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龍人の村編
24 side リュカ
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「ルナ嬢!魔法を止めろ!!」
俺の制止の声が聞こえていないのか、彼女は魔法を止めず陣が完成する。彼女の体をすり抜ける様に火が集まり、大蛇の様な細長い体の炎の竜が森の奥へと進んで行く。
『火炎竜をやります』
彼女の魔法精度では群れに到達する前に山火事になる可能性が高い。先程、風魔法も獲物の横の木を倒していた事を考えると、最悪な事態しか想像がつかなかった。
「くそ!このままでは火事に……は?」
一人焦る俺の目の前で火力の強い魔法が森の木々を避け、草木に燃え移る事なく奥へと進む。ワーウルフの群れに炎が到達したと同時に、轟音と共に火柱が天高く登った。
一瞬で群れの多くを失ったワーウルフ達の殺気がルナ嬢に向かって放たれる。数匹が彼女に向かって飛び掛かるが、剣で凪払い倒していく。彼女を守りながらの討伐であったが、ほぼ壊滅状態の群れに纏まりは失く間もなくワーウルフの群れは討伐された。
「終わった」
その一言を呟いた彼女の体がゆっくりと傾く。咄嗟に手を伸ばして受け止めた彼女は、静かな寝息をたてていた。
「疲れたのか」
“火炎竜”はコントロールが難しい魔法だ。敵に到達すれば広範囲でも、その強い火力で焼き尽くす。しかし、途中に障害物があれば、それを避けながら術を継続させる集中力と魔力コントロールが必要になる。これだけ上級の大技を成し遂げながら、初級の魔法が苦手でコントロール出来ないなんて誰が想像するだろうか。
「普通は逆なんだがな」
返事の無い彼女に話しかけながら、抱え直す。婆さんの家へ向かった小さなドラゴンがどれくらいの飛行速度か分からないが、そう間もなく合流出来るだろう。
フッと気になってワーウルフの群れがいた場所に視線を向けると、炎は完全に消えている様に見えた。いや、待てよ。もし火種が残っていれば危険か。しかし、寝ている彼女を一人残して確認に行くのも危険。ケビン団長の様に水魔法で消火する事も、アランの様に防御魔法で守る事も出来ない俺は彼女を抱えたまま確認に行く事にした。
両手が塞がれば危険な為、右肩に担ぐ様に抱え直し森の奥へと進む。群れがいたであろう木々がなく開けたその場所は、黒い炭と化した数十匹の魔物の死体で溢れていた。
「この数は何だ……リーダーがいたにしても多すぎる」
今までに出会った群れは十匹前後か精々、二十匹。目の前の死体はどう見ても五十を超えている。俺は初めて見る大きな群れの痕に呆然と立ち尽くすしかなかった。この群れに襲われれば剣では太刀打ち出来ない。彼女が魔法で焼き尽くしていなければ、今頃、俺達は跡形も失く食い千切られていただろう。
「一体、何が起きているんだ」
ただ事ではない様子に辺りを警戒しながら調査していると、リーダーらしき大きな個体の遺体を見つけた。大きな個体を中心に群れは集まった形跡があり、多くの死体が折り重なっている。重なった死体を剣で横に動かそうとすると、ボロボロと崩れ落ちる。埃が舞わないように静かに歩き大きな個体の側に進むと違和感を感じた。
この個体は何だ……何かが違う。何が違う?解析にも反応しないが……確かに何が
「これは」
魔法解析にも反応しないほど小さな違和感の正体を知りたくて、もう一度、大きな個体に視線を向けてやっと気付いたのは小さな窪み。大きな個体の胸の心臓の辺りに、小さく明らかに丸い不自然な窪み。他の個体にはついていないその窪みに微かな魔力の痕跡に気づいて手を伸ばした。
「リュカ!ルナ!」
婆さんの声が聞こえて視線を動かした次の瞬間、森の中ではあり得ない程の突風に打ち付けられ、咄嗟にその場を離れ木々の間に身を隠す。木枯らしを思わせる突風が止まった時には、ワーウルフの燃えカスは全て吹き飛ばされて焦げた地面だけが残っていた。
「無事かい?」
「あぁ、問題ない」
婆さんに返事をしながらも先程見つけた痕跡を探すが、風に吹き飛ばされ解析も追跡も出来なかった。合流した婆さんにワーウルフと遭遇してから今までの出来事を伝えると、腕を組み眉間に深いシワを寄せて唸り声を上げた。
「確認したいことがあるから帰るよ」
今は何も話す気はないらしい婆さんは、一言言うと背中を向け歩き始めた。ドラゴンはルナ嬢の様子が気になるのか、俺の頭に乗って彼女の顔を除き込んだ。
「寝ているだけだから心配ない。帰るぞ」
「キュ!」
返事をするように一言鳴くと、ドラゴンは婆さんの後を追うように飛び立った。担ぐように抱えていたルナ嬢の向きを横抱きに変えると、婆さんの後を追い掛ける為一歩踏み出した時、焼け跡から何か聞こえた気がして振り返った。
「気のせい?」
