上 下
45 / 59

45

しおりを挟む
 小さな友人が心配で森の前で落ち着かない中、森の中と私の後ろから悲鳴が響いた。森の中はともかく後ろは……
 恐る恐る振り返ると団長さんの足元で、蔦が体に食い込み腕が曲がった男性が真っ白な顔で叫んでいた。

「黙れ、次は無いと言っただろう」

 淡々と話す団長さんは普段の負けず嫌いな可愛い姿は一切なく、冷静で非情なその態度と表情を見て背中にゾクリと冷たいモノが走る。これは……誰?本当に同じ人なの?

「マーク、見付けたよ」

 友人の声に視線を向けると、森の中から数人の男が煤だらけの姿で現れた。また、森の中で火を吐いたのね。以前もそれでトラブルになったのに。

「うん?どれ……ドラゴン殿は凄いな。これで全員を捕まえられた」

 団長さんが友人の言葉に反応して座り込んだ男達に視線を向ける。笑顔で彼が頷くと、友人は嬉しそうに飛び上がった。

「本当!やった。ルーシー、僕、凄い?」

「えぇ、凄いわ。サラも強くなったわね。ありがとう」

 無邪気にはしゃぐ小さな友人の頭を撫でた団長さんは、残りの襲撃犯も蔦で拘束してからギルマスに連絡した。

「襲撃犯を捕まえたから迎えに来い……人数は十五人だ……は?多すぎる?しるか。さっさと来い」

 通信機越しにギルマスと言い争う姿と、先ほどの姿が違い過ぎて理解出来ないでいると、小さな友人が私の側にきて小さな声で話始めた。

「彼は強いね。僕、安心したよ」

 何の事か分からず尋ねると、ずっと心配だったと友人が言う。心配って私の何が?

「だってルーシーはさぁ。ダイが裏切ってから誰も近付けなかったし、こんな風に一緒に行動する事もなかったでしよう」

「それは、偶々タイミングが……」

「違うよね。怖かったんだよね。だから、ルーシーは相手を名前で呼ばないんだよね」

 小さな友人の言葉に返す言葉が見つからない。確かに私は滅多に名前で呼ばない。深入りするのも、されるのも嫌だから。でもそれが怖かったから?私が何を?……私は……

「ルーシー、大丈夫か?顔色が悪いぞ」

 グルグルと考え込んでいた私は聞こえた声につられて顔を上げた。至近距離にあった団長さんの顔に驚きながらも、大丈夫と返事をしたが彼は納得しなかった。

「まだ、魔力も安定していないし早めに帰ろう」

「……でも……来たばかりじゃない」

 友人とろくに話もしないうちに帰宅を言われて私が拒否しても、団長さんは友人の方へ顔を向けてしまった。話を聞いているのかしら?私はまだ帰りたくないのに……

「ドラゴン殿、明後日に出直しても大丈夫か?」

「僕はサラだよ」

 友人が団長さんに名前で呼ぶ様に言うと、一瞬、目を丸くした彼は次の瞬間、笑顔に変わった。

「サラ。ルーシーの体調が悪そうだから明後日にまた来たいが大丈夫か?」

「うん!大丈夫~。ルーシー!元気になってまた遊んでね」

「えぇ、分かったわ……ごめんなさい」

 友人にまで帰る様に言われれば、これ以上、拒否も出来ない。渋々、頷くと“コレ”と言って友人は脱皮の皮と鱗を三枚を私にくれた。脱皮の皮はドラゴンが本来なら自分で食べて栄養にする。たまに食べきれずに残ったモノを友人は持って来てくれた。その皮は普段は見付けられない貴重な素材で、団長さんも初めて見たと言って手に取って見ていたけど私は頭の中で、さっきの言葉がグルグルと回っていた。

「ルーシー?」

「え?」

「本当にどうしたんだ?俺が近付いても気付かないなんて……熱はなさそうだが……」

 呼ばれて俯いていた顔を上げると、団長さんの手が額に触れる。大きくてゴツゴツした手と、真っ直ぐに向けられた視線に動けなくなった。私は……怖かった?……私は団長さんが怖かった?どうして?

「ルーシー、大丈夫?僕は余計な事言った?」

「違うわよ。サラのせいじゃないわ。ちょっと考え事をしていただけよ」

 友人の泣きそうな表情を見て、慌てて否定したけど、友人は不安げに私の顔を覗き込んできた。ごめんね、不安にさせて。

「本当?」

「えぇ、休めば大丈夫よ。明後日にまた、来るわね」

「約束だよ!」

 次の約束が嬉しいと私の回りをグルグルと飛んだ友人が、目を回してフラフラと着地する。驚いた団長さんが友人の側に座り体調を確認している。

「マークは心配性だね。小さくても僕はドラゴンだよ。直ぐに元気になるよ」

「そうだな。それでも友の心配はする」

「友?僕、友達?」

 不思議そうに首を傾げる友人に視線を合わせた団長さんがはっきりと頷く。そして、彼は友人に向かって手を差し出した。

「そうなりたいが駄目か?」

「ダメじゃない!僕もマークと友達になるよ」

 友人と仲良くなった団長さんが羨ましい。直ぐに相手を受け入れる心の広さと強さが羨ましくて、二人で明後日の予定を考える姿に自分だけ取り残された様な気持ちになった。


 自分から距離を取ったクセに……バカね……私に寂しいなんて言う資格はないのに……

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!

神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話! 『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください! 投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!

婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ
ファンタジー
私、ルナ・ニールセン子爵令嬢。私は魔力が強い事で目を付けられ、格上のフォーラス侯爵家・長男ハリソン様と強引に婚約させられた。 ところが魔法を学ぶ学園に入学したけど、全く魔法が使えない。魔方陣は浮かぶのに魔法が発動せずに消えてしまう。練習すれば大丈夫と言われて、早三年。いまだに魔法が使えない私は“ポンコツ魔法使い”と呼ばれていた。 魔法が使えない事を不満に思っていた婚約者は、遂に我慢の限界がきたらしい。 「お前の有責で婚約は破棄する!」 そう大きな声で叫ばれて美女と何処かへ行ったハリソン様。 あの、ここ陛下主催の建国記念の大舞踏会なんですけど?いくら不満だったからってこんな所で破棄を言わなくても良いじゃない! その結果、騎士団が調査する事に。 そこで明らかになったのは侯爵様が私に掛けた呪い。 え?私、自分の魔力を盗まれてたの?婚約者は魔力が弱いから私から奪っていた!? 呪いを完全に解き魔法を学ぶ為に龍人の村でお世話になる事になった私。 呪いが解けたら魔力が強すぎて使いこなせません。 ……どうしよう。 追記 年齢を間違えていたので修正と統一しました。 ルナー15歳、サイオスー23歳 8歳差の兄妹です。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

処理中です...