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前編
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「ヒース、手紙だってよ」
「ありがとう」
貴族の子供が全員通わなければならないこの学園では、余程の理由がない限り寮に入らねばならない。一年後に卒業を控えた今、生徒会会長の仕事と家の仕事で多忙を極めていた。副会長の同級生から渡された手紙は父親から。珍しい相手からの手紙に、仕事の手を止めて内容を確認すると、婚約解消の手続きに必要な書類が同封されていた。
『早急にサインして返却する事』
端的な内容の手紙に理解が追い付かない。婚約解消の書類には交流が無いと理由が書かれていた。同じ学園に通いながら、一切の交流がなければ婚約解消の理由になる。頭では理解出来ても納得出来なかった。
『確かに、お茶会も休日に出掛けなかったが交流がない?そう言う相手からの手紙も来ていないし、向こうから会いに来たこともないではないか』
一方的に自分だけに責任があるような内容に納得出来ず、書類は残っていたが婚約者に会いに行くことにした。
直接会って確かめよう。
そう思って一つ年下の婚約者がいる教室へ向かうと、侍女に手を引かれ濃い色の眼鏡を掛けた彼女が杖を頼りに歩いて帰宅しようとしていた。
……これは……どうして……
自分の存在に気付いた侍女が親の仇の様に睨んでいる。怒りより憎悪と表現するのに相応しい表情の侍女が、彼女に何か囁くと首を傾げ返事をしている。ゆっくりと私の方に顔を向けた彼女の頬には大きなガーゼが貼られていた。
「何方かいらっしゃるのですか?」
「ッ……私だ」
私の声を聞いても誰か分からないのか首を傾げ考える仕草をみせる。いったい何があったんだ?
「お嬢様、元婚約者様で御座います」
「あぁ、申し訳御座いません。長い事、お会いしておりませんでしたので、お声だけでは分かりませんでした」
「……その傷は……」
「傷はと聞かれましても訳なら手紙を出してご連絡いたしましたがお読みになられていないのですか?」
その少し呆れた様な言い方にイラッとしたが、最近届いた手紙を放置していた覚えのある自分には何も言えなかった。
「仕事で忙しいと連絡していたはずだが?」
「えぇ、忙しいから会いに来るなと仰ったので手紙でお知らせいたしましたの。お読み頂けないなら、そうご連絡下されば良かったのでは?」
今まで言い返す事のなかった彼女が言い返す姿に驚きながらも、婚約解消の理由を尋ねた。
「解消の理由は書類を見て頂けたらお分かりかと」
「分からないからここにいる」
あからさまに大きなため息を吐いた彼女は、濃い色の眼鏡越しに私を真っ直ぐに見詰め返した。
「分からないとは驚きですわ。怪我の理由すら理解していないほど薄い関係での婚姻など無意味で御座いましょう?」
「ならば理由を教えてくれ」
「はぁ……それが人に物を頼む態度ですか?最後の情けでお教え致します。怪我の原因は貴方様で御座います」
「は?何を……」
「貴方様の態度が、婚約者を蔑ろにした態度が招いた結果で御座います」
「ありがとう」
貴族の子供が全員通わなければならないこの学園では、余程の理由がない限り寮に入らねばならない。一年後に卒業を控えた今、生徒会会長の仕事と家の仕事で多忙を極めていた。副会長の同級生から渡された手紙は父親から。珍しい相手からの手紙に、仕事の手を止めて内容を確認すると、婚約解消の手続きに必要な書類が同封されていた。
『早急にサインして返却する事』
端的な内容の手紙に理解が追い付かない。婚約解消の書類には交流が無いと理由が書かれていた。同じ学園に通いながら、一切の交流がなければ婚約解消の理由になる。頭では理解出来ても納得出来なかった。
『確かに、お茶会も休日に出掛けなかったが交流がない?そう言う相手からの手紙も来ていないし、向こうから会いに来たこともないではないか』
一方的に自分だけに責任があるような内容に納得出来ず、書類は残っていたが婚約者に会いに行くことにした。
直接会って確かめよう。
そう思って一つ年下の婚約者がいる教室へ向かうと、侍女に手を引かれ濃い色の眼鏡を掛けた彼女が杖を頼りに歩いて帰宅しようとしていた。
……これは……どうして……
自分の存在に気付いた侍女が親の仇の様に睨んでいる。怒りより憎悪と表現するのに相応しい表情の侍女が、彼女に何か囁くと首を傾げ返事をしている。ゆっくりと私の方に顔を向けた彼女の頬には大きなガーゼが貼られていた。
「何方かいらっしゃるのですか?」
「ッ……私だ」
私の声を聞いても誰か分からないのか首を傾げ考える仕草をみせる。いったい何があったんだ?
「お嬢様、元婚約者様で御座います」
「あぁ、申し訳御座いません。長い事、お会いしておりませんでしたので、お声だけでは分かりませんでした」
「……その傷は……」
「傷はと聞かれましても訳なら手紙を出してご連絡いたしましたがお読みになられていないのですか?」
その少し呆れた様な言い方にイラッとしたが、最近届いた手紙を放置していた覚えのある自分には何も言えなかった。
「仕事で忙しいと連絡していたはずだが?」
「えぇ、忙しいから会いに来るなと仰ったので手紙でお知らせいたしましたの。お読み頂けないなら、そうご連絡下されば良かったのでは?」
今まで言い返す事のなかった彼女が言い返す姿に驚きながらも、婚約解消の理由を尋ねた。
「解消の理由は書類を見て頂けたらお分かりかと」
「分からないからここにいる」
あからさまに大きなため息を吐いた彼女は、濃い色の眼鏡越しに私を真っ直ぐに見詰め返した。
「分からないとは驚きですわ。怪我の理由すら理解していないほど薄い関係での婚姻など無意味で御座いましょう?」
「ならば理由を教えてくれ」
「はぁ……それが人に物を頼む態度ですか?最後の情けでお教え致します。怪我の原因は貴方様で御座います」
「は?何を……」
「貴方様の態度が、婚約者を蔑ろにした態度が招いた結果で御座います」
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