弟子と聞いて周囲にいた人達もザワザワと落ちつかない様子だった。弟子が子供で驚いたのかしら?なんか居たたまれないわ……

「大魔法使い殿、ご無沙汰しております。ご健勝のご様子で何よりです」

「ふん、年寄りに向かって嫌味かい」

「そんな事はございません」

「御託はいい話が聞きたい」

「では執務室へ参りましょう」

 短気なソフィア様の態度に慣れっこなのか、ノリス支部長は特に何も言わずに執務室へ向かって歩き出した。その後、私とミュー、そして最後にリュカ様が一列に並ぶ様に歩き出す。石造りの支部はお城というより要塞の様な作りで、装飾などは一切なくゴツゴツとした岩肌の壁が続いている。

「凄~い。全部、石。崩れない?」

 石造りの建物が珍しいミューは、私の腕の中でキョロキョロ視線を動かし興味津々の様子。騎士様を攻撃した後、暫くは落ち込んでいたけど今は元気になっている。

「さぁ、どうぞ」

 そう言ってノリス支部長が開けてくれたドアの先には、大きな机と応接セットが見えた。

「ここで重要な話し合いもする為、盗聴対策がしてあるので安心して下さい」

「……ちと弱いね」

 ノリス支部長が目を丸くしている間に、ソフィア様が結界を貼って外部干渉を遮断した。え?そこまでして漏洩を防ぐ意味は……重要な何かがあるの?

「大魔法使い殿、これはどういう事でしょう?」

「無理に丁寧な言葉は使わんでいい。魔女対策さ」

「は?魔女対策って……氷の魔女?」

「そうさ。私はね、この所の魔物の異常発生は魔女が何かしていると考えているのさ」

 ソフィア様はこの国全域ではなく、城から近い領地だけで魔物の異常発生の報告が始まった時期と私とミューが城の近くに引っ越しした時期が重なると言いった。

「罠の可能性もあるが放置する訳にもいかないからねぇ」

"罠"

 その一言に背中に冷や汗が流れる。学園で魔女と遭遇した時の事を思い出した私は、無意識に両手で自分を抱き締めた。

「大魔法使い殿、団長は知っているのか?」

「勿論、陛下にも報告済みさ。だからリュカを連れてきた。詳しく話は後でする。今の状況を教えておくれ」

 ソフィア様は普段通りの様子だけど、ノリス支部長の顔色は悪い。青ざめた表情のまま大きな机に地図を広げ、黒い石で目印をつけ始めた。

「この石が示す場所が目撃報告があった場所だ。今の所、人的被害は軽症者五名のみ」

 地図の上には海沿いに二十個程の石が置いてあり、水辺に集中している事が一目で分かる。素人の私でも分かる位だから、逆に違和感を感じてしまう。次に置かれたのは赤い石で人が襲われた場所を示している。赤い石は海沿いじゃない?どうしてかしら。

「負傷者の手当てはどうなっている?」

「彼らは支部内の医療施設にて経過観察中で、瘴気やられ等はみられませんね」

 ポンポン質問するソフィア様と、直ぐに返答を返すノリス支部長。テンポの速さに目を回しそうになりながら、何とかメモを取っていた。

「後でルナに診察させておくれ。この娘の回復は私以上だ」

「は?弟子の彼女はまだ未成年と聞きましたが……」

 ノリス支部長は私は見学で付いて来たと思っていたらしい。ソフィア様が否定すると焦った顔で、危険だとか子供にさせる事ではないと言って止めようとした。

「歳がなんだい?私の弟子だ。普通の娘じゃ務まらないさ」

「……成る程、それもそうか」



ノリス支部長、否定しないんですか!?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ある横柄な上官を持った直属下士官の上官並びにその妻観察日記

karon
ファンタジー
色男で女性関係にだらしのない政略結婚なら最悪パターンといわれる上官が電撃結婚。それも十六歳の少女と。下士官ジャックはふとしたことからその少女と知り合い、思いもかけない顔を見る。そして徐々にトラブルの深みにはまっていくが気がついた時には遅かった。

出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました

瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。 レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。 そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。 そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。 王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。 「隊長~勉強頑張っているか~?」 「ひひひ……差し入れのお菓子です」 「あ、クッキー!!」 「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」 第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。 そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。 ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。 *小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

処理中です...