婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ

文字の大きさ
上 下
58 / 91
学園復帰編

9

しおりを挟む
 大勢の学校関係者と一緒に門の近くまで避難すると、多くの馬車でグチャグチャになっていた。城から派遣された騎士団の人達に誘導されて次々に馬車に押し込まれる人々。魔法師団の人も到着して奥の校舎に向かって行く。異様な空気に怯えるミューを腕に抱き締めながらソフィア様を探した。

「ルナ!」

私を呼ぶ声が聞こえて辺りを見回すと、人混みの中からソフィア様の白い髪が見えた。

「ソフィア様!ここです」

 ソフィア様も私に気付いて人混みを掻き分けて進んでいく。ミューが押し潰されないように気をつけながら、やっとソフィア様と合流した時、奥の方から爆発音が響き木々を揺らした。

「キャー!」

「な、何だ今の爆発は!」

「状況はどうなっている!フリューゲル隊長からの連絡はまだか!」

 爆発の恐怖で泣き叫ぶ人やパニックになっている人。我先にと馬車に乗り込もうとする人達で更に混乱が酷くなって騎士団の誘導を無視する人まで現れた。

「ルナ、ミュー。耳をしっかり塞いでおきな」

「は、はい」

 ソフィア様の無表情が逆に怒りの大きさを語っている気がする。ミューもソフィア様の異変を感じて震えながら私に張り付く様にくっついてきた。大きく息を吸ったソフィア様の喉に魔力が集まるのを見て声で何をするのか見つめていた。

『煩い!!落ち着け!』

 ソフィア様の魔力が籠った一言で喧騒は一瞬にして無音に変わる。その場にいた全員が動きを止めている中、人混みを掻き分けケビン団長が一段高い場所に立った。

「聞け。今、騎士が先行で状況を確認中である。此よりこの場の指揮権は魔法師団団長の私となる。学園関係者は直ちに退避せよ」

 ケビン団長の指示に従い乱れていた馬車を待つ人の列は元に戻り、泣いている人も叫んでいた人も今は静かに誘導に従い順調に退避が進んでいった。

「フリューゲル団長、一年に安否不明者がいます」

「誰だ」

「生徒エリザベス・スミスと講師モーリス・クワトロ。以上、二名です」

 ケビン団長に報告が集まり始め退避の為の指示を出していく。騎士団の馬車も到着し鎧を身に付けた騎士様達が降りると、空になったその馬車に入れ替わる様に人々が乗り込み外に出て行く。騎士様達の中で一際、大きな体をした人がケビン団長の元に行き何か話していると、校舎の奥から光る玉の様な物がケビン団長の前に飛んできた。

 あれは……本で見た伝達魔法。送る側も受け取る側も相手が誰かを理解していないと内容が分からない秘密伝達だった気がする。何の伝達が来たのかその場に居た全員が注目する中、ケビン団長は光る玉を掴むと小さな声で何か言った途端にその玉は消えた。

「先行の騎士からだ。講師が先程の爆発で負傷。エリザベス・スミスは闇に呑まれた」

「対象のエリザベス・スミスは火属性と聞いた。こちらは火耐性重視で編成した」

「承知した。こちらは水属性を……」

 ケビン団長達がエリザベスをどうやって止めるか話し合っているけど、私は今すぐにでもリュカ様の元に行きたい。講師の怪我も気になるし、講師が怪我をしたならリュカ様も無傷なはずない。でも勝手に動く訳にもいかず行動出来ないモヤモヤと、何が起きているのか分からない恐怖心が私の中で拮抗していた。

リュカ様、大丈夫かな。無茶な事してないかな。話しでは聞いた事はあるけど、闇に呑まれた人に直接会った事はないし、エリザベスはどうなったんだろう。

「ルナ、私と一緒に向かうかい?」

 自分の思考に気を取られていた私は、一瞬、何を言われたのか理解出来ず返事が出来なかった。向かう?私が?私……何か出来る事ある?何も知らないのに?

「怖いかい?」

 ソフィア様の真剣な声で正気に戻った私は、首を横に振って改めて真っ直ぐ視線を合わせた。

「怖いけど行きます。何もしないで後悔するのは嫌です」

 ニヤリと笑ったソフィア様が私の横に来る。本当は怖い。でも、リュカ様もエリザベスも気になる。私でも出来る事があるなら一緒に行きたい!

「先ずは杖を出して校舎に結界を貼りな」

「はい!ミュー手伝って」

「任せて~」

 ソフィア様の指示に従い、ミューのサポートを受けて建物だけに結界を貼る。学園内の建物だけに高さも広さも必要だったから一気に1/3程魔力が減った。

「ケビン!私らは先に行くよ」

「師匠!ご令嬢まで!?」

「私の後からついてきな。何時でも対応出来る様に杖は出したままで行くよ」

「はい!」

 慌てるケビン団長に軽く手を振ると走り出したソフィア様の後ろを私も追い掛ける。ケビン団長と一緒に居た騎士様が私を見ていた気がしたけど、ソフィア様って足が速くて見失いそうで前だけを見て追い掛けた。

目的地は分かるわ。
リュカ様が向かった座学教室棟。


「え?ルナちゃん!?」

 誰かが私を呼ぶ声が聞こえたけど振り向く余裕なんてない。でも、騎士様や魔法使い様達に誰か知り合いなんて居たかしら?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜

ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。 けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。 ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。 大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。 子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。 素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。 それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。 夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。 ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。 自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。 フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。 夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。 新たに出会う、友人たち。 再会した、大切な人。 そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。 フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。 ★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。 ※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。 ※一話あたり二千文字前後となります。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月

りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。 1話だいたい1500字くらいを想定してます。 1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。 更新は不定期。 完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。 恋愛とファンタジーの中間のような話です。 主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

処理中です...