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婚約破棄編

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 真剣な表情で話し合う二人には悪いけど、私には呪具の心当たりが全く無い。婚約者のハリソン様は初対面の時から格下の私との婚約を嫌がり、手紙のやり取りや誕生日のプレゼント等、婚約者から何かが届く事は一度もなかった。私から誕生日プレゼントを贈ったけど御礼状も来たこと無いわ。呪具って一体、どんな形かしら?

「あの……お話し中にすみません。呪具とはどんな形なのでしょうか?婚約者から贈り物して頂いた事が無いので心当たりがなくて……」

 自分で質問していてなんだけど、コレって凄く寂しい人じゃない?婚約者から怒鳴られ贈り物はなくエスコートもされない。そう『名ばかりの婚約者』ってこの事よね?

「婚約者だったのに贈り物を貰っていないのですか?」

 フリューゲル様が不思議そうに首を傾げます。身体が大きい割りに可愛い仕草が似合うなんて美形の特権ですか?お兄様も横で考え込まないで下さい。自分が哀れになってきますわ。

「そうだ。婚約が成立した時、侯爵様から渡された指輪がなかったか?」

「それなら絶対に外さない様に言われて今もここに」

 兄が思い出したのは幼い頃、婚約が成立したその日に渡された指輪でした。もう十年前に渡された指輪は、左手の小指にはめられています。その手を差し出しフリューゲル様の前に差し出すと確かめる様にそっと指輪に触れようした瞬間、バリバリと音がして弾かれました。私にも静電気の様なビリビリとした感覚があり、思わず差し出した手を身体に引き寄せました。

「これは……危険だ」

 フリューゲル様の瞳が一瞬だけ強く光ると、もう一度手を出して欲しいと頼まれた。触る事の出来ない私の手を彼は自分の両手で包む様に覆うと、何か小さな声で呟いてます。

「§∑∇∂₩∬∌∆」

 聞きなれない言葉が微かに聞こえると、パチと何かが弾ける音と共に指輪の中央に付けられていた小さな石にヒビが入り輝きが消えました。それと同時に私の身体から力が抜けて座っていられず、目の前にいたフリューゲル様に支えられました。目が回るわ……何これ……

「今、妹に何をした」

 兄が怒気を孕む不機嫌な声でフリューゲル様に問うと、彼は少しだけホッとしたように息を吐き出した。

「黙ってしたことには謝罪します。しかし、今、呪具の効果を消さなければ彼女の魔力は奪われ続けたでしょう」

「話が見えない。妹の魔力はこの指輪に奪われていたと?」

 喧嘩腰の兄を止めたくても目が回っていて気持ち悪い私は言葉を発せずにいた。動けない私を椅子に座り直させた後、フリューゲル様が細かい説明をしてくれた。

 その内容は、呪具を通して私の魔力はハリソン様に奪われていた事。ハリソン様は呪具の効果をよく知らない事。魔法が使えない原因も呪具に魔法が発動しようとして高まった魔力を奪われた為に魔法陣が消えた可能性が高い事。

そして、ハリソン様が城の牢屋に入れられた事。

 情報量が多すぎてついていけないわ。つまり……

「全ては侯爵様に頂いたこの指輪が原因という事でしょうか?」

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