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魔物と魔女編
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学園を無事に卒業した私は、新米魔法使いとして新たな一歩を踏み出した。
せっかく魔法使いになれたのに、具体的な目標は何も思い浮かばなかった。そんな中途半端な自分にモヤモヤしているけど、今日はソフィア様とリュカ様の三人で、魔物の目撃情報が急激に増えたと報告のあった領地へ状況確認と初討伐に向かっていた。
「「海だ!」」
馬車で二日掛けて移動したヤーディアー領は、領地の半分が海に面していて貿易と漁業が盛んな街。初めて見る海に私とミューは興奮しながら窓の外を眺めていた。
「窓から顔を出すと危ないぞ」
「は~い」
御者台に座るリュカ様に注意されて再び座ると、ソフィア様も海を眺めて目を細めていた。その表情は何処か懐かしむ様な、でも寂しそうに見えて言葉を掛ける事が出来なかった。
街に入り大通りを抜け騎士団の支部へと到着し、馬を預けていると大きな熊の様な巨体の騎士様が出迎えてくれた。
「私は支部長のノリス・マクレガーだ。何かあれば私に言ってくれ」
「ノリス支部長、お久しぶりです」
「あ?……フリューゲル?お前、リュカ・フリューゲルか!?」
先に挨拶したリュカ様と面識がある事に驚いていると、ノリス支部長にバシバシと痛そうな音をたてながら背中を叩かれている。カイト団長と同期のノリス支部長は、リュカ様を指導した人達の一人らしい。久しぶりの再会に、目尻を下げて嬉しそうだった。
「狂犬と呼ばれたお前が護衛とはねぇ。随分、丸くなった」
「昔話はそれくらいにしておくれ。弟子のルナもいるんだ」
話が長くなりそうだと思ったのかソフィア様が会話を切ると、私を紹介してくれた。弟子と聞いて周囲にいた人達もザワザワと落ちつかない様子だった。弟子が子供で驚いたのかしら?なんか居たたまれないわ……
「大魔法使い殿、ご無沙汰しております。ご健勝のご様子で何よりです」
「ふん、年寄りに向かって嫌味かい」
「そんな事はございません」
「御託はいい話が聞きたい」
「では執務室へ参りましょう」
短気なソフィア様の態度に慣れっこなのか、ノリス支部長は特に何も言わずに執務室へ向かって歩き出した。その後、私とミュー、そして最後にリュカ様が一列に並ぶ様に歩き出す。石造りの支部はお城というより要塞の様な作りで、装飾などは一切なくゴツゴツとした岩肌の壁が続いている。
「凄~い。全部、石。崩れない?」
石造りの建物が珍しいミューは、私の腕の中でキョロキョロ視線を動かし興味津々の様子。騎士様を攻撃した後、暫くは落ち込んでいたけど今は元気になっている。
「さぁ、どうぞ」
そう言ってノリス支部長が開けてくれたドアの先には、大きな机と応接セットが見えた。
「ここで重要な話し合いもする為、盗聴対策がしてあるので安心して下さい」
「……ちと弱いね」
ノリス支部長が目を丸くしている間に、ソフィア様が結界を貼って外部干渉を遮断した。え?そこまでして漏洩を防ぐ意味は……重要な何かがあるの?
「大魔法使い殿、これはどういう事でしょう?」
「無理に丁寧な言葉は使わんでいい。魔女対策さ」
「は?魔女対策って……氷の魔女?」
「そうさ。私はね、この所の魔物の異常発生は魔女が何かしていると考えているのさ」
ソフィア様はこの国全域ではなく、城から近い領地だけで魔物の異常発生の報告が始まった時期と私とミューが城の近くに引っ越しした時期が重なると言いった。
「罠の可能性もあるが放置する訳にもいかないからねぇ」
"罠"
その一言に背中に冷や汗が流れる。学園で魔女と遭遇した時の事を思い出した私は、無意識に両手で自分を抱き締めた。
「大魔法使い殿、団長は知っているのか?」
「勿論、陛下にも報告済みさ。だからリュカを連れてきた。詳しく話は後でする。今の状況を教えておくれ」
ソフィア様は普段通りの様子だけど、ノリス支部長の顔色は悪い。青ざめた表情のまま大きな机に地図を広げ、黒い石で目印をつけ始めた。
「この石が示す場所が目撃報告があった場所だ。今の所、人的被害は軽症者五名のみ」
地図の上には海沿いに二十個程の石が置いてあり、水辺に集中している事が一目で分かる。素人の私でも分かる位だから、逆に違和感を感じてしまう。次に置かれたのは赤い石で人が襲われた場所を示している。赤い石は海沿いじゃない?どうしてかしら。
「負傷者の手当てはどうなっている?」
「彼らは支部内の医療施設にて経過観察中で、瘴気やられ等はみられませんね」
ポンポン質問するソフィア様と、直ぐに返答を返すノリス支部長。テンポの速さに目を回しそうになりながら、何とかメモを取っていた。
「後でルナに診察させておくれ。この娘の回復は私以上だ」
「は?弟子の彼女はまだ未成年と聞きましたが……」
ノリス支部長は私は見学で付いて来たと思っていたらしい。ソフィア様が否定すると焦った顔で、危険だとか子供にさせる事ではないと言って止めようとした。
「歳がなんだい?私の弟子だ。普通の娘じゃ務まらないさ」
「……成る程、それもそうか」
ノリス支部長、否定しないんですか!?
