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小さな友人が心配で森の前で落ち着かない中、森の中と私の後ろから悲鳴が響いた。森の中はともかく後ろは……
恐る恐る振り返ると団長さんの足元で、蔦が体に食い込み腕が曲がった男性が真っ白な顔で叫んでいた。
「黙れ、次は無いと言っただろう」
淡々と話す団長さんは普段の負けず嫌いな可愛い姿は一切なく、冷静で非情なその態度と表情を見て背中にゾクリと冷たいモノが走る。これは……誰?本当に同じ人なの?
「マーク、見付けたよ」
友人の声に視線を向けると、森の中から数人の男が煤だらけの姿で現れた。また、森の中で火を吐いたのね。以前もそれでトラブルになったのに。
「うん?どれ……ドラゴン殿は凄いな。これで全員を捕まえられた」
団長さんが友人の言葉に反応して座り込んだ男達に視線を向ける。笑顔で彼が頷くと、友人は嬉しそうに飛び上がった。
「本当!やった。ルーシー、僕、凄い?」
「えぇ、凄いわ。サラも強くなったわね。ありがとう」
無邪気にはしゃぐ小さな友人の頭を撫でた団長さんは、残りの襲撃犯も蔦で拘束してからギルマスに連絡した。
「襲撃犯を捕まえたから迎えに来い……人数は十五人だ……は?多すぎる?しるか。さっさと来い」
通信機越しにギルマスと言い争う姿と、先ほどの姿が違い過ぎて理解出来ないでいると、小さな友人が私の側にきて小さな声で話始めた。
「彼は強いね。僕、安心したよ」
何の事か分からず尋ねると、ずっと心配だったと友人が言う。心配って私の何が?
「だってルーシーはさぁ。ダイが裏切ってから誰も近付けなかったし、こんな風に一緒に行動する事もなかったでしよう」
「それは、偶々タイミングが……」
「違うよね。怖かったんだよね。だから、ルーシーは相手を名前で呼ばないんだよね」
小さな友人の言葉に返す言葉が見つからない。確かに私は滅多に名前で呼ばない。深入りするのも、されるのも嫌だから。でもそれが怖かったから?私が何を?……私は……
「ルーシー、大丈夫か?顔色が悪いぞ」
グルグルと考え込んでいた私は聞こえた声につられて顔を上げた。至近距離にあった団長さんの顔に驚きながらも、大丈夫と返事をしたが彼は納得しなかった。
「まだ、魔力も安定していないし早めに帰ろう」
「……でも……来たばかりじゃない」
友人とろくに話もしないうちに帰宅を言われて私が拒否しても、団長さんは友人の方へ顔を向けてしまった。話を聞いているのかしら?私はまだ帰りたくないのに……
「ドラゴン殿、明後日に出直しても大丈夫か?」
「僕はサラだよ」
友人が団長さんに名前で呼ぶ様に言うと、一瞬、目を丸くした彼は次の瞬間、笑顔に変わった。
「サラ。ルーシーの体調が悪そうだから明後日にまた来たいが大丈夫か?」
「うん!大丈夫~。ルーシー!元気になってまた遊んでね」
「えぇ、分かったわ……ごめんなさい」
友人にまで帰る様に言われれば、これ以上、拒否も出来ない。渋々、頷くと“コレ”と言って友人は脱皮の皮と鱗を三枚を私にくれた。脱皮の皮はドラゴンが本来なら自分で食べて栄養にする。たまに食べきれずに残ったモノを友人は持って来てくれた。その皮は普段は見付けられない貴重な素材で、団長さんも初めて見たと言って手に取って見ていたけど私は頭の中で、さっきの言葉がグルグルと回っていた。
「ルーシー?」
「え?」
「本当にどうしたんだ?俺が近付いても気付かないなんて……熱はなさそうだが……」
呼ばれて俯いていた顔を上げると、団長さんの手が額に触れる。大きくてゴツゴツした手と、真っ直ぐに向けられた視線に動けなくなった。私は……怖かった?……私は団長さんが怖かった?どうして?
「ルーシー、大丈夫?僕は余計な事言った?」
「違うわよ。サラのせいじゃないわ。ちょっと考え事をしていただけよ」
友人の泣きそうな表情を見て、慌てて否定したけど、友人は不安げに私の顔を覗き込んできた。ごめんね、不安にさせて。
「本当?」
「えぇ、休めば大丈夫よ。明後日にまた、来るわね」
「約束だよ!」
次の約束が嬉しいと私の回りをグルグルと飛んだ友人が、目を回してフラフラと着地する。驚いた団長さんが友人の側に座り体調を確認している。
「マークは心配性だね。小さくても僕はドラゴンだよ。直ぐに元気になるよ」
「そうだな。それでも友の心配はする」
「友?僕、友達?」
不思議そうに首を傾げる友人に視線を合わせた団長さんがはっきりと頷く。そして、彼は友人に向かって手を差し出した。
「そうなりたいが駄目か?」
「ダメじゃない!僕もマークと友達になるよ」
友人と仲良くなった団長さんが羨ましい。直ぐに相手を受け入れる心の広さと強さが羨ましくて、二人で明後日の予定を考える姿に自分だけ取り残された様な気持ちになった。
自分から距離を取ったクセに……バカね……私に寂しいなんて言う資格はないのに……
恐る恐る振り返ると団長さんの足元で、蔦が体に食い込み腕が曲がった男性が真っ白な顔で叫んでいた。
「黙れ、次は無いと言っただろう」
淡々と話す団長さんは普段の負けず嫌いな可愛い姿は一切なく、冷静で非情なその態度と表情を見て背中にゾクリと冷たいモノが走る。これは……誰?本当に同じ人なの?
