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愛しの番

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 水晶に浮かぶその姿を見てから、会いたくて会いたくて恋い焦がれた相手が近付いてくる。両手に構えていた魔法を消すと、私は両手を天に向けた。

「何やってんだ!?ドラゴンが来るんだぞ!逃げなきゃ死ぬぞ!」

「黙れ」

 私は言葉に魔力を乗せて、黙らせると彼ら4人を無視してドラゴンが降りて来るのを静かに待っていた。
 校舎の前で良かった。広いスペースがあるから、彼が降りて来ても大丈夫だわ。

「まさか……あれは隠しキャラ……」

 黙らせた筈のピンク娘が何か喋っているけど、私はドラゴンに夢中で気にも止めなかった。学校の上空で一度、止まったドラゴンは小さく泣くと、自分を人の姿に変えて私の目の前に降りてきた。

 白銀の鱗と同じ髪に、アクアマリンの瞳。やっと会えた。

『やっと見つけた……私の番の娘よ』

「初めまして、オリビア・ゲーリーと申します。私の番様」

 冒険者の格好をしていた私は、服装に合わせて膝を付いて頭を垂れる。私の目の前に差し出された手を取り、改めて顔を上げてドラゴンを見詰める。お互いの視線が絡み合い、身体の奥から新しい熱が産まれた気がした。彼の優しく美しい瞳の奥に燃える情熱を感じる。あぁ、同じ気持ちなんだ。

「あ、あの!ライオネル様、私、マリーナって……ヒッ」

 ピンク娘が名前を口にした瞬間、彼の瞳から優しさが消え氷河の様な冷たさが浮かぶ。その瞳に気付いたピンク娘が、息を詰まらせている。

『キサマに名を呼ぶ許可を出した覚えはない。次は無いぞ』

 ドラゴンからの警告に、男三人は真っ白な顔で芋虫の様に踠いて距離を取った。どうやら名前を呼ばれるのは嫌いらしい。どうして彼女は、彼の名前を知っているの?私も、知らないのに……何故?それにしても困ったわ。

「では、私は貴方を何と呼べば良いのでしょうか?」

 素直に訪ねると私に向き直った彼は、目尻を下げて笑った。
うわ!笑うと可愛い!!はぁ~、綺麗で格好良くて……彼を表す言葉が足りない。

『オリビア、そなたは我が名を呼ぶ事に許可など要らぬ。我の最愛なのだから』

 "最愛"その一言で、今までの全てが報われた気がした。

外見での差別や侮蔑。家族や一部の仲間達以外の理解者がほぼ無く、苦しかった事の全ては今日の為なら気にもならない。至福を味わう私の耳に、甲高い叫び声が届いた。

「どうして!どうして私じゃないのよ!」

 拘束魔法で動けない筈のピンク娘が立ち上がり、私に憎悪の眼差しを向ける。何処か焦点の合わない瞳が、再び、ライオネルへ向けられた。

「あんな……あんな虐めをする人間は、貴方に相応しくない!」

「私が貴女を虐めていたと、言われるのですか?それは貴女の自作自演でしょう」

 どうやらマリーナって生徒は、ピンク娘で間違い。虐めは自作自演ってバレてますから、そんなに驚いた顔をしてなくても良いですよ。

「その件なら、学校長から謹慎の仮処分が出てる筈ですが?」

「どうして悪役令嬢が番なのよ!私が……私は皆に愛されるヒロインなのに!!」


 愛されるヒロイン


……自分で言ってて恥ずかしく無いの?

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