せっかく魔法使いになれたのに、具体的な目標は何も思い浮かばなかった。そんな中途半端な自分にモヤモヤしているけど、今日はソフィア様とリュカ様の三人で、魔物の目撃情報が急激に増えたと報告のあった領地へ状況確認と初討伐に向かっていた。
「「海だ!」」
馬車で二日掛けて移動したヤーディアー領は、領地の半分が海に面していて貿易と漁業が盛んな街。初めて見る海に私とミューは興奮しながら窓の外を眺めていた。
「窓から顔を出すと危ないぞ」
「は~い」
御者台に座るリュカ様に注意されて再び座ると、ソフィア様も海を眺めて目を細めていた。その表情は何処か懐かしむ様な、でも寂しそうに見えて言葉を掛ける事が出来なかった。
街に入り大通りを抜け騎士団の支部へと到着し、馬を預けていると大きな熊の様な巨体の騎士様が出迎えてくれた。
「私は支部長のノリス・マクレガーだ。何かあれば私に言ってくれ」
「ノリス支部長、お久しぶりです」
「あ?……フリューゲル?お前、リュカ・フリューゲルか!?」
先に挨拶したリュカ様と面識がある事に驚いていると、ノリス支部長にバシバシと痛そうな音をたてながら背中を叩かれている。カイト団長と同期のノリス支部長は、リュカ様を指導した人達の一人らしい。久しぶりの再会に、目尻を下げて嬉しそうだった。
「狂犬と呼ばれたお前が護衛とはねぇ。随分、丸くなった」
「昔話はそれくらいにしておくれ。弟子のルナもいるんだ」
話が長くなりそうだと思ったのかソフィア様が会話を切ると、私を紹介してくれた。弟子と聞いて周囲にいた人達もザワザワと落ちつかない様子だった。弟子が子供で驚いたのかしら?なんか居たたまれないわ……
「大魔法使い殿、ご無沙汰しております。ご健勝のご様子で何よりです」
「ふん、年寄りに向かって嫌味かい」
「そんな事はございません」
「御託はいい話が聞きたい」
「では執務室へ参りましょう」
短気なソフィア様の態度に慣れっこなのか、ノリス支部長は特に何も言わずに執務室へ向かって歩き出した。その後、私とミュー、そして最後にリュカ様が一列に並ぶ様に歩き出す。石造りの支部はお城というより要塞の様な作りで、装飾などは一切なくゴツゴツとした岩肌の壁が続いている。
「凄~い。全部、石。崩れない?」
石造りの建物が珍しいミューは、私の腕の中でキョロキョロ視線を動かし興味津々の様子。騎士様を攻撃した後、暫くは落ち込んでいたけど今は元気になっている。
「さぁ、どうぞ」
そう言ってノリス支部長が開けてくれたドアの先には、大きな机と応接セットが見えた。
「ここで重要な話し合いもする為、盗聴対策がしてあるので安心して下さい」
「……ちと弱いね」
ノリス支部長が目を丸くしている間に、ソフィア様が結界を貼って外部干渉を遮断した。え?そこまでして漏洩を防ぐ意味は……重要な何かがあるの?
「大魔法使い殿、これはどういう事でしょう?」
「無理に丁寧な言葉は使わんでいい。魔女対策さ」
「は?魔女対策って……氷の魔女?」
「そうさ。私はね、この所の魔物の異常発生は魔女が何かしていると考えているのさ」
ソフィア様はこの国全域ではなく、城から近い領地だけで魔物の異常発生の報告が始まった時期と私とミューが城の近くに引っ越しした時期が重なると言いった。
「罠の可能性もあるが放置する訳にもいかないからねぇ」
"罠"
その一言に背中に冷や汗が流れる。学園で魔女と遭遇した時の事を思い出した私は、無意識に両手で自分を抱き締めた。
「大魔法使い殿、団長は知っているのか?」
「勿論、陛下にも報告済みさ。だからリュカを連れてきた。詳しく話は後でする。今の状況を教えておくれ」
ソフィア様は普段通りの様子だけど、ノリス支部長の顔色は悪い。青ざめた表情のまま大きな机に地図を広げ、黒い石で目印をつけ始めた。
「この石が示す場所が目撃報告があった場所だ。今の所、人的被害は軽症者五名のみ」
地図の上には海沿いに二十個程の石が置いてあり、水辺に集中している事が一目で分かる。素人の私でも分かる位だから、逆に違和感を感じてしまう。次に置かれたのは赤い石で人が襲われた場所を示している。赤い石は海沿いじゃない?どうしてかしら。
「負傷者の手当てはどうなっている?」
「彼らは支部内の医療施設にて経過観察中で、瘴気やられ等はみられませんね」
ポンポン質問するソフィア様と、直ぐに返答を返すノリス支部長。テンポの速さに目を回しそうになりながら、何とかメモを取っていた。
「後でルナに診察させておくれ。この娘の回復は私以上だ」
「は?弟子の彼女はまだ未成年と聞きましたが……」
ノリス支部長は私は見学で付いて来たと思っていたらしい。ソフィア様が否定すると焦った顔で、危険だとか子供にさせる事ではないと言って止めようとした。
「歳がなんだい?私の弟子だ。普通の娘じゃ務まらないさ」
「……成る程、それもそうか」
ノリス支部長、否定しないんですか!?
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