「マーク、見付けたよ」
友人の声に視線を向けると、森の中から数人の男が煤だらけの姿で現れた。また、森の中で火を吐いたのね。以前もそれでトラブルになったのに。
「うん?どれ……ドラゴン殿は凄いな。これで全員を捕まえられた」
団長さんが友人の言葉に反応して座り込んだ男達に視線を向ける。笑顔で彼が頷くと、友人は嬉しそうに飛び上がった。
「本当!やった。ルーシー、僕、凄い?」
「えぇ、凄いわ。サラも強くなったわね。ありがとう」
無邪気にはしゃぐ小さな友人の頭を撫でた団長さんは、残りの襲撃犯も蔦で拘束してからギルマスに連絡した。
「襲撃犯を捕まえたから迎えに来い……人数は十五人だ……は?多すぎる?しるか。さっさと来い」
通信機越しにギルマスと言い争う姿と、先ほどの姿が違い過ぎて理解出来ないでいると、小さな友人が私の側にきて小さな声で話始めた。
「彼は強いね。僕、安心したよ」
何の事か分からず尋ねると、ずっと心配だったと友人が言う。心配って私の何が?
「だってルーシーはさぁ。ダイが裏切ってから誰も近付けなかったし、こんな風に一緒に行動する事もなかったでしよう」
「それは、偶々タイミングが……」
「違うよね。怖かったんだよね。だから、ルーシーは相手を名前で呼ばないんだよね」
小さな友人の言葉に返す言葉が見つからない。確かに私は滅多に名前で呼ばない。深入りするのも、されるのも嫌だから。でもそれが怖かったから?私が何を?……私は……
「ルーシー、大丈夫か?顔色が悪いぞ」
グルグルと考え込んでいた私は聞こえた声につられて顔を上げた。至近距離にあった団長さんの顔に驚きながらも、大丈夫と返事をしたが彼は納得しなかった。
「まだ、魔力も安定していないし早めに帰ろう」
「……でも……来たばかりじゃない」
友人とろくに話もしないうちに帰宅を言われて私が拒否しても、団長さんは友人の方へ顔を向けてしまった。話を聞いているのかしら?私はまだ帰りたくないのに……
「ドラゴン殿、明後日に出直しても大丈夫か?」
「僕はサラだよ」
友人が団長さんに名前で呼ぶ様に言うと、一瞬、目を丸くした彼は次の瞬間、笑顔に変わった。
「サラ。ルーシーの体調が悪そうだから明後日にまた来たいが大丈夫か?」
「うん!大丈夫~。ルーシー!元気になってまた遊んでね」
「えぇ、分かったわ……ごめんなさい」
友人にまで帰る様に言われれば、これ以上、拒否も出来ない。渋々、頷くと“コレ”と言って友人は脱皮の皮と鱗を三枚を私にくれた。脱皮の皮はドラゴンが本来なら自分で食べて栄養にする。たまに食べきれずに残ったモノを友人は持って来てくれた。その皮は普段は見付けられない貴重な素材で、団長さんも初めて見たと言って手に取って見ていたけど私は頭の中で、さっきの言葉がグルグルと回っていた。
「ルーシー?」
「え?」
「本当にどうしたんだ?俺が近付いても気付かないなんて……熱はなさそうだが……」
呼ばれて俯いていた顔を上げると、団長さんの手が額に触れる。大きくてゴツゴツした手と、真っ直ぐに向けられた視線に動けなくなった。私は……怖かった?……私は団長さんが怖かった?どうして?
「ルーシー、大丈夫?僕は余計な事言った?」
「違うわよ。サラのせいじゃないわ。ちょっと考え事をしていただけよ」
友人の泣きそうな表情を見て、慌てて否定したけど、友人は不安げに私の顔を覗き込んできた。ごめんね、不安にさせて。
「本当?」
「えぇ、休めば大丈夫よ。明後日にまた、来るわね」
「約束だよ!」
次の約束が嬉しいと私の回りをグルグルと飛んだ友人が、目を回してフラフラと着地する。驚いた団長さんが友人の側に座り体調を確認している。
「マークは心配性だね。小さくても僕はドラゴンだよ。直ぐに元気になるよ」
「そうだな。それでも友の心配はする」
「友?僕、友達?」
不思議そうに首を傾げる友人に視線を合わせた団長さんがはっきりと頷く。そして、彼は友人に向かって手を差し出した。
「そうなりたいが駄目か?」
「ダメじゃない!僕もマークと友達になるよ」
友人と仲良くなった団長さんが羨ましい。直ぐに相手を受け入れる心の広さと強さが羨ましくて、二人で明後日の予定を考える姿に自分だけ取り残された様な気持ちになった。
自分から距離を取ったクセに……バカね……私に寂しいなんて言う資格はないのに……
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