辺りをもう一度確認したが、何も見つけられず再び歩き出した。
『ふふ、み~つけた』
俺の制止の声が聞こえていないのか、彼女は魔法を止めず陣が完成する。彼女の体をすり抜ける様に火が集まり、大蛇の様な細長い体の炎の竜が森の奥へと進んで行く。
『火炎竜をやります』
彼女の魔法精度では群れに到達する前に山火事になる可能性が高い。先程、風魔法も獲物の横の木を倒していた事を考えると、最悪な事態しか想像がつかなかった。
「くそ!このままでは火事に……は?」
一人焦る俺の目の前で火力の強い魔法が森の木々を避け、草木に燃え移る事なく奥へと進む。ワーウルフの群れに炎が到達したと同時に、轟音と共に火柱が天高く登った。
一瞬で群れの多くを失ったワーウルフ達の殺気がルナ嬢に向かって放たれる。数匹が彼女に向かって飛び掛かるが、剣で凪払い倒していく。彼女を守りながらの討伐であったが、ほぼ壊滅状態の群れに纏まりは失く間もなくワーウルフの群れは討伐された。
「終わった」
その一言を呟いた彼女の体がゆっくりと傾く。咄嗟に手を伸ばして受け止めた彼女は、静かな寝息をたてていた。
「疲れたのか」
“火炎竜”はコントロールが難しい魔法だ。敵に到達すれば広範囲でも、その強い火力で焼き尽くす。しかし、途中に障害物があれば、それを避けながら術を継続させる集中力と魔力コントロールが必要になる。これだけ上級の大技を成し遂げながら、初級の魔法が苦手でコントロール出来ないなんて誰が想像するだろうか。
「普通は逆なんだがな」
返事の無い彼女に話しかけながら、抱え直す。婆さんの家へ向かった小さなドラゴンがどれくらいの飛行速度か分からないが、そう間もなく合流出来るだろう。
フッと気になってワーウルフの群れがいた場所に視線を向けると、炎は完全に消えている様に見えた。いや、待てよ。もし火種が残っていれば危険か。しかし、寝ている彼女を一人残して確認に行くのも危険。ケビン団長の様に水魔法で消火する事も、アランの様に防御魔法で守る事も出来ない俺は彼女を抱えたまま確認に行く事にした。
両手が塞がれば危険な為、右肩に担ぐ様に抱え直し森の奥へと進む。群れがいたであろう木々がなく開けたその場所は、黒い炭と化した数十匹の魔物の死体で溢れていた。
「この数は何だ……リーダーがいたにしても多すぎる」
今までに出会った群れは十匹前後か精々、二十匹。目の前の死体はどう見ても五十を超えている。俺は初めて見る大きな群れの痕に呆然と立ち尽くすしかなかった。この群れに襲われれば剣では太刀打ち出来ない。彼女が魔法で焼き尽くしていなければ、今頃、俺達は跡形も失く食い千切られていただろう。
「一体、何が起きているんだ」
ただ事ではない様子に辺りを警戒しながら調査していると、リーダーらしき大きな個体の遺体を見つけた。大きな個体を中心に群れは集まった形跡があり、多くの死体が折り重なっている。重なった死体を剣で横に動かそうとすると、ボロボロと崩れ落ちる。埃が舞わないように静かに歩き大きな個体の側に進むと違和感を感じた。
この個体は何だ……何かが違う。何が違う?解析にも反応しないが……確かに何が
「これは」
魔法解析にも反応しないほど小さな違和感の正体を知りたくて、もう一度、大きな個体に視線を向けてやっと気付いたのは小さな窪み。大きな個体の胸の心臓の辺りに、小さく明らかに丸い不自然な窪み。他の個体にはついていないその窪みに微かな魔力の痕跡に気づいて手を伸ばした。
「リュカ!ルナ!」
婆さんの声が聞こえて視線を動かした次の瞬間、森の中ではあり得ない程の突風に打ち付けられ、咄嗟にその場を離れ木々の間に身を隠す。木枯らしを思わせる突風が止まった時には、ワーウルフの燃えカスは全て吹き飛ばされて焦げた地面だけが残っていた。
「無事かい?」
「あぁ、問題ない」
婆さんに返事をしながらも先程見つけた痕跡を探すが、風に吹き飛ばされ解析も追跡も出来なかった。合流した婆さんにワーウルフと遭遇してから今までの出来事を伝えると、腕を組み眉間に深いシワを寄せて唸り声を上げた。
「確認したいことがあるから帰るよ」
今は何も話す気はないらしい婆さんは、一言言うと背中を向け歩き始めた。ドラゴンはルナ嬢の様子が気になるのか、俺の頭に乗って彼女の顔を除き込んだ。
「寝ているだけだから心配ない。帰るぞ」
「キュ!」
返事をするように一言鳴くと、ドラゴンは婆さんの後を追うように飛び立った。担ぐように抱えていたルナ嬢の向きを横抱きに変えると、婆さんの後を追い掛ける為一歩踏み出した時、焼け跡から何か聞こえた気がして振り返った。
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辺りをもう一度確認したが、何も見つけられず再び歩き出した。
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