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しおりを挟む「ギルマス~!!」
「ルーシー大丈夫か?」
団長さんの仕事が終わるまで私室で休ませて貰った後、私は帰宅する為に団長さんとギルマスの準備した魔道をに乗った。案の定、馬車は前回よりも激しく揺れた。目を覚ましたばかりで魔力の安定していない私は、身体強化出来ず椅子から落ちそうになって団長さんに抱き止められた。
「ごめんなさい」
「メイソンが悪いから気にしなくていい。揺れる事を想定していないな」
団長さんのため息混じりの言葉に私も同意した。速度は速く普通の馬車の半分の時間で団長さんの家に到着したけど、団長さんが支えてくれなかったら体はアザだらけなっていた。もうあり得ないわ!
「これでは公道は走れんな」
激しい揺れのせいでふらつく私を支えながら降りた団長さんは、眉間にシワを寄せて不機嫌だった。そんな団長さんの肩を叩きながらギルマスは試作品の馬車の凄さを語っている。確かに速いわよ……
「あんなに揺れたら乗っている人は怪我するわよ」
「まったくだ。危険過ぎて許可出来んな」
私達が二人で否定するとギルマスは驚いた様な表情で首を傾げた。
「揺れる……そんなにのか?」
「団長さんが支えてくれなかったらアザだけよ」
「一般人には座り続けるのは至難だ」
ギルマスは中が揺れる事を想定していなかったらしく、二人で否定されて肩を落として帰って行った。
「どうせ明日には新しい試作品を持って来るんだろうな」
苦笑いしながらそう言った団長さんは、いまだにフラフラする私の手を引き玄関のドアを開けた。大きく開いたドアの向こう側には兄妹がナタリーさんと一緒に待っていて、私を見て真っ直ぐに走って来ると二人一緒に抱き付いた。
「お姉ちゃんのバカ!遅いよ」
「本当に遅すぎるよ」
「マーシャ、テリー……遅くなってごめんね……ただいま」
「「お帰りなさい!」」
抱き付いたまま泣き出した妹の頭を撫でていると、一歩後ろで見守っていたナタリーさんの涙ぐむ姿が見えた。皆に心配かけたわね……ごめんね。そして……
「ありがとう」
心の底から出てきた言葉はその一言だった。心配してくれて、待っていてくれて……そして、見守っていてくれて……本当にありがとうね。
妹が泣き止むと全員で食堂に移動した。私の快気祝いだと言って、ナタリーさんが気合いの入った夕食を作っていてくれた。ナタリーさんの旦那さんのロンさんも加わって、賑やかな夕食は楽しくてつい食べ過ぎた兄妹はお風呂の後で、椅子に座って休んでいる。片付けを終わらすとナタリーさん夫婦が帰宅し、私と団長さんはお風呂の後でお酒の入ったグラスを片手にのんびりしていた。
「そう言えば一つ気になったんだが聞いても良いか?」
急な質問に驚きながらも了承すると、魔力増幅薬の事を聞かれた。魔術師さんも材料の入手方法が気になっていて毎日煩いらしい。あー、珍しい材料があるものね。
「あの薬の材料が気になるって、ドラゴンの鱗の事かしらねぇ」
「ドラゴンが材料なのか!?」
「驚くでしょうけど討伐はしていないわ。ドラゴンから貰ったのよ」
「は?……ドラゴンが人と交流したのか?」
グラスを落としそうになった団長さんは、慌ててグラスをテーブルに置いて私に向き直る。そう驚かなくても……ってのは無理よねぇ。
「魔物の森にファイアドラゴンが棲んでいるのは知っているわよね?」
「あぁ、すばしっこくて臆病なドラゴンだろう?」
「そう、そのドラゴンを助けたのが切っ掛けで時々、脱皮した時の脱け殻とか剥がれた鱗を貰うのよ」
知らなかったと唖然とする団長さんを見ていると笑いが溢れる。一人で森に行った時、魔物の群れに追われていたドラゴンを助けた時の話をすると、“規格外”なんてボソッと言う団長さんが可笑しくて小さく笑った。そろそろドラゴンの脱皮が終わった頃だし、久しぶりに会いたいわね。
「そうね、明日はドラゴンに会いに行って来るわ」
「いや、一人ではダメだ。俺も一緒に行く」
何気ない言葉に団長さんは直ぐにダメ出しする。まぁ、行くなじゃなくて一緒に行くって、どういうつもりなのかしらねぇ。
「どうして?」
私の端的な返しに意図を正確に理解した団長さんは、言葉を探すように視線を巡らせた。
「今、君は貴族に狙われている」
「え?どうしてかしら……市民に何を……」
「その魔力が狙われている。はっきり言ってしまえば手篭めにしようとしている奴らがいる」
団長さんの言葉を聞いて、ベアーの事を思い出した私は背筋が凍る。薬を使われたら……私は……
「メイソンが潜入調査しているが、親玉までたどり着いていない」
団長さんが言うには最近、貴族の中でも強い魔力を持つ者が少なくなりつつあって、魔力の強い私の血を入れたいと必死になっている家があるとか。本当に貴族って面倒臭いわねぇ。
「はぁ……だから両親も隠せって言ったのかしらね」
「両親がそんな事を言ったのか?」
「えぇ、信頼出来る相手以外には絶対に言うなって何度も言われたわ」
両親の真剣な顔が頭に浮かんで思わずため息がでた。幼い私が誘拐されないようにと、しつこく言っていたけど今思えばこんな事態を心配していたのかもしれないわ。
「そうか……君の両親の願いはきっと君たちが安全に過ごして欲しかったのだろうな」
「そうね……安全に市民として平凡に暮らしたいわね」
“そうか”とだけ返した団長さんは苦笑いしていた。そんな彼を見ながら私は平凡に暮らすのは無理な気がした。
両親との思い出が残る家はもう無い。
一般人として、首都で市民として暮らすなら
新しく住む家に団長さんはいない。
その事実が悲しかった。
でも、その気持ちを言葉には出来ずに話は終わって各々の部屋に戻った